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E4 ~魂の叫び~  作者: たま ささみ
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第6章  朝鮮半島移民政策の終焉

研究施設の掃討作戦が終わり、日々の平穏に戻ったかのE4。

 杏が、思い出したように北斗を見た。

「九条の言っていた、”待ってる“ってのは、一体何なんだ?」

 北斗が活字新聞から目を離し、杏の声に反応する。

「仲間になれば縄を解くって。からかったんですよ、僕を」

「あれはからかってる物言いじゃなかったがな」

「そういえばチーフ。一般人の銃携行は許されてますよね」

「ああ、ペーパーテストさえ通ればな」

「僕、今迄銃を持ったことがないんですが、これからは持とうかなと」

「W4に触発されたか」

「まあ、その」


 倖田はライフル中心。西藤は素手がお得意。残るは、不破である。

「不破。北斗に銃の使い方を教えてやれ。設楽、北斗の書類を作成して申請しろ」

 設楽はIT室から出てきて、至極尤もなことを言う。

「潜入捜査に支障でないんすか」

「近頃は売り込む際に拳銃携行のペーパーがあると便利らしいぞ」


 W4といえば、青森の研究施設は壊滅させたが、FL教団そのものは2つに分れ未だに信仰を続け信者を募っていた。以前の麻田のように話が上手な祐という幹部が現れてから、麻田の真の訓えを取り戻したのだという。

 研究施設などは一切持たず、麻田導師を敬い、その訓えを実践することで魂に安らかなる日々を与えるのだとか。

 北斗はその訓えには反対の考えを持っているから、祐はどうやって人の心を掴むのか見て見たい衝動にも駆られる。

 だが、もう北斗の面は割れている。道場に通ったところで、ごみのように追い出されるのがオチだろう。


 北斗は真面目だ。

 何事にも一生懸命に取り組む。

 拳銃の発射準備に関しても、不破が下を巻くぐらい勉強している。

 あとは、命中率だけだ。

 今一度、不破が確認し、教える。


「北斗、片手で撃つ場合、次のことが重要になる」

・隙間を開けないでグリップの一番上を握る。

・指はフレームの上に置き、撃つ瞬間までトリガーガード内に指を入れない。

・銃の中心線が手首をとおるようにグリップする、そうしないと、当たらないどころか手を痛める結果になる。

「わかった?」

「たぶん」

「じゃ、握り方を実践してみよう」

 北斗は不破に言われた通り、片手で銃を握った。

「今度は、マズルジャンプについて。メモして」

 リコイル(反動)はバレル(銃身)の位置で発生し、発射時に手首を支点にして跳ね上がる「マズルジャンプ」が起こる。マズルジャンプを最小限に抑えるには、バレルから支点までの距離が可能な限り短くなくてはならない。また、低い位置でグリップすると激しくマズルジャンプするため、フレームの後退量が大きくなり、これがスライドの後退を相殺することで装填不良ローディング・ジャムが発生しやすくなる。この現象はリム・リスティングと呼ばれ、作動不良を避けるためにしっかりとグリップすることが求められる。


「次に、両手の場合だけど」

「映画でみるやつね」

「キミは右利きだよね。」

「左手の親指はどうするの」

「フレームに付ければいい」

・左手も可能な限りフレームの上の方をグリップする

・左手人差し指はトリガーガードに密着させて

・掌の底をグリップに密着させて包み込む

・内側は右手に被せ隙間なく密着させる

「いろいろあるけど、重要なのは首を傾けないで銃を目線まで上げること」

「そうなんだ」

「これによってターゲットを認識して、構えて、発砲するという一連の動作がスムーズに行われるから射撃スピードが上がる」

「自分なりに撃ってみる」

「そうそう、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ってね」

「最初から不気味なこと言わないでくれ」

「北斗なら大丈夫さ、筋がいい」



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇



 今日はE4室内で無言の杏。

 のんびりと過ごす時間が、心地よくもあり、まるで魂を失った屍のようでもある。

 杏は、カルト教団、FL教の今後について考えていた。

 

 第二のXデー計画を進めていたのだとすれば、そこには必ずオリジナルの存在があったはず。

 麻田がオリジナルでなかった以上、オリジナルは生きて今も闊歩している。

 世界中に1人のオリジナルを探すには、相当の労力と時間を要するだろう。

 さて、いかにしてこのミッションをクリアしたものか。


 杏の懸念を掻き消すように、剛田室長が妙な噂話を持って帰ってきた。確かまた、西條監理官のお供で警察府に出掛けていたのだが。

「皆、電脳を繋げ」

「了解。皆、出てきて」

 剛田室長の目は、北斗にも向けられた。

「北斗は活字オンラインで聞いてくれ」

 皆が集まり、耳たぶを強く押す。

(先程聞いた話だ。真偽はまだわからない)

 杏が身を乗り出す。

(何?)

(安室前内閣府長官が、FL教に多額の金が行き渡る様、各方面にプッシュしていたらしい)

(もしかしたら、陰のフィクサーってところ?)

(そうだな、FL教の本当の主なのは確からしい)

 北斗が杏と剛田室長の会話に交じってくる。

「となれば、オリジナルは、安室前内閣府長官なのでは?」


 皆、同時にしーんとしたまま、誰も身じろぎもしない。

 北斗は続ける。

「前から、FL教の電脳化及びマイクロヒューマノイド化を推奨する麻田導師は、何のメリットがあってそれを勧めているのか解せなかった。もしこれが安室前内閣府長官の命令だとすれば、全てのピースが当てはまります」


 麻田導師は、訓えを説きながらも、電脳化及びマイクロヒューマノイド化を全国で推奨していた。宗教関係者は、どこへでも演説にいく。研究機関のあの悍ましい実験は別としても、今だって祐現代表は麻田導師の訓えで信者を導いているはず。ならば、電脳化とマイクロヒューマノイド化を前面に押し出しても不思議ではない。

 世論をまず味方につけ、日本自治国総電脳化計画に繋がっていけば、朝鮮半島移民政策への大きな足掛かりとなるだろう。

 

 険しい道がここにきて一気に目の前に広がったのを、メンバーは皆感じ取っていた。


 

