一方通行
漂浪三日目。そろそろ最初の食料に終わりが見え始めている。そんな焦りが芽生え始めたころに、初めての島が見えた。よかった。よかったのだけど、大きな違和感。
「紙だ……」
近づけば近づくほど分かる。この島、紙でできている。陸が紙だ。木や建造物は特に変わったところはない。どんな仕組みかはわからない。こんな島にまともな食料はあるのだろうか……
上陸。紙の大地の踏み心地は案外普通。ちょっと期待外れ。ここでやっと気づいたことがある。
「ところどころに文字が書かれてる……」
基本的に真っ白な紙だが、黒く文字が印刷されている箇所がある。どれも内容は違うようだ。一番足元に近いものを見てみる。どうやら同じ文字が繰り返されている。
『サンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサンサン』
『帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで帰っておいで』
サン……。僕の育った地域ではよくある名だ。友達……?両親……?
両親……。それってなんだっけ?
そんなことより早く、食料を見つけなければ。町を、見つけよう。できれば日持ちするものがたくさん扱われているといいな……。
店が何もない……。この島では自給自足が基本らしい。どうすればいいものか。そのとき、一人の小さな人間が近づいてきた。
「お兄ちゃん、これあげる!」
差し出してきたのは籠いっぱいのリンゴとパン。
「君、まだ小さいのに旅してるんだろ?応援しているよ、少ないがこれを持っていきなさい」
「あ、ありがとうございます」
旅か…。あれ?なんで僕は旅なんてしているんだっけ?それに、この仲の良さそうな小さい人間と大きい人間はなんだ?
とにかく、これでまた海に出られる。彼らには感謝しなくてはいけない。たぶん、この旅に目的なんてなかったんだ。なんとなく、放浪のために海に出た。それでいいではないか。
船に乗る前に、もう一度陸である紙を見た。
『このままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだこのままじゃだめだ』
ここでまた一つ、疑問が生まれた。
「あれ?僕の名前は……?」