ヒロイン探し
「おい! 兄ちゃん起きろ!!」
そう怒鳴られた瞬間、顔に冷たい感触が広がる。
「うわっぶ!」
冷たい冷水を浴び静寂から再び覚醒すると、
そこには見たことも無い世界が広がっていた。
中世ヨーロッパ風の町並みに、そこらじゅうから活気溢れる声が聞こえる。
人間だけではなく、犬、猫、鳥、さまざまな種族がいる。
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
横を見ると、屈強な体つきをした見知らぬおじさんが立っていた。
どうやら自分は本当に異世界に来たらしい。
「は、はい。大丈夫です」
「ホントに大丈夫か?まあ自分でそう言うならいいんだけどよ。それなら俺は商売しなきゃなんねぇから、
じゃあな」
そう言いながら振り向き店番に戻ろうとする男。
「ま、待ってください。聞きたいことがあるんですが少しいいですか?」
「おいおい、何も買わずにきくのかぁ?」
そりゃそうだ。お店の人に何も買わずに何かを訊くだなんて虫が良すぎる。
「ま、俺が答えられる程度なら答えてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
人相に似合わず意外と、優しい人だ。ありがたい。
そして単刀直入に聞く。
「えっと、ここってどこですか?」
「......ぷっ、あはははは! 面白い質問だな。答えてやるよ。ここは、エルシヤ公国レイティーナ領だ」
まったく聞いたこともない国名だ。
公国はたしか公を君主とする国だったか。
「兄ちゃんそんなことも知らなかったのか? どうやって来たんだよ?」
「えっと、ある意味不法入国? みたいな感じです。」
転生して目覚めたのがこの国だから、間違ってはいない。
「兄ちゃん。大丈夫なのかそれ? 面倒事はごめんだぜ」
眉間にシワを寄せ覗き込んでくる。
「あぁ、大丈夫大丈夫。迷惑はかけません。それよりこの世界に魔王とかいるんですかね?」
「話がすごい変わるな。そんなことも知らないのか。まぁ、いるかって聞かれると、いたってほうが正しいかな」
「いた?」
いたということは、今はいないということだ。
だが、あの天使は魔王を倒したら、願いを叶えてくれると言っていた。最近、倒されたのか?
だとしても、魔王はいないのだからどうすればいいのだ?
「あの、魔王って最近倒されたんですか?」
「いや。三百年前に勇者に倒されてるよ」
「さっ、三百年前!?」
おいおい、一体どういうことなんだ? 魔王を倒せば願いが叶うってのに、
その魔王さんは三百年前にやられてるだと? まさか、あの天使に詐欺られたか。
だとしたら、俺はこの世界で死ぬまで生きるのか?あぁ、クソっ、全然分からん。
「、、、そろそろ店番もあるし帰らせてもらうぜ」
「あ、待ってください。そうだ、なんか買います!だから......」
そう言い、懐に手を入れ財布を取り出し千円札を取り出す。
「おいおい、兄ちゃん。買おうとしてくれんのはありがてぇが、どこの国の金かは知らねえけど、
その金はうちの国では使えねぇよ」
「そんな、じゃあ今の俺無一文......ってことか」
予想はしていたが、これはかなりまずい状況だ。この異世界での目標も無く、金も無く、生活するためのあても無く、無い無い尽くしだ。なんにしろ金が必要だ。
「すいません。この辺りに物を売って金にできる場所ってないですか?」
「物を売って金にできる場所かぁ、そうだな、この道をまっすぐ歩いてくと、大通りに出る。
そこを左に曲がって進むと、四角い看板にニーモスと書かれてる店がある。そこならできると思うぜ」
「本当ですか?! いや〜なにからなにまで教えていただきありがとうございます。次はお金を持って来ますね。本当にありがとうございました。」
立ち上がり緑色のバッグを持ち上げる。
「あぁ、期待しないで待ってるぜ」
「はい、ではまたいつか」
手を振りながら見送られ、大通りに向かい歩き出す。
色々と衝撃的なことを教えてもらったが、今は落胆するよりお金を手に入れる方が先決だ。
お金が無きゃ、いずれ出会うヒロインにいい格好できないからな。
そう心の中で思いつつ、大通りに出る。
「うわ、すっげぇな」
大通りの道はどんどん上にいき、そして視線の先、一番上の方には金持ちが権力を見せびらかすように建てられてる豪邸がある。
「どこの世界にも格差ってのはあるんだなぁ」
しみじみと頷き、目的の場所へとたどり着く。
「四角い看板に、、、文字は読めんな。だが、多分ここだな」
ドアノブを握り、店内に入店する。
「いらっしゃいませー」
店に入ると客を迎い入れる温かな声が聞こえて来る。
黒と白色の特徴が無い制服を着た男がいる。
「えっとここがニーモスって店で合ってますか?」
「そうだよ〜。買える物ならなんでも買い、売れる物はなんでも売る。それが、
このニーモスのモットーさ! ......ところで〜今回はどのようなご用件で来られたのでしょうか?」
「俺が言えたことじゃ無いが、凄い話変えて来るな! 実は、金がなくてな、物を売りに来たんだよ」
同種の匂いがする男と話しつつ、店内を見渡す。武器に服、本にポーション的なのも置いてある。
「それで〜、何を売ってくれるのかな〜?」
正直、金が欲しい一心で何を売るかまでは考えてなかった。
持ってきた物も、スマホに財布......って初期装備貧弱すぎるだろ!! ふざけんな!
「あ、じゃあこの服とか売れませんかね? 多分この世界で、一つしかない代物だと思いますよ」
「何? それはそれは興味深い。少し貸してくれないか? ......ふむ珍しい服だ。
これを上げ下げして着るのか」
そう言い、ジャージのチャックを上げ下げする。
「こんな服は見たことがない。そうだな。使用品だということを考慮しても......
上金貨二枚、金貨二枚といったところか」
「いや、世界でたった一つだぞ。もうちょっといくとおもうんだけどなぁ〜」
腕を組み、右目を閉じ左目を開けつぶやく。
「なかなか厳しいねぇ。そうだな、金貨四枚でどうだろうか?」
「いや、もうちょっと」
「う〜〜〜ん。なら上金貨三枚でどうだ!」
「よし売ろう」
値段を吊り上げ、安物のジャージを大金で売ることに成功した。
「ちなみに、この国の金の単位ってどうなってんだ?」
「知らなかったのに値段を吊り上げていたのか......銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨五枚で上金貨一枚、上金貨十枚で聖金貨一枚だ」
そう説明しながら、硬貨を手の平に乗せてくる。
「へ〜......俺の世界と同じ感じなんだな......」
乗せられた硬貨を眺めそう呟く。
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、なんでも」
下手に自分は違う世界からきた〜何て言わないほうが良いだろう。
信じてはもらえないだろうがな。
「よし、金も出来たし、ありがとな! また珍しいものがあったら売りにくるよ」
「そうしてもらえると、ありがたいねぇ」
扉を開き、外に出る。
「う〜ん、金はできたが、どうするか......やっぱりまずは、食料と泊まる宿か」
そう今後の進路を決め、歩き出すと、
「うおっ」
突然体に衝撃が走る。
「あ、ご、ごめんなさい」
「いえいえ!こちらこそ......」
そこには、腰に届く長さの水色の髪に、純真そうな青色の瞳、身長は自分とおなじくらい、
百六十から百七十センチ程度の身長。穏やかそうで、それでいて、整った顔つき。神がこの世界に創りし
美の結晶。そう思わせる美少女が立っていた。