 今日は、1人で剛田の家に戻る杏。不破は、射撃場に行って北斗のサポートをしている。今晩は向こうに泊まると不破から連絡があった。

 急ぎ足で帰路を急ぐ杏。


 そこに、九条が顔を出した。

 杏は軽く会釈をして通り過ぎるつもりだったが、九条は後ろをついてくる。

 しばらく無視して歩いていたが、剛田家に近づく前にケリを付けようと、杏は徐に後ろを振り向いた。

「何か御用かしら、九条さん」

「お急ぎですか、五十嵐杏さん」

「ええ、急いでるの。だから手短に願うわ」

 九条は、クスッと笑いながら右手で口を覆った。

「あなたの生い立ちを知らせようと思って。ここじゃなんだから、どっか珈琲の飲める店にでも入りませんか」

「あたしはここでも良いけど。早くして欲しいの」

「そうですか、じゃあ、単刀直入に。あなた、剛田室長の娘ではないですよね」

「ええ。10歳の時に引き取られたわ」

「ご両親は?」

「5歳で離れたから覚えてないの」

「本当に覚えてないだけ?」

「何が言いたいのかしら」

「あなたは試用体として5歳児の身体で作られたんですよ。両親だっていやしない。その脳だって、どっから持ってきたかわかりゃしないんですよ」

 杏にとっては正真正銘、初耳だった。

 だがそのことを悟られてはいけないような気がした。

「で、あとは」

「あなたはコピーの試用体。これが全て。これでお終い」

「それだけを伝えるためにここに来たの?」

「はい」

「なら、残念ね。あたしは今の生活が気に入ってるし、昔のことなんてどうだっていいの。剛田室長が引き取ってくれたことだけがあたしにとっての幸せだったから」

「本当に剛田さんを信じていいのかな」

「信じるか否かは、あたし自身が決めるわ。自分の魂と相談して」

「稀に見る強い女性だな、貴女は」

「こないだの制圧劇みたでしょう、あれが全てよ」

「E4なんて辞めて、W4に来ればいいのに」

「無理ね。ごめんなさい。時間が押しちゃったから、これで失礼するわ」


 杏は、九条の方に振り向きもせず剛田の家目掛けて歩き出した。

 手に痺れを感じる。それは暫くすると、震えに変わった。

 九条に見つからない様、身体の前で手を組み、震えを止めた。すると今度は、足が震えてきた。思うように歩けない。

 杏は、ヒール靴にも関わらず小走りになっていた。九条から一刻も早く遠ざかりたかった。


 家に入ると、ちょうど剛田から杏に向けてオンラインメモが届いた。

(今日は会合で遅くなる。帰れないかもしれないから、不破と二人で食事してくれ)

 杏は、ふふふと声に出して笑う。

 なんだってまあ、マイクロヒューマノイドにご立派な食事なんぞいらないのに。いつでも心配してくれる。E4ではその片鱗も見せてはくれないが。


 剛田は、二人を引き取って以降、杏を娘のように、不破を息子のように育ててくれた。

 研究所であれこれと酷使された身体を、毎日動かさないことに慣れるまで、半年くらい費やしたのを子どもながらに覚えている。

 生活は、一夜にして変わった。

 不破と2人で、本を読みながら。音楽を聴きながら。たまに身体を動かしながら。

 剛田の帰りを待つ日々に。


 誰かの帰りを待つということが新鮮だった2人は、剛田がいくら遅くなっても起きて待っていた。オンラインメモをオーバーホールしていなかった剛田から、帰りのメッセージが届くことは無い。帰って来ない日もあった。

 そんな時は、杏が最初に睡魔に見舞われた。すると、不破が脚を伸ばして杏を膝枕しながら、自分も壁に凭れ掛かって眠りに着いた。

 両親が姿を見せることの無かった杏と、両親が他界した不破は、剛田がいなかったら一人ぼっちになっていたかもしれない。剛田のお蔭で、他の家庭とは全く違ったけれど、家族というものを感じて、生きてくることができた。

 

 九条の話が本当なら、自分は端から親さえいない試用体。研究の一環としてこの世に生を受けたに過ぎない。

 試用体である限り、人間とは違った生き方をするべきだったのか。

 バグやビートルのように記憶を消され、研究の補助的役割を担えればそれで良かったのか。

 

 杏はまた、自分の部屋に入り、膝を抱えて下を向いた。

 膝を抱えて下を向くのは、研究所にいた時以来だった。

 両親のいない、試用体。

 寂しさを感じないといえば嘘になる。不破の方が、両親を亡くし何倍も悲しく寂しいはずなのに。

 杏の心はそれでも痛んだ。

 オーバーホールでもないのに、魂がどこかに消え去るような気がして、胸の奥が苦しくなった。


 膝を抱えて縮こまる杏に対し、不破からE4回線を遮断したオンラインメモが届いた。

(サポートが終わったので、予定通りこちらに泊まるよ。剛田さんは?)

(今日はお泊りみたい)

(なら、帰る)

(いいわよ、北斗に申し訳ないし)

(男2人で何するわけじゃなし。いいよ、こっちは車だから、すぐに帰れる)

(いいって)

(声が暗いな。何かあった?)


 杏はドキッとした。九条から言われたことで、余程ナーバスになっていたのだろうか。あの内容を言うべきか言わざるべきか、一瞬、不破との会話に間が開いた。

(何かあったようだな、すぐに戻る)


 不破との交信が途切れ、杏の目から一筋の涙が零れ落ち、その頬を濡らした。


 10分もすると、不破の運転する車が戻ってきたのが分った。また、赤信号を無視して帰って来たに違いない。

 杏は涙を拭いて笑顔を作り、いつものように力強く振舞おうと心掛けた。

「お帰り。また赤信号、無視したでしょ」

「夜は車も少ないから大丈夫」

「北斗の調子はどう?」

「元々筋がいいんだろうね、確実にモノにしてきてる」

「そうか、これでいざという時は戦力になるわね」

「それより、何があった?」

「ん?ああ、九条にストーカーされただけよ」

「九条?W4の?」

「そう。何かと思ったら、あたしは両親すらいない試用体として生まれたんだって」

 不破の表情が強張った。不破は何か知っていたのかもしれない。それでも不破は、何も口にしようとはしなかった。

 口にしない代わりに、杏の前に立ち、頭を撫で始めた。

 しばらくの間、不破に頭を撫でられていた杏。

 不破の顔を下から見上げ、にこりと偽物の笑顔を作った。

「大丈夫。研究所に両親が来たこと無かったから、もう両親なんていないんだと思ってたし」

 それでも不破は杏の頭を撫で続ける。

 杏はまた笑顔を作った。

「E4のチーフたるものが、こんなことで凹んでられないよね」

 

 初めて不破が口を開く。

「そんなこと無い。九条に言われて、どんなにか悲しかっただろうに」

「ううん、大丈夫。今は剛田さんと不破、あなたが家族だから」

「そうだな、俺達は家族だ。これまでも、これからも」


 杏は漸く、本物の笑顔を不破に見せた。不破は、頭を撫でる手をジーンズのポケットに仕舞った。

「ところで、最近よく思うんだけど」

「何?」

「お前、剛田さんの前や家の中でだけ女言葉使ってきたけど、剛田さんがオンラインメモオーバーホールしたから、いつもの男言葉知って愕然としてんじゃないの?」

「そういえばそうね、今迄は聞かせなくて済んでたけど」

「剛田さん、お前をE4のチーフにするとき、すごく悩んでたもんな」

「男勝りになったらどーしよー、ってね。チーフの威厳もあるしさ。今更どうにもできないわけよ」

「家族のお前を何かと心配してるからね、今のやり方で正解じゃないかな」

「そういう不破は、物静かな男からお喋り男に変身してる」

「2人とも二重人格みたいだな」

 あはは、と2人は笑う。

「久しぶりに、俺の膝枕で寝るか?」

「遠慮。今晩は、あんたの方が最初に寝ちゃう気がする」

 杏は、いつもの快活さを幾分取戻し、不破とボクシングごっこをするのだった。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 

