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 時おりミヨと会うようになった。姉のミキや、友達のユリとも知り合った。不思議なことに彼女達の成長は早く感じた。会う度に幼さが消え、背が伸びていくのだ。話が噛み合わないこともあった。


「ミヨ、先週の風邪はもう良いのか?」


「お兄ちゃん、いつの話をしているの? 会うのは2ヶ月振りなのに。」


 こんな感じだったのだ。まあ、こういった会話の後に直ぐ、会ってなかった間の村の話をミヨが始めるので聞いている内にいつも忘れてしまうのだが。……というより、少しずつ、どんどん綺麗になっていく少女に見惚れていたのだ。


 母はあの日以降、何処へ出かけたか逐一(ちくいち)聞いてくる事は無かった。だがミヨ達に会った日は必ず、目を細め鼻をヒクヒクと動かし口角を上げて俺を見た。俺は母の形相が恐ろしく、そんな母を見るのが嫌で、ミヨと別れた帰りに川で服を濡らし「釣りをしていて川に落ちた」等と言って玄関から風呂へ直行する様になった。


 たまにミヨに「お兄ちゃんのお家は何処なの? 行ってみたいなあ」とか、「お兄ちゃんが帰る方向かな? 村から大きな桜の木が見えるから見に行きたい」等と言われた。その度にはぐらかした。母の尋常じゃない様子もあるが、父も恐ろしかったのだ。父はごくたまにだが、血塗れで帰ってくる。そんなときの夜飯は御馳走だった。幼い頃はいつもより豪勢な食事が嬉しかった。だが、出歩いて自分で小さな獲物を捕らえたり、ミヨが擦り傷をこさえたりするのを見るにつけ、自分が何を食しているのか邪推する様になった。


 ミヨから聞いた話だ。村では何年かに一度盛大な祭りがあって、そのときに1人だけ選ばれた踊り子が舞を披露するという。祭りには遠い村からも見物客が訪れるらしかった。踊り子になった娘は大抵、見物に来たお金持ちに見初められ、祭りが終わると大金と引き換えに貰われて行くという。この貧しい村はそのお陰で潤い、暮らしがやっと成り立っているらしい。その為踊り子に選ばれた家は、周りから羨望の的になる。女の子達も皆、踊り子になりたがっているらしかった。


 だが良く良く考えてみれば、村の祭りの周期と夜飯が豪勢な日が似通っていた。俺は最初は馬鹿な考えだと自分で自分を笑った。だが、俺の考えている通りであるならば次の祭りは、……俺の15歳の誕生日になる。


 ある日のこと、ミヨに話があると言われた。余程良い知らせなのか嬉しそうに笑った顔は、幼女から少女に変わる境目で、まだ少し残るあどけなさも魅力の1つとなり眩しかった。


「聞いて、お兄ちゃん。今度のお祭りで踊り子に選ばれたの。最初はお姉ちゃんに決まってたんだけど、足を怪我して踊れなくなって私になったの」


 話の内容に血の気が引く思いだった。ミヨが踊り子だなんて!


「でもね、私。お金持ちの人に貰われたくないの。そんな事になったら、……もう、お兄ちゃんに会えなくなっちゃう。あのね、私っ……。ね、お祭り見に来て。とても綺麗な衣装なの。お兄ちゃんに見て貰いたい。お祭りが終わったら、私お兄ちゃんに聞いて欲しい話があるの。」


 ミヨは途中から顔を真っ赤にし、両手を握り締めながら話した。力が入っているのか指先は白くなり、肩が震えていた。その姿を見たら自分を止められ無かった。思わず引き寄せ抱き締めた。


 けれど頭の中は変に冷めていて、どうしたら踊り子役を辞めさせられるのか? そればかりがぐるぐると回っていた。父と母の事をどう説明したら良いのか分からなかった。第一、村の大人達もどう思っているのか分からない。俺は一先(ひとま)ず母から探りを入れる事にした。


「母さん。俺もうすぐ15歳になるけど、それって何の意味があるの?」


 俺は帰って風呂に入った後に母に尋ねた。いつか思った疑問だ。先ずはそこから始める事にした。こちらの腹を探られぬ様努めて普段通りを装った。が、母は嬉しそうな顔で答える。こうして見ると別段変わったところは見られない。昔からよく知っている優しい母がそこにいた。


「話したこと無かったかしら? 成人の儀をするのよ」


 『成人の儀』、初耳だった。どんな事をするのか更に尋ねる。


「御馳走をたくさん用意するの。まだ、お前には本当の御馳走を食べさせた事がなかったわね。父さんも私もこの日をずっと待っていたのよ」

 

 本当の御馳走とは何だろう? と母の顔を見ると、つい先程までの母はそこには居なかった。代わりに、あの表情で中空を見てニヤついている女がいたのだった。俺の中で疑問が確信に近づいた。


「父さん、『成人の儀』ってさ」


「おう、『成人の儀』だ、今年の誕生日は村で祭りをやらせるぞ! お前も来い!!」


 いきなり欲しかった答えが目の前に転がって来た。俺は一瞬呆気(あっけ)にとられ、それから足下が崩れていく錯覚を覚えた……。




ううっ、終わらないよぉ。

予定ではそろそろ終わる筈だったのに!

しかも、最初の設定より暗い話になっていくし。

せつなさを全面に出した、爽やかな話を書きたかったのに、なんなんだ!この血生臭さは!!

はあー、銘尾は爽やかさとは無縁なのかもしれません。

最後までは、絶対書きますね。

良かったら、お付き合い下さい。

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