マオ、迷子になり〈魔王魔法〉を使う
遅くなりました。
12月23日 誤字の修正をしました。
ユウキの案内で、街の近くにある森にやって来た。森の中は、草原と比べると少し薄暗い。光源が、頭上から射してくる光──木洩れ日だけだから仕方がないことなのかもしれない。
「森の中には、モンスターだけでなく"動物"もいるから、注意してくれ! 動物はいくら狩っても、スキルレベルは上がらないからな!」
「それでは、動物は何の為にいるのでしょう?」
ユウキの説明では、動物の存在理由が無いように思える。実際、スキルレベルが上がらないのでは、狩る理由がない!
「いい質問だな! 近い内に分かるだろうけど、モンスターの肉は"食べられない"のがβの時に判明している。
どう調理しても、毒なんかの『バットステータス』が発生するんだ! 誰もβの時に解明は出来ていないんだ……」
ユウキは「やれやれ」とゼスチャーをしている。現実では、家族はおろか、あの娘もボクに料理をさせてくれない! 理由は知らないが、ゲーム内くらい料理を作ろう!!
決意を固めているボクの前方で歩いていた、ユウキが冷や汗を流していた事を知っているのは、本人以外にはいない!
森の中を歩き始めて、最初に出てきたのは『ゴブリン』というモンスターだった。強さは、最弱モンスターのラビットより強いくらいで、も~ぎゅうと比べると数段弱い。
出てきたゴブリンは2匹で、ボクとリオが分けて対応した。時間がかかったのは、意外にもリオの方だった。ボクの方は、ワンパンのオーバーキル。弱すぎて、詰まらないくらいだった。
リオはゴブリンを倒したのだが、スキルが上がる形跡はない。最初に戦ったも~ぎゅうに関しては、ボクが生殺しにしてしまったので、止めの分しか経験値が入らなかったらしい。
ボクのスキルレベルに関しては、も~ぎゅうとゴブリンでLV2上がっている。明らかにチートだろ……魔王様。
「ゴブリンのドロップは、『腰布』だけですか?」
ボクがユウキに確認すると、「レアドロップなら、"錆びた短剣"がでる」と教えてくれた。レアドロップは、5%未満の低確率での入手アイテムをそう言うらしい。
「レア度はあるのですか?」
先ほど入手した、腰布を見ながらユウキに問いかける。
「リアルワールド規準で、最低の"G"──ゴミ、"N"──ノーマル、稀少な”R”──レア、より稀少な”HR”──ハイレア、固有装備と呼ばれる"SR”──スーパーレア、現存数が3桁もない”LR”──レジェンドレア、公式設定だけに存在する1桁の”M”──ミソロジー。
簡単に入手出来るのは、ノーマルがほとんどだ。レア自体はプレイヤーメイドなら、比較的入手しやすい」
そして、ゴブリンの腰布はGらしいのだが……。
【ゴブリンの腰布】 臭いのでニオイを嗅がないように注意!(N)
()内がレア度なら、おかしい! ユウキの説明通りなら、(G)となっているハズだからだ!!
ソッと、確認の意味を込めて、ユウキの前に差し出した。確認した3人の目の色が変わる。
「──これって、おかしくない?」
「普通では、出ないよな?」
「う~ん、なんでかしらぁ~?」
ボクから離れた位置で、3人は議論を交わし始める。ボクはその様子を少しの時間眺めていたが、結論は出なかった。
何となくではあるが、ボクには原因らしきものに心当たりがある。それはステータスの1つである【LUC ××××(測定不能)】が理由ではないと思っている。
色々と議論を交わしている3人を尻目に、ボクは周囲に視線を流した。視界に映るのは草、草、草、草──木、木、木、木。
そういえば、〈鑑定〉とかのスキルを取ってなかったのを思い出した! でもドロップアイテムの詳細は、何故分かったのだろうか??
「──取り合えず、引き抜いてみましょう!」
ボクは3人に聞こえないように、小さな声で呟きながら1番近い草? の元に向かう。周囲をザッと確認してから、しゃがんで草に手を延ばした。
ボクが手を延ばしたのは、オオバコに似た草である。放射線状に細い茎が延び、先端が広がっていて例えるなら"スプーンの形"というと、想像がしやすいと思う。
採取したモノがこちら。
【薬草】 食べるとHPを回復する。味は、『とても苦い』。
HP+1%
どうやら当たりだったらしい。しかし、この回復量の少なさはどういうことなのだろうか? やっぱり、〈調合〉とかで薬にするのが前提の回復なのだろうか?