 翌朝。

 やはり寝付けなかった杏は、早めにベッドから起き上がると、散歩に出かけることにした。

 ゆっくりとした足取りで歩きながら考えていたのは、青森の研究施設と安室前内閣府長官の関係。

 あそこでも、電脳化やマイクロヒューマノイド化の研究をおこなっていたらしいが、公務関係者の脳を埋め込んだ試用体の研究が主だったに違いない。試用体のオリジナルは安室前長官。そして、コピーを大量に作製する。

 電脳化は、勿論一般人向けの研究だろう。

 洗脳しておけば自分たちの有利に物事が進むし、脳の中を見ることができれば不穏分子の摘発にも役立つ。

 安室前長官は、麻田導師を前面に出し、自分はフィクサーとして暗躍していた。

 その麻田導師が殺害された。

 行動を起こしたのは、多分W4。

 W4はE4と並んで総理からの勅命を受けて行動している。

 

 となれば、麻田導師を殺害するよう指示したのは、総理、若しくは総理近辺。

 どうして、第1次Xデーの直前に始末したのか。

 考えられる理由は、ひとつも思い当たらない。思い当たるとすれば、素直に電脳汚染を止めたかっただけに過ぎないだろう。

 

 これが麻田導師と安室前長官の諍いなら、麻田導師が安室前長官の命令を無視したか、あるいは安室前長官側に不利な事実をもって脅迫したか、それに激怒した安室前長官がスナイパーを雇い麻田導師を襲う。そんなシチュエーションが考えられるのだが。

 

 それにしても、Xデーで電脳汚染が広がれば、麻田導師の『魂は肉体に宿らず。尊厳ある死こそが高尚な意識の全てだ』という訓えどおり、一般人皆が並列化し個性を削がれ生ける屍と成り果てた可能性は十分にある。そして脳をいつでも管理され、本当の自由はどこにもなくなる。

 まるで、20世紀に起きた宗教テロ。

 地下鉄サリン事件を初めとした、夥しい数のテロは、日本国中を震撼させたという。

 考えたくもない。

 

 それでも、剛田の言っていた

『魂は肉体に宿り、生命の源として心の働きを司るのに対し、意識は毅然とした自律的な心の働きである』

 杏自身、この意味を正確に捉えているわけではないが、凡そ正反対の真理であることは確かだ。

 

 色々考えながらのんびり歩いていると、急に後ろから右腕を掴まれた。

 不破だった。

「やっぱり寝てなかったな」

「そっちこそ」

「何考えてた」

「地下鉄サリン事件」

「何で今頃」

「電脳汚染考えたら、そこに行きついたの」

「Xデーか」

「多分麻田をやったのはW4だと思うのよ。でもね、総理近辺で麻田をやれって命令するかしら」

「Xデーが回避されるなら」

「オリジナルの安室前長官が生きてる限り、Xデーはやがて来るような気がしない?」

「だから、以前安室前長官の暗殺指令が出た」

 杏は、広げた左手に右手を当ててポン、と叩く。

「なるほど。ただで朝鮮半島移民政策を終焉させるつもりじゃなかったってことね」

「邪魔者は消えるし、一石二鳥ってところか」


 2人は家に戻ると、それぞれに着替えて車に乗った。早めにE4へ出勤である。

 活字オンラインを見ていた杏は、政治の話に目を留めた。


 日本自治国総電脳化計画に反対の立場をとる春日井総理が、今国会で、朝鮮半島移民政策をはっきりと断念する立場を表明、とされていた。

 朝鮮半島移民政策については、外国からの圧力もあったが、何より、総理は日本自治国総電脳化計画の是非を問う国民投票を準備している、と活字オンラインは伝えている。

 そんな総理だったが、必ずしも内閣府で纏まった意見ではないらしい。

 今度もまた、壬生内閣府長官が総理の意見に反対し、国民投票を行わず内閣府で審議する姿勢を見せているという。


 いや、それは国民の意思をはっきりと映し出さねばならない事案だろう、と杏は考える。


 そのうちに、剛田室長を除く皆が出勤していた。

 設楽がまた、お喋りに花を咲かす。

「日本自治国総電脳化計画の国民投票あったら、俺達も投票できるんですよね」

 西藤が渋々相手になる。

「まあ、投票資格があればだけど」

「え。もしかしたら、公務関係者で既に電脳化済みの者は投票資格が無いとか」

「有り得る」

 杏は、活字新聞で2人の頭をポカスカと叩いた。

「公務関係者だって自治国民だ。選挙の資格はある。ちゃんと勉強しておけ」


 ミーティングが始まる時間になっても、剛田室長は登庁していなかった。

 そういえば、会合があって帰れないと昨夜メモが届いた。何か急な案件でも入ったのだろうか。

 杏は少なからず、不安を胸に剛田室長の登庁を待った。


 始業時間から30分、漸く剛田室長が現れた。心なしか、疲れているように杏には見えた。

「室長、遅かったわね。疲れてるように見えるけど」

「大したことは無い。皆、ミーティングを始める。電脳を繋げ、北斗は活字オンラインを見ろ」

 皆が電脳に繋ぐために耳たぶを押す。

(いいか、オフレコで頼む。特に設楽。E4から出たら、絶対に喋るな)

(俺だって必要なことは黙ってますよ)

(そういって、今迄何回外で公言してきた。後始末する私の身にもなれ)

(すんませーん)


 剛田室長は、メンバー全員を見渡した。

(安室内閣府前長官と壬生現長官だが、業者との贈収賄疑惑が持ち上がっている。2人に関しては、電脳化の際に使用する機器メーカー、医療機関との癒着が数年前から取り沙汰されていたが、Xデー解禁に合わせ、多額の資金が懐に入った模様だ)

 倖田が手をあげて剛田室長を見る。

(今度は暗殺主体ではなさそうですね)

(そうだ。2人の家に家宅捜索に入るのは非常に難しい。それで、カメレオンモードになったお前たちが、重大な証拠となるべき書類なりを探し当てて画像化して欲しい。あとで警察が家宅捜索に入るだろうから、盗み出しちゃ駄目だぞ)

(その画像はどうするんですか)

(総理の下に届けて、指示を仰ぐ予定だ)

 杏が、立ち上がって今後のスケジュールを立てる。

(西藤とあたしが安室前長官、倖田と不破が壬生長官の家に入りましょう。暗殺未遂からだいぶ経っているから、少しは警備も緩くなっているでしょ)

(了解)

(設楽は安室前長官の画像をデータ化してちょうだい、八朔には壬生長官の分をお願いするわ)

(了解)

(早速、出るわよ)


 2台の車は、金沢市の壬生長官と安室前長官の家を目指してビルを出た。2時間余り、アウトバーンの走りを堪能できる時間である。

 杏は助手席でバンバンと車のボディーを叩きながら悔しがっていた。

(暗殺未遂事件さえなければ、今回のミッションなど容易かったろうに。な、西藤)

(仕方ありませんよ、どこから探します?)

