少女の過去(2)
少女は小さな島で生まれた。しかし少女は恵まれていなかった。両親はろくでなしだし、まともな家すらない。他の親族はずっと遠くにいるらしいからそこに行くこともできない。彼女は恵まれていなかった。
少女の名前はアカリ。恵まれていないにもかかわらず、彼女は活発で明るい性格だった。
アカリには、たった一人のサンという友達がいた。女々しいとも言えてしまうほどに気が弱い同い年の少年だ。それでも不思議と二人は仲が良かった。
しかし、アカリは時々サンを恨めしく思うことがあった。それは、サンの幸せが垣間見えるとき。例えば、サンが母親の手料理の話をしている時、父親が一緒に遊んでくれた話をしている時。その時のサンに悪気はない。それはアカリにもわかっていた。でもやっぱり、そんな日の夜は泣きそうになりながら眠りについたものだった。一人、藁の中で。
ある日、サンが突然こう言いだした。
「僕ね、ここに生まれてよかったって本当に思うんだ。お父さんとお母さんも、島のみんなも優しいし、アカリと遊ぶのは楽しいし、ご飯は毎日おいしいし、幸せだ」
その時、アカリの中で何かが途切れた感覚があった。今まで何かを押し黙らせていた堤防が一気に崩れていく感覚。
アカリは自分でも、その後なんと言ったのか覚えていない。でもなんとなく、もうサンとは一緒に居たくないと思ってしまったのは確かだ。
その日の夜、アカリは夢を見た。サンが、暖かい部屋で両親と笑いながら楽しそうに話している光景。
ただそれだけだったのだが、その時のアカリにある決断をさせるには十分なものだった。
数日後、アカリは島を出た。その先にサンが感じているような幸せがあるわけではないということを知りながら。
サンが財布を取り返しに来た時、アカリは本当にうれしかった。サンが怒っていることは知っているけれど、それでもまた会えたことに胸が締め付けられる思いがしたのだ。