疑問は尽きないが、取り合えず薬草の数を揃えよう!
いざ、調合! と思ったときに、材料が足りないのは勘弁だからね!
このときのボクは、1つ重要なことを見落としていた。そのことに気付かないまま、採取を続けて薬草・毒消し草・解マヒ草と3種類の草を見付けた。
その際に、毒草やマヒ草などの状態異常を起こすであろう草たちを、薬草とかの量には遠いが採取できた!
そして──満足したボクは、顔を上げ周囲を見回した。
「皆さんは、何処に行ったのですかね?」
ボクから目を離すとは、ボクのことを理解していないようだね!! しかし──どうしましょうかな??
「どっちに行けば、街に着くのでしょうか?」
どれだけ見回しても、周囲にあるのは"木と草"のみという詰んだ状態。街がどの方角にあるのか、迷子になったボクには見当がつかない!!
ゲーム内なので、2~3日くらいで何処かの街には到着するだろうけど、【第1の街】に辿り着けるかは運次第ってところかな?
そうなると、問題は1つ。
「ご飯は、どうしましょう?」
それが1番の問題だ! いずれは『料理をしたい!』と意気込んでいるものの、現時点では『調理法方ですら知らない』八方塞がりの状態である。
今、思い返せば不思議に思う。小・中と学園では『家庭科』はなく、部活もなかった。変だよねえ? お爺様は何を考えて、学園の授業から『家庭科の授業』を消したのだろうか?
「考えたところで、状況変わるわけが無いですよね~」
10秒くらい考えたボクの脳裏には、1つの方法が浮かんだ!
「──さあ、杖よ! 面白い方向に、ボクを導きなさい!」
腰に差していた杖を抜き、地面に立てる。きっと誰もがやったことがある、1番簡単な呪い。『明~日、天気に~な~れ』と双璧をなす、先祖代々伝わる遊び。
コンっと倒れた方向は、ボクから見て左手。
「それでは、先に進みましょう!」
ボクは杖の示した方向──後で教わったのだが、森の奥地に向かい歩き出した。
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Side:ユウキ
俺たちがマオのドロップの検証をしていた最中、忽然とマオの姿は消えていた!?
「リオの方で、何か痕跡はあったか?」
「何もなし! も~、マオったら『自分が極度の方向音痴』だと理解しているのかしら?」
そういうとほとんどのヤツが、「何故、教会に辿り着けたのか?」と思うだろうが、教会は街の中で1番大きく、高い建物だから目印としては使いやすい。
それにマオ自身も、周囲の人に場所の確認をしながら歩いてきたらしいし……。
「でも~、本当にぃ~、何処に行ったのかしらぁ~?」
サキは普段通りの、のんびりとした口調だが、内心焦っているのが俺には分かる。リオがこの中では1番焦っているが。
「放っておくと、この森が"半焼"しかねないぞ!?」
この言葉を、大袈裟に捉えるか、冗談と思うかで反応は別かれるだろう。実際のとこりこの言葉は『真実』であり、『ゲーム内では起こっても不思議ではない』話である。
「そういうけどさ、マオが何処に向かったのかユウキに分かるの!?」
リオが俺に向かって叫んでくるが、リオが予想出来ない以上──俺が簡単に予想はでき……ブルッ! 背筋が震えた!
まさか……マオのヤツは、森の奥地に!!