(仕舞い込むとすれば、一義的には書斎だろう。まず、書斎を当たれ、不破たちもだ)

(了解)


 2台の車は、次第にスピードを上げて金沢に向かった。



 伊達市を出て2時間が過ぎた頃、ドライブの時間は終わった。

 陽が西の方に傾いていた。

 杏は安室前長官の家周辺の公園に車を停めると、オンラインメモを不破に飛ばす。

(不破、そっちも着いたか?車から降り次第、カメレオンモードで行くぞ!)

(あと5分ほどです。了解しました)


 カメレオンモードになり、安室邸を覗く杏。

 驚いたことに、犬が2匹、邸内を鎖付きで走り回っている。

(西藤、お前犬が苦手だよな?)

(はい)

(それじゃお前は、屋根に上って2階から入れ。あたしが犬を引き付ける)

(申し訳ないです)

(さ、行け)

 急いで不破にもメモを飛ばした。

(不破、壬生邸に犬がいるかもしれない。屋根に上がれそうなら、2階から行け。倖田にも伝えてくれ)

(了解)


 今どき、犬を番犬として飼う家は殆どない。

 ということは、安室か壬生のどちらかが、科学研究所のカメレオンモード実験結果データを見た上で、新たに犬を飼い始めた可能性もある。

 研究所のデータは、国会議員であれば誰でもチェックできる。カメレオン化のデータも、既に手中の上でこのような手立てを講じたとすれば、贈収賄の資料を見つけるのは容易いことではない。

 杏は、西藤が屋敷の塀を上り屋根の方に近づいていくまで、門の中に入るのを待った。屋根の方をちらちら見ていると、どうやら犬が人間の臭いに反応したらしい。ガルルル、と鳴きながら門の方に近づいてくる。

 西藤が屋根に移動したのが見えた。

 門の中に入る杏。そして塀から離れた方に走り出す。2匹の犬は、ワンッワンッと吠えて杏を威嚇する。これ以上犬が騒げば、家人が気付くことだろう。幸い、マイクロヒューマノイドは庭先に見当たらなかった。

 杏は犬を1m先まで近づけて、洋服のポケットから麻酔弾を出し拳銃に込めると、犬の身体に向け発射した。

 命中。

 犬は漸く大人しくなった。

 庭を走りながら裏口へと向かう杏。

 正面突破は、どんな危険が待ち受けているかわからない。

(西藤、中に入ったか)

(入りました)

(書斎らしき部屋を探せ)

(了解)

(あたしも裏口から入る)


 家の裏側に走り込むと、裏口は直ぐに見つかった。

 外壁に張り付きながら、そっとドアノブを回す。

 行ける!

 裏口は施錠されていなかった。

 そのまま身体を滑り込ませ、安室邸に侵入した杏は、各部屋のドアをそっと開けてみる。

 どうやら、奥方も今の時間出掛けていたようで、マイクロヒューマノイドはその護衛についていったのだろう。

 一体、幾つ部屋があるのかわからない。

(チーフ、2階は見終えました。書斎はありません)

(そうか、では1階に降りてくれ。犬は眠らせたから心配ない)

(家人もいないようですね)

(大方、ランチとショッピングにでも出かけたんだろう。帰ってくるまでが勝負だ)

(了解です)


 静かに動き回りながら、家の中にあるであろう、金庫を探す。

 リビングにはその手のモノが無い。隣のゲストルームにも見当たらない。その隣の部屋は、施錠されていた。

(ここだな)

 杏はブーツに仕込んである針金を2本取り出すと、鍵穴に差し込んだ。そして、器用に回し始めた。

 1分もしないうちに、カチャッという音が響く。

 部屋の鍵が開いた。

 ここが書斎らしく、部屋の奥には頑丈そうな金庫が置いてある。旧式の金庫だ。

 杏はまた金庫に針金を差し込んで、金庫のダイヤルを回した。

 30秒ほど、ダイヤルを回す。

 カチャリ。

 ギギギ、という渋い音とともに、金庫は開いた。


(設楽!聞いているか)

(聞いてマース)

(これから画像をそちらに送る。データ化して繋ぎ合わせろ)

(了解っす)


 危機感の感じられない設楽に呆れつつ、杏は西藤に向かって手を伸ばした。

(お前の目で画像化してくれ)

 義体化した西藤の目を通して各書類を画像化する。そして、瞬時にE4に送った。スキャナーの代わりができる義眼は、こんな時にも重宝する。


(不破、そっちはどうだ)

(書斎ではなく、長官の寝室の金庫に書類がありました。倖田がスキャンして八朔に送っています)

(家人やマイクロヒューマノイドはいなかったか)

(こちらはいませんでした)

(こちらもだ。2人揃ってランチにでも出掛けたか)

(となると、戻るまでに退散しないといけませんね)

(そうだな。西藤、倖田、スキャンのスピードを上げてくれ)


 杏たちが必死に書類をスキャンしていたとき、門の方から車の音がした。

 どうやら、奥方たちがランチを終え、帰宅したものと思われる。

 杏はオンラインメモを全員に飛ばす。

(安室邸に家人が戻った。壬生邸も気をつけろ)

(こちらはまだのようです)

(西藤、終わったか)

(あと10ページほど)

 家人が家の中に入ってくる音がする。護衛のマイクロヒューマノイドが一緒に違いない。どうか、前長官本人ではありませんように。

 西藤のスキャンは、残り5ページほど。


 その時だった。犬が寝ているのを不思議に思ったのであろう家人が、各部屋を見て回る音が聞こえた。

 誰かが、書斎の隣のゲストルームに入っていくのが聞こえる。たぶん、家人であろう。

 いよいよ、書斎の前に家人が着いた。家人らしき足音でそれが判る。

 ドアノブを回す音がする。

 静かにドアが開き、家人が部屋の中に入ってきた。

 家人は不審そうな顔をして、部屋の中をきょろきょろと見回していた。

 何も変化のないさまを見て安心したようで、直ぐに部屋を出て2階に上がっていく。


 間一髪。

 

 書類の入った金庫を閉め、杏と西藤の2人はドアの反対側に隠れていた。

 スキャンは終了した。

(西藤、犬はまだ寝てる。裏口から出るぞ)

(了解)

 

 2人は裏口まで廊下を静かに移動すると、外へ出て難無く塀を超えた。


 E4への帰路。

 流石に疲れたという西藤と倖田を眠らせ、杏と不破がそれぞれの車を運転していた。

(不破、ご苦労だった)

(こっちは寝室だったんで、見にも来ませんでしたから)

 杏はE4室にいる設楽にメモを飛ばす。

(設楽、八朔。データ化できたか)

(チーフ、それがですね、壬生長官の方は辻褄が合うって言うか、流れどおりに書類があったんですが)

(安室前長官の書類も全部スキャンしたぞ)

(明らかに流れを寸断したような跡がありますね)


 杏は剛田室長にメモを送る。

(室長。このまま戻ってもいいの?)

(仕方がない、今日のところは戻れ。多分、愛人あたりが書類をもっているんだろう)

(愛人?)

