何歳?
五日目。二日間海をさまよってやっと島が見えてきた。まだ小さくしか見えないが。今度はどんな島だろうか。前の島があんなものでなければわくわくできたかもしれないが、もはやそんな余裕はない。ただ普通の島であることを願うばかりだ。
……普通の島。それってどんなものだっけ?ああ、まただ、また旅に出る前の記憶が消えている。どんどん、どんどん、消えていっている。ついに故郷の風景を忘れてしまった。
これはどうすればいいのだろうか。帰ればいいのかもしれない。でも帰れるわけがない。だっていずれは帰り方も忘れるだろうから。いや、もうすでに恐らくは帰れないだろう。
こんなことになったのは自業自得なのだろうと思うけれど、いまはとにかく、生きなくては。
上陸。桟橋から陸に入る。今度の地面は土でできている。特に何が書かれているわけではなさそうだ。これが普通の島だっけ?
割と呑気にそんなことを考えていると、一人の軍服を着た男が近づいてきた。
「君!勝手に入国されると困るよ。ちゃんと入国審査があるゲートから入ってくれ」
……じゃあこんなところから入られないようにしておけばいいのに。そう言いかけたとき、そばにいた小人の女性が割り込んできた。
「あのねぇ、じゃあこんなところから入られないようにするべきなんじゃないの!?本当にこの国の管理体制はザルね」
そう、それ、僕が言いたかったこと。
「もういいでしょ?入国審査って言ったって、たいしたことしないんだから」
「わかった!もういい!その代りお父さんやお母さんにこのことは言うなよ!あと不法侵入のお前、船は見えないとこに隠しとけ!」
そう言い残して軍服の男は足早に去っていった。そんなこと言われるならちゃんと入りなおすのに。女性は少しの間僕を見て言った。
「あんた、私とだいたい同い年くらいね、年はいくつなの?」
「年って、何?」
「は?何歳かって聞いてるのよ」
それって、なんだっけ?
この時、少年の心には何かが芽生えただろうか。芽生えたとしたら、それは何だろうか。