「あの~、森の奥はぁ~どうかなぁ~?」
サキも俺と同じ考えに至ったようだ。マオの戦闘力からしたら、この森のボスは楽勝だろう。
ただ、マオの戦闘本能が解放されるとそのあとが大変だが、場所の発見は簡単になる。
俺たちは話し合い、森の奥地に向かうことにした。
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ボクは、杖が指し示した方向に歩き出した。目に映る樹木の質は結構高そうで、杖を作る材料に向いていそうなのだが、ここでリアルワールドの仕様が牙を向いてきた。
『9種類9個』という、ユウキが言うこのゲームだけの特色。
今はまだ、"アイテムバッグ"や"アイテムポーチ"というアイテムを保存する道具を入手していない。今回収している量は、薬草を2枠18個、毒消し草・解マヒ草・毒草・マヒ草を各9個づつ採取している。
ただこれで全てではなく、【ゴブリンの短剣】が2本、【ラビットの毛皮】が2枠15個と初期分が埋まっている。現状では、何かをとる為には何かを捨てないといけない。
しかしながら、解決策に心当たりがある。
ボクはこれでも小説が好きで、結構な量を読んでいる。理由は、本なら簡単に『普段できない経験を想像できる』からである。
そこから、〈空間魔法〉的なスキルは無いのか考えた。
結論を言うなら、【特殊系統魔法】の1部ではないか? という予想である。この推測が当たっているなら、〈魔王魔法〉という規格外ネームのスキルで代用出来ないか? という骨董無形なモノである。
ステータス画面を弄りながら、いろんなことをしていたら──スキルは長押しをすることで、簡易的だが内容が分かるようだ。
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〈魔王魔法〉 通常ではあり得ない量の魔力で、発動させる魔法の総称。全てのスキルの頂点に君臨するスキルだが、創造・発動には10倍の魔力を必要とする。
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これは、知られると不味いスキルなのではないのだろうか?
まあ、現状で誰が使えるのかは不明だが、ボクのような極端なステータスでない限り使いずらそうだ。
「いざ、実験です! イメージは『貸倉庫(大)』くらいの大きさで、今ある"全魔力"を使用しましょう!」
ガクンっと、体内から力が抜けていく感じがした。MPバーを見ると、空っぽになっていた。
【〈魔王魔法〉の行使を確認しました。"魔法創造"の技能を使用して、【特殊魔法】 『アイテムボックス』を創造しました】
システムの声だろうか? ステータス画面を確認すると、魔法の欄に『アイテムボックス』の文字が加わっていた。
長押しで内容を確認すると、『創造者の使用したMPの100分の1の種類のアイテムを、99個づつ保存できる。ただし、時間経過が発生するので、アイテムの劣化は防げない』と現れた。
単純な効果だけでは、不良品と思う人もいるだろうが、【第1の街】で売っているアイテムバッグは、最高級品でも『50×10』というユウキの話からすると、かなりチートな魔法だろう。
使用する際のMP消費は『ない』仕様なので、それがより拍車をかけている気がする。
出し入れは、イメージで行うようだ。簡単に出来た。
「──ちょっと、予定からズレましたが、バンバン素材の回収を行いましょう!」
──これは余談だが、ボクの回収した跡は、のちに訪れるプレイヤーに休憩場所として利用されたそうだ。
素材回収に意気込んだものの、斧とかの道具はまだ揃えていなかった。それを思い出したので、最終手段である【拳】を使うことにした。
〈魔闘術〉を回復している分の魔力を使い発動する。強化された拳で木の幹をへし折り、アイテムボックスに収納する。
最初はスムーズに出来なかった作業だが、時間と共に流れ作業として処理していた。作業の効率が上がる毎に、スキルレベルが上がるので結構美味しい時間だった。
スキルレベルが上がるときは、ほとんど同時に上がるのでどんどん効率化され、最終的には手間を減らすため、幹の根本付近を片手で掴み引き抜く作業に変わっていった。
「──ふぅ~。これだけあれば、しばらくは大丈夫でしょう!」
作業を終了したときには、大きな空き地が出来ていた。大きさは100平方メートルくらいだと思う。それだけの土地を切り開いたのだが、アイテムボックスの容量は1割くらいしか埋まっていない。
『枠』単位での話ではあるが──。
そこから杖の倒れた方向に歩いていく。どれくらい歩いたのかは分からないが、目の前には開けた場所が見えてきた。
ここからでは判断がしにくいが、恐らくは猪だろう獣が鎮座していた。ボクの思考は可及的速やかに、探索から殲滅に切り替わっていた。
目の前のモンスターの大きさは3mはあるだろう。体高ですらボクの倍近くはありそうだ。これは、手応えがありそうだと内心微笑む。