(有名な話さ。だから奥方は平気で書斎に入っただろう。安室前長官は帰らない日もあるようだからな)

(その愛人、ってのはどこにいるのよ)

(金沢市内にいるのは確かなんだが、まだ特定できとらん)

(じゃあ、もう一度ドライブが必要ってわけ?)

(そうなるな)

(了解よ。まったく、まさか愛人が複数いるわけじゃないでしょうね)

(探ってみないと、そればかりはなあ)

(はいはい、帰ります)


 杏の運転は知らず知らず雑になり、スピードも加速する。無理な追い越しが続いた。

 不破はついてくるのが精一杯のようだった。



「で、見つかった?」

 E4に帰るなり、杏の発した言葉だ。

 剛田室長は呆れたような顔をしながら杏を見る。

「お前、どれだけ無謀な運転をしてきたんだ」

「あら、そんなに無謀だったかしら」

 続いて入ってきた不破や倖田、西藤までもが口を揃える。

「チーフ、ついていくのが大変でしたよ」

「気が付いたら不破さんまでも無謀な運転してるし」

「俺なんて、直ぐ目覚めたけど怖くてチーフに話しかけられなかった」


 剛田室長がIT室を覗いた。

「設楽、八朔。安室前長官の行動を張れ。ナンバーから監視カメラを検索すればどこに立ち寄ったかわかるだろう」

「マンションだったらどうします?」

「カメレオンモードになって張りつくしかなかろう」


 杏はまだ怒っていた。

「愛人の身辺調査するわけ?」

「そう怒るな、五十嵐」

「むかつく」

「あと何枚かでデータは揃う。そうなれば、検察を動かすことができる」

「このデータそのものは日の目を見ないじゃない」

「このデータがなかったら、検察は動きようがないんだ」

 剛田室長は杏を宥めながらまたIT室のほうに目を向けた。

「愛人宅の方は、ここ1週間のうちに何かしらの動きがあるはずだ。よーく監視してくれよ」


 杏の目が、鳩が鉄砲を食らったように真ん丸になった。

「ね、室長。カメレオンモードの技術って、どこまで知られてるの?」

「どうかしたのか」

「安室邸にも壬生邸にも生身の犬がいたのよ。今どき番犬として犬を飼う家なんてないでしょう」

「研究室の人間くらいじゃないか。安室前長官があそこに出入りしているとは聞いたことが無い」

「麻田導師と安室前長官が繋がってたから?」

「それにしたって、カメレオンモードを見た直後に麻田は殺された。安室前長官に伝える術がなかろう」

「それもそうね」

 

 どこか心の奥で納得していない杏がいた。

 意識ではなく魂がざわめいている、そんな感覚。


 

 安室前長官の動向は、設楽と八朔により詳らかにされ、週に1~2回、スケジュールとは関係なく、前長官は自宅に帰らない日があることがわかった。

 その動向を掘り下げるのは容易ではなかったが、前長官用の送迎車ナンバーを基に監視カメラ映像やNシステムを掛け合わせた結果、金沢市内の高級マンションで車を降りる前長官の画像が映し出された。

 階数を探ることは、監視カメラからだけでは難しかった。

 そこで、杏たち4人の出番となった。

 2人ずつカメレオンモードで当該マンションに張り込み、長官が入ってくるのを待った。長官は、何故かこの週だけはスケジュールが閑散としているにも関わらずこのマンションには立ち寄らない。

 日を改めようかと思った週末。

 夜に訪れるものだとばかり思っていた前長官が、朝早くマンションに姿を現した。護衛を伴い、エレベーターに乗る。

 杏は一緒にカメレオンモードのままエレベーターの片隅に潜り込んだ。護衛がボタンを押したが、立ち位置が悪く何階かは確認することができなかった。仕方がない。あとは一緒に、上階へ昇って行くだけである。

 70階でエレベーターは止まった。

 前長官と護衛がエレベーターから出る。

 杏も遅れないように扉を押さえながら抜け出た。

 前長官たちは南東向きの7001号室の前で止ると、護衛がインターホンを押した。

 中から出てきたのは、20代半ばと思われる女性だった。女性は玄関先で前長官にハグすると、ゴルフバッグを中から廊下に引きずり出した。

 なるほど、今日はゴルフに託けて逢引というわけか。古今東西、逢引とはそういうものらしい。

 世の主婦諸君。旦那の休日ゴルフは、その半数が逢引かもしれない。


 杏はダイレクトメモで長官が立ち寄った部屋番号を皆に知らせる。皆が70階まで集まると、全員カメレオンモードのまま針金を鍵穴に差し込込んだ。これまた30秒ほどで鍵をこじ開け、4人で一斉にマンションに侵入した。

 中は、4LDK。リビングが30畳ほどあり、ちょっとしたパーティーくらいは開けそうだ。女性一人で暮らすには広々とした間取りである。

 リビングと寝室、クローゼット部屋、ゲストルーム。

 ありとあらゆる場所を4人は探していく。

 

 今日は相手がゴルフだから、比較的時間には恵まれていた。

 犬もいない。

 クローゼット部屋を探していた不破が、何やら小型金庫を見つけた。

 皆がそこに集まった。

 最新式の金庫で、針金が通用する代物ではない。

(不破、倖田。市内で金庫を調達してきてくれ)

(まさか・・)

(そのまさかだ。こいつにそっくりな金庫を替え玉としてここに置いていく)

(気付かれませんかね)

(気付いたとしても、泥棒だと思われて仕舞いさ)

(あまりに大胆な発想ですねえ)

(何、1日あれば設楽たちが開けるだろう?それまでばれなきゃいいのさ)


 不破と倖田がフェイクの金庫を調達してくると、杏は偽物と本物をすり替えた。

 杏と不破は、金庫を持って部屋を出た。猛スピードでマンションを後にし、伊達市に急ぐ。

 西藤と倖田は、そのまま金沢市のマンションに残った。勿論、盗聴器をリビングに仕掛けて。何か動きがあれば、すぐE4に連絡すればよい。


 2時間弱で伊達市についた杏と不破。

 E4では、設楽と八朔が待ち構えていた。

「チーフはダイヤル式ならお手の物なんでしょうが」

「お手上げだからここに持ってきたんだけど。悪い?」

「いいえ。今のご時世、色んな便利グッズがあるんですよ」

 設楽は小さいソーラー式電卓のようなものをIT室から持ってくると、金庫に翳す。

「指紋認証型金庫用のツールなんですけどね」

 翳したツールに、押した回数の多い番号が入力されていく。4つの番号が画面上に出る。

 そして、計算機が動き出した。

「あとは自動で4ケタの数字を割り出してくれますから」

 設楽の自信満々の言葉に、杏も笑いを抑えきれない。

「どこでこんなもの手に入れたの」

「蚤の市」

 杏は腰に両手を当て大きく口を開けて、あっはっはと笑った。

「これを使った金庫破りが続出するというわけね」

「警察関係者以外が入手したら、犯罪です」

「まったく。体の良い言い訳だわ」

 

