少年の過去(2)
サンは悲しまなかった。あの出来事から少しこうなることに気づいていたから。でも実際にいなくなってしまうと寂しかった。それは当時10歳のサンにとって、生まれて初めての不思議な感覚だった。
結局アカリがなぜいなくなったのか、サンにはわからないまま時間が流れていった。大人に聞いても誰も教えてはくれなかったのだ。
そのころから、サンの両親の仲は悪くなっていった。その理由はサンにはわからない。両親はまるで自分の味方を作るようにサンを取り合った。この頃から、サンは両親の愛に疑問を抱き始めていた。
「お父さんとお母さんは、本当に僕を愛しているのだろうか……」
それをきっかけにサンは両親というものを強く意識し始めた。そしてあることに気づく。
「アカリの両親に会ったことがない」
生まれたばかりのころから一緒だったのに、一度もなかった。これはどう考えてもおかしいだろ。会ってみたい。
しかし、そこでまたあることに気づいた。
「アカリの家がどこなのか知らない」
……僕は、アカリのことを何も知らなかった。僕は、アカリと仲がいいと思っていただけ。本当に友達になれていたわけではなかったんだ。
サンにはもう、落ち込むことしかできなかった。元気のないサンを島の住人たちは心配したが、彼には何も届かない。アカリはなぜ、どこに行ってしまったのだろうか。
サンはアカリを探しに行きたいと考え始めた。今度こそ、本当の友達になるために。
そんなサンをよそに、彼の両親は船を造り始めた。その理由はサンにはわからなかったが、サンはこれをチャンスと考えた。
「これを使ってアカリを探しに行けるかも……」
もう、この島を出ない理由のほうが少なかった。両親もきっと僕のことを心配なんてしない。味方に付いてくれる人が減って不安になるだけに決まってる。それよりむしろ、島の人たちを心配にさせることに気が引けた。そこで、一番仲良くしてくれていたおじいさんにすべてを話した。
「お前がそう思ったのなら、そうするといい。できる限り協力してやる」
このおじいさんもアカリがなぜいなくなったのかわからないそうだ。しかしおじさんはたくさんのお金を握らせてくれた。旅にはどうしてもお金が必要になるだろうからと。サンはおじいさんに感謝して「行ってきます」と、短く言った。
翌日の夜遅く、皆が寝静まってから少年は旅立った。枕元にあった、今までのことを謝る両親からの手紙には気づかずに。
これが13歳の少年の、愛からの逃避行。そしてアカリを探す旅の始まりである。
……今、サンの目の前では泥棒少女が不機嫌そうに眼を覚まそうとしている。
これにて少年の過去編はいったん幕を閉じます。