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 望月美桜という少女に、つい魔眼を使ってしまった。すると、彼女は倒れた。


 思わず駆け寄り抱え上げ、そのまま保健室に向かって飛び出してしまった。生徒達に『自習』も言い渡さずに。


 後から教頭からコッテリと絞られる事だろう。つい最近、転任して来た教師をまとめて行われたミーティングで、厳重に注意事項を受けたというのに。『中学生は微妙な年ごろです。異性の生徒へのスキンシップや物言いは、特に気を付けて下さい! また、一人の生徒に肩入れしたり、といったこともしないで下さい。生徒達には依怙贔屓(えこひいき)として見られ、いじめに(つな)がったりもしますので!』


 更に後で教頭よりも恐ろしい爺樣から、こっぴどく叱られる事だろう。……気が重い。


 だが彼女を見た瞬間にフラッシュバックが起こり、自分を抑えられ無かったのだ……。



 

 ……これは昔の話だ。とても、とても昔の。


 俺は田舎の山奥に住んでいた。とはいえ、そんなに大きな山ではない。山の(ふもと)に村があり、村人は来ようと思えば俺の住む屋敷の側に簡単に来れるはずだった。だが訪ねてくる者は滅多に無く、寂しい子供時代を送った。


 14歳の誕生日に母が言った。「来年は15歳だねぇ。来年は盛大にお祝いをしなくてはね」いつもは強面(こわもて)で近寄り難い父も、酒を()み上機嫌で「そうか、来年は15歳か」と言った。爺樣も「15歳は大切なけじめの歳ですからな」と言う。なぜ15歳に(こだわ)るのか、そのときは不思議に思った。


 14歳を過ぎたので、今まで出歩いていた場所より少し離れた所まで出かけても良い、と言われた。ただ、絶対に麓の村へは行ってはいけない、と。幾日かは言い付けを守ったが、ずっと住んでいる小さな山の景色など、どちらの方角へ向かおうが代わり映えするものではない。直ぐに飽きてしまった。


 ある日、こっそりと麓へ向かった。しかし、山を降りきる前に泣き声が聞こえて来た。その方向にそっと近付き下草の茂みから覗くと、小さな女の子が泣いているのが見えた。悲しそうにしゃくり上げる姿……。


「君、どうしたの?」


 声をかけると、両手で顔を覆ったまま肩がビクッと震えた。見ると膝を怪我している。ここまで来る途中に小川があったのを思い出し、急いで引き返して手拭い代わりの布(母がこういった物を作るのが好きなのだ)を湿らせ、彼女の元へ戻った。


「ちょっとしみるかも、本当は洗っちゃった方が良いけどね」


 そう言いながら、傷口にびちゃびちゃの布をそうっと当てた。


「んーっ」


「ごめん、痛かった?でも、泥が付いてるから……」


「だいじょうぶぅ。ありがとぉ」


 ちょっと舌足らずの話し方が可愛らしかった。


「あたし、ミヨ。お姉ちゃんと遊んでたけど、はぐれちゃったの。それで捜してたら転んじゃった。お兄ちゃん、ありがとう」


 涙が乾ききらない瞳で真っ直ぐに見つめ、ニコリと微笑まれる。胸の奥がドクンと音を立てた気がした。


「帰り道、分かる?」


 自分の喋り声に、木々のざわめきと虫の声が戻ってくる。なんだかホッとする。


「分かんない」


「俺も、この辺詳しく無いんだ。でも……」


 川沿いを下れば村へ着く。以前、父と爺樣が話していた。


「おいで」


 先程の川へミヨを案内し連れ立って歩く。ミヨは川沿いに咲いた花を嬉しそうに摘み、紋白蝶や揚羽蝶を見て歓声を上げながら付いてきた。


 木立が(まば)らになったところから村が見え始めたので、みよに話しかけた。


「君の村って、あそこ?」


「あっ、ユリちゃん家だ。あたしのお家はね、向こうの方」


「じゃあ、ここからは分かるんだね?」


「うん。ユリちゃんにお花分けてあげようっと」


 両手で握った小さな花束が風に揺れる。


「じゃあ、俺も帰るから……」


「お兄ちゃん、また遊ぼう?」


 大きな瞳で首を(かし)げて訊かれた。遊んであげた覚えは無いが、彼女の仕草に駄目とは言えなかった。むしろ……。


「う、うん。またな」



 家に帰ると、母が直ぐに何処へ行ってたのか聞いて来た。本当の事は言い辛かったので、川で釣りをしていたと誤魔化した。お風呂が沸いているから入るように言われ、事なきを得たと思った。が、手拭いが落ち、拾おうとしたときに母が目を細め、見たこともない形相で「ニンゲンノ……ニオイ……」と言った。俺は驚いて、いつもと違う母の様子に気付かない振りをし、風呂場へ逃げたのだった……。



しまった!

予定より長くなりそうだっ!


もう少し、お付き合い願います。


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