 5分もすると、金庫は開いた。

 設楽と八朔が手分けして書類を探し、スキャンしていく。

 20分ほどでスキャンは終了した。

 杏がE4内の時計を見る。午前11時を回ったところ。

「これから戻っても十分におつりが来るわね」

 不破も頷く。

「なるべく早く返した方がいいですよ。一応、窃盗だし」

「はいはい。じゃ、行くわよ」

 剛田室長が杏たちの背中に厳しい言葉を放り投げる。

「気を抜くなよ」

「了解」


 杏と不破は、来た道を再び猛スピードで戻る。杏より不破の方が運転は上手だから、運転は不破に任せて。不破のドライビングテクニックは、E4の中の誰よりも巧みだ。

 2時間弱。

 ちょうど午後1時。

 カメレオンモードになった杏と不破は、マンション内に入った。

 7001号室の前では、西藤と倖田が待ち構えていた。

(まだ安室と愛人は戻ってないか)

(はい)

(よし、もう一度入る。西藤はマンションの外で待機、もし安室が戻ったら連絡しろ。倖田はこのままここで待機。不破は盗聴器を取り外せ。あたしは金庫を戻す)

(了解)

 杏は不破と一緒に部屋に入ると、すぐに二手に分かれた。

 クローゼット部屋は、埃が多かった。

(まったくなあ。掃除もしないのか、あの女は)

 不破が笑いながら応対してくる。

(チーフ。愛人への嫉妬はいけません)

(こんな部屋を与えてくれるパトロンか。撒き餌で釣れるかな)

(無理でしょ)

 金庫が置いてあった場所に正確に金庫を戻し、フェイクの金庫は洋服で見えないよう、カムフラージュして部屋を出る。

(さ、終了だ。不破、そちらも大丈夫だな)

(終了です、今出ます)


 杏と不破は部屋を出て、3人は揃ってエレベーターで階下に向かった。

 そこに西藤からオンラインメモが届いた。

(大変です、チーフ。やつらが戻ってきました)


 驚いたことに、安室と愛人が揃ってロビー前にいる。

 途中でプレーを止めて来たのか。

 あと1時間遅かったら、また1週間は張り込まなければいけなかったかもしれない。

 どちらにしても、書類はいただいた。

 カメレオンモードのまま、男性陣が金庫を持つ杏を守るように立ちはだかり安室たちをやり過ごすと、4人は2台の車に分乗し、マンションを後にした。



 安室前内閣府長官と壬生元内閣府長官の賄賂疑惑は、決定的なものとなった。

 剛田室長は設楽たちが纏めたICチップを手に、内閣官房に行く、とだけ言い残し姿を消した。仕事が一段落した杏たちは、まったりとした夕方を過ごし、夜になった。

「室長から連絡がないか」

 杏は少し苛立っていた。あの内容なら、すぐにでも前長官たちを逮捕できるはず。連絡のひとつもないということは、あれだけではダメだということか。

 E4室内にも、やや重苦しい空気が流れた時だった。

 剛田室長がE4に戻った。室長は何も言葉を発しなかった。

 痺れを切らした杏が剛田室長の机に向かう。

「遅かったのね。寄り道?」

「まさか。内閣官房に拉致されそうになった。あれを警察府直属の管轄にして調べると言われてな。抗議していた」

「そしたら内閣府に勝てっこないじゃない」

「そうだ」

「迷宮入りさせる気?この事件を。そしたらもう、あの2人の思うがままに進むわ」

「どうも、今は動かないでくれと総理がごねているらしい」

「どうしてかしら」

「どうにも解りかねている」


 杏は自分の机に戻ると、バン!と一回拳を机に叩きつけた。

「電脳汚染のオリジナル疑惑だってあるのに」

 北斗もぼやく。

「僕が死にかけながら掴んだ情報も、砂の城のように崩れ落ちて無くなってしまうんですかね」

「そんなこと、させない」

 息巻く杏を、剛田室長が止める。

「今は静かにしていろ。いつか必ず我々の働きは実を結ぶ」


 それだけ、長官たちの立場は揺らぐものではないということか。

 杏は肩の力が抜けていくのを感取した。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇



 暫くはこれといった任務も無く、E4メンバーはそれぞれに好き勝手なことをして日々を過ごしていた。

 倖田はライフルのオーバーホール、西藤はひたすら眠っている。

 北斗は溜息を吐きながら活字新聞を読んでいた。北斗は暇を持て余すと、すぐに地下に降りてバグたちと遊んでいたから、そのことを思い出したのかもしれない。

 設楽は、VRに興じていた。

 不破は活字オンラインを見ていた。


 と、バタバタと室内に入ってきた者がいた。八朔だった。

「モニターつけてください!」

 不破がモニターに寄りながら八朔に問いかける。

「どうしたの、一体」

「内閣府前長官と現長官、暗殺事件です!」

「何だって?」

「安室前長官は未遂、壬生長官は死亡したという情報が入ってます」

 皆は、モニターの前に集まった。

『・・・ライフル銃で狙撃され、壬生内閣府長官が心肺停止の状態です。繰り返します・・・』

 

 犯人はまだ捕まっていないとのことだった。

 皆がモニターから離れ、自分の席に着く。

 剛田室長は検察の捜査が行きつく前に壬生長官が死んだことに納得がいかない様子だったが、普段通りの仕事を熟していた。


 杏は、犯人が誰なのかとても気になった。

 W4。

 総理直轄の組織。

 春日井総理は、安室、壬生の存在が前から邪魔だったはず。安室前長官宅では、前にも未遂事件が起きている。

 安室前長官は、どこぞのパーティーの来賓挨拶として壇上にいた際、報道陣の後ろから狙われた。

 しかしその身に銃弾が食い込むことはなく、壇上のシャンデリアに突き刺さった銃弾で壇上は薄暗くなったという。皆が驚いた瞬間、もう犯人は部屋を抜け出ていた。

 退路を確保しておく俊敏な行動。そのことからしても、そこらのヤクザものの比ではないことがわかる。


 一方の壬生長官は、自宅にいるところを狙われた。

 1人でリビングにいるところを、1発後頭部に打ち込まれ絶命したという情報が齎された。


 なおも杏は考察していた。


 手を下したのはW4か。

 だから剛田室長のICチップは使わなかったのか。

 それにしても、検察で審議を行うべき事案であり相手であるにも拘らず、1発の銃弾ただ一つで幕引きをするとは。

 W4を取り仕切る春日井総理の考えなのだとすれば、相当イカれてるおっさんとしか言いようがない。


 それでも、杏にはひとつだけ疑問が残った。

 麻田暗殺、壬生暗殺に関しては1発の銃弾で仕留めたのに対し、安室暗殺未遂は的外れな方向に1発発射したのみ。

 仕留めるつもりがなかったのだろうか。

 いや、総理からしてみれば、安室前長官の方が厄介な人間だったはず。

 W4を召喚したとすれば、なぜ未遂で終わらせたのか。



 内閣府長官暗殺の続報は、1週間経ってもなりが止まず、官邸では次の内閣府長官に誰を任命するのか、そのことに世間の注目は移っているようだった。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇



