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プロローグ
春。桜の季節。
日本人は桜が好きだ。
毎年新しい桜ソングが生み出され、その儚げな花の季節に彩りを添える。
ひらひら、はらりはらりとこぼれ落ちるピンク色の花びら……。
その花びらを風がすくい上げ、新たに花から離れた1ひらとともに、また舞い踊らせる。
海の波の様に、薪の炎の様に、見ている人の心を飽くさせることも無く、空を漂う。
その光景は何かを思い起こさせるかの様で、心が掻き乱される。
私は一体何を忘れているのだろう。とても大切な何か、忘れてはいけない何かを。切ない気持ちが胸の奥を締め付ける。
けれど、ーー
桜を見るのが好きだ。切ない気持ちを抱きながら眺める桜が……。