 内閣府新長官が決まってひと月。

 杏たちは特に定まった任務もなく、再びまったりとした日々が続いていた。

 今日は、内閣府新長官の挨拶があると言って、剛田室長は出掛けていた。



「チーフに手紙が来てます」

 急に八朔が杏の耳元で囁く。

「手紙?何処から」

「差出人はありません」

「あら、ラブレターかしら」

 不破の眉毛がピクッと動いた。


「僕、開けてもいいですか」

 八朔は、銃口を口に向けられ、黙った。

 杏は半分本気で八朔を叱っている。

「黙らっしゃい。若造が。人に着た手紙をどうしてあんたが開ける」

「すみません、つい」

「近頃任務が無いからと言って、浮かれるな」

 設楽が楽しそうに声を上げる。

「はーい」

「設楽。お前にも銃口向けてやろうか」

「遠慮しまーす」


 杏は差出人の無い手紙を、ペーパーナイフを使ってゆっくりと丁寧に開封した。

 

『五十嵐杏様  2月29日 午後3時  山下公園で』  


 文面は、それだけだった。

 何かの嫌がらせかと、一瞬手紙を破りそうになった。

 不破がその手紙を取り上げる。

「ちょっ、返して」

「ふむ、時限爆弾ではないな」

「かえせっ」

「チーフ。差出人、気になりませんか」

「気になる」

「じゃあ、調べましょう」

 不破は、IT室に戻っていた設楽に封筒を渡す。

「これ、指紋検索システムで調べて」

「了解!!」

 設楽は大喜びでシステムを稼働させた。


 それから1時間。

 設楽がワクワクした顔つきでIT室から出てきた。

「誰だと思います?」

 北斗が設楽に賛辞を贈る。

「1時間で差出人の指紋検索できるなんて、優秀なシステムだ」

「僕の作った指紋検索システムは、まず電脳化している公務関係者から始まって、一般人で過去に刑務所入所の経歴があるもの、小学校の生徒、と検索していくわけ」

「で、そんなに短時間で全員の指紋が検索できるのか」

「一般人の場合、小学校に入らない子はほとんどいない。入学が6歳だからその時点で指紋検索のターゲットになり得るわけ。小学校に通えない移民連中は事件に手を染める場合が殆どだろ。その時点でシステムにセットされる」


 6歳時点で、あたしは研究所にいた。設楽のシステムにヒットするのは、公務関係者だからだ。

 杏は素直に喜べないものがあった。


「で、今回の手紙を指紋スキャンした結果、じゃーん!W4の九条さんの指紋が出ました」

 さるかに合戦には興味の無い北斗が素直に聞く。

「伊達市まで来るの?彼」

「そうみたいですねえ」

「山下公園か。久しぶりに行ってみたいな」

 杏が北斗の喉を締めようと手を伸ばしたところを、反対に不破の腕に落ちた。

「く、くるしい、ふわ、はなせ」

「この中で九条さんに面の割れてない人は、一緒に行こう」

 北斗は寂しそうな顔をする。

「青森の事件ですっかり顔が割れたから、僕は無理だね。って、不破さんも無理じゃない」


 杏はふて腐れて言い放つ。

「こっちで向こうのメンバー表が流れたように、向こうだってあたしたちの顔くらいわかってるだろうが」

 不破はにっこり笑う。

「知らないふりしてればいいでしょう」

「まったく、鬼だな、お前は」

「何とでも言ってください。兎に角ついていきますから」

「北斗を可哀想だと思うやつはいないのか」

 倖田と西藤が同時に手を上げる。2人は顔を見合わせた。

「じゃあ、俺達が残りますよ」

 設楽と八朔は、滅多にないお出掛けに頬も緩んでいる。そこに杏のストレートパンチが飛ぶ。

「設楽と八朔のうち、1人は通信関係のバグ管理のため認めない」

「そんなー」

「あたしから付いて来いとは言わない。自己責任で、山下公園に散歩に行く奴は行け」

 

 2月29日といえば、明後日だった。


 九条との約束の日。

 ジーンズに薄手のネイビーのコートを着て、マフラーを巻く杏。

 不破と設楽は、帽子にサングラス、マスクまでしている。怪しさ満載の2人。カメレオンモードになれば済むことだが、それは杏がOKしなかった。

 3人は、揃ってE4を出た。

 山下公園まで、徒歩で10分。

 杏は怪しい不破と設楽を見てあはははと声に出して笑う。

「本当についてくるとは思わなかった」

 至って真面目な不破。

「僕はやるといったらやるんです」

 設楽は思ったより元気がない。

「何のことはない、僕は夫婦喧嘩の仲裁役ですかね」


 杏と不破が両側から設楽のこめかみを突く。

「誰が夫婦だ」

 

 公園に着く前に、不破と設楽は杏から離れた。本当に遠くから見ているつもりらしい。あの怪しさ満載の格好ではかえって悪目立ちすると思うのだが、真面目に扮している不破にそれを言い出せなかった杏。

 ま、いいか。

 それより、九条はもう来ているだろうか。

 公園の中を散歩しながら九条を探す。


 歩き回っていた杏は、少し疲れを感じ、ベンチに腰をおろした。

 周囲を眺めると、サッカー男子やカップルの散歩、ジョギングをしている人もいる。

 これらの人数分、違う人生があるのだと思うと、何故だかわからないけれど清々しい気分になった。

 すると、真正面に誰か立っているのがわかった。

「やはり来てくれましたね」

 マスク越しに、九条のくぐもった声が聞こえる。帽子を目深に被り、マスクをつけ、マフラーをぐるぐる巻きにしていた。

「怪しさ満載ね」

「こうしないと、外でお話をするには勇気がいるので」

 杏はくすっと笑う。

「随分な勇気だこと」

「お連れの方も似たような恰好じゃないですか」

「そうみたい」

 九条はマスクを取らないまま、聞き取りにくい声で話し出す。

「あなたには聞いて欲しくてね」

「何を?」

「僕らの正体」

「それを聞いてあたしはどうすればいいのかしら」

「別に。聞いてもらうだけでいいんです」

「今生の別れじゃあるまいし」

 九条は下を向く。何か考えているようだったが、漸く顔を上げた。

「僕ら暗殺チームは、総理の管轄下にありながら安室前長官の指令を受けていたんです」

 杏は驚き、瞬きもせず九条を見つめた。

「現監察官が安室と懇意でしてね。次代の総理は安室だと言って、僕らを安室に引き合わせた」

「それで?」

「元々暗殺主体のチームでしたが、より暗殺色が濃くなった」


 九条は、ぽつりぽつりと独り言のように語り出した。

 安室の下にいるうちに、安室がFL教と繋がっていることが判った。電脳汚染のオリジナルという事実も。

 麻田はあの時、電脳汚染のオリジナルの名をばらそうとした。麻田は一般人でありながら電脳化していたため、W4で脳監視をしていた。

 あの時、麻田邸の近くに陣取っていたのは、西藤だけではない。

 六条に任せた脳監視の末、Xデーとオリジナルを話そうとしていたのがわかったため、安室から暗殺指令が下った。


 国立研究所ではカメレオンモードを推奨していたから、W4も漏れなくオーバーホールしたが、安室はその時点で、カメレオンモードが動物には効かないことも調べ上げていた。だから、居宅に生身の犬を放った。

 

 青森の研究施設で暗殺した研究員は、カメレオンモードの研究者でもあった。まだW4のカメレオン化は認可が下りなかったが、安室がゴリ押しした結果、オーバーホールできた。


 壬生はもっと可哀想だ。収賄の事実が公表されるかもしれないと酷くびくつき、真実を警察府に行って話すと言ったから、暗殺の対象とされた。壬生の暗殺時、安室に捜査の目が向かない様自分をも襲わせた。


 杏の心の中で作られていたジグソーパズルの、全てのピースが揃った。

「カメレオンモード、犬、麻田の死、研究員の死。やっとピースが繋がったわ。要は、麻田はオリジナルをばらそうとして消され、研究員はカメレオンモードがどこからばれたのかわからないように、と、それだけの理由で消されたわけね」

「そんなところです」

「壬生が真実を話しそうになり、長官2人を襲わせ、壬生だけを消すよう仕向けたのも安室だったのね、あの時の銃痕見て、おかしいなとは思っていたの」

「僕らは百発百中ですから」

「脳監視ってできるものなの?」

「研究所にある機器ならできますよ。青森ではそれも使って、国民一斉電脳化後の脳監視に使えるよう研究していた」

「どうしてあたしに、今、それを話すの」

「もう会えないかもしれないから」

「自首でもするつもり?」

「そんな生易しいもんじゃない」


 杏には、九条の目は遥か彼方を見ているような気がした。

「たぶん、安室は僕らさえ裏切るに違いない」

「その前に官邸に行って真実を話せばいいのに」

「総理を裏切り安室側についていたと話せと?それこそ裏切り者のレッテルを貼られて、処分は重くなるでしょう」

「あなたたちは指令に従っただけよ。自らクーデターを・・・」

「そう、そのクーデターの犯人にされるんです」

 杏にはこれといった名案が浮かばなかった。

「逃げれば?」

「逃げ切れるなら。今度は軍を出動させるでしょう」

「軍、か。この国では、軍隊に重きを置いている」

「そうです、その軍に追い掛け回されたら一溜りもない」


 杏は、深く、大きく溜息を吐いた。

「どちらに転んでも、痛し痒しですよ。総理は怖い人だ。あなた方はそうならない様、忠告しておきます」

「わかったわ」

「それでは、お元気で」

「そちらもね、元気でまた会いましょう」

 

 九条が最初にベンチから立ち上がった。

 尾行がいないかどうかを確認するかのように辺りをきょろきょろと見回し、九条は公園の木々の間に消えて行った。


 不破と設楽が心配そうに近づいてくる。

「何を話していたんです?」

「ダイレクトメモに繋げ」

「はい」

(やはり、W4の裏には安室がいた。総理を裏切ったことを知られれば、それ相応の処分が科せられる)

 設楽が先程の杏と同じことを言う。

(逃げられないんですか)

(今度は軍隊とランデブーだとさ)

(怖すぎる)

(あたしたちはそうなるな、と忠告いただいた)


 不破はマスクを外し、深呼吸しながらメモを飛ばしてくる。

(チーフ。安室の電脳汚染計画はどうなるんでしょう。青森も無くなった今、安室一人で出来る代物じゃありませんよね)

(やるとすれば祐代表が麻田の意志を次いで、というところだろうが、どこまで進められるかはわからんな)

(安室は今後、どうするつもりなんでしょう)

(総理の暗殺まで視野に入れているだろう)

(で、W4がそれに従うと?)

(あのぶんだと、愛想を尽かしてるように見えるがな)

(あと、もうひとつくらい内緒にしてるでしょう、チーフ)

(クーデター計画)

(クーデター?)

(安室を中心としたクーデター計画。その実行犯としてW4は軍に追われる。それこそが総理の描いたシナリオだったんだ。W4が安室に寝返ったことも承知の上でな)

(そりゃ、非常にまずいですね)

(しかし、我々にできることは何もない)


 杏はベンチから立ち上がり背伸びをした。

 どうか、無事で。

 神様を信じていない杏だったが、今日は祈らずにはいられなかった。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇



 3月に入り、警察府あたりでは異動の話で持ちきりのようだった。そういえば、剛田室長が紗輝の後釜に、と推した青年たちは、揃いもそろってE4を敬遠したらしい。

 未だに倖田1人にスナイパー役を任せていては、倖田が疲れる。ライフル銃は特別、肩に力が入るような気がしている杏。


 そんなところに、また八朔が走り込んできた。全速力で廊下を走ったらしい。息がすっかり上がっている。

「モ、モニター」

 西藤が八朔の代わりにモニター電源を入れた。

 そこに映し出されたのは、手錠を掛けられた安室前内閣府長官の姿だった。

『…総理は、非常事態宣言を発令し、反乱分子の確保、捕縛を急いでいます・・・』


 杏と不破は顔を見合わせ、モニター画面を食いいるように見た。

 今回逮捕されたのは安室だけらしいが、奴は絶対にW4のことを話すだろう。もう、総理側から警察府に指示が飛んでいるかもしれない。

 

 巷の活字新聞やオンラインライブでは、反乱分子にW4の名前が挙がり、もう犯人だと決めつけていた。

 軍が動き出す懸念は、活字新聞及びオンラインライブでは一切語られない。機密事項ゆえに、報道管制が敷かれているに違いなかった。


 そんな折、電脳汚染をすっぱ抜いた週刊誌が出た。FL教の祐代表が記者に取り囲まれ、応対している姿とともに。

 安室が逮捕されオリジナルがいない今、それは無理な話だった。いや、コピーを仲介しても良いのであれば、電脳汚染は実行できる。それでも、中心にいて指示を出していたのは安室に違いなかった。

 公務関係者を初めとした一部の国民はパニックに陥り、電脳化している公務関係者はストライキを起こした。汚染されないように、という名目の、パニック症候群。

 E4では、安室前長官が最後に仕掛けた罠と踏んでいた。クーデター計画云々を国民の目の届かない場所に持ちこむためである。


 しかし、その週刊誌は発売禁止となり出版社は倒産した。

 全て春日井総理の指示だと思われる。


 W4のメンバーは軍に追われ、次々と逮捕の記事が出た。

 一条が捕まったかと思うと、次に三条の名が挙がった。そして四條、六条までが逮捕者として活字新聞に名を連ねた。

 九条の名だけが逮捕者の中に名が入っていなかった。


 逮捕されたのか、それとも自ら死を選んだのか。

 九条のその後は、E4が精力を傾け捜しても、その動向は杳として知れなかった。

 なぜか杏は心の中で、九条の無事を願った。生きていて欲しいと願った。

 口に出せば、クーデター分子と言われかねないから、口には一言も出さない。

 近頃は、不穏な空気が日本中を包みこんでいた。


 当然のように安室は失脚した。

 一般人電脳汚染計画に始まり、日本自治国総電脳化計画と朝鮮半島移民政策は、ここに終焉を迎えた。

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