マオ、色々と教わるが、疑問は増えていく
サキが〈無属性魔法〉の実演を行うというので、ラビットを探しながら平原を歩く。この平原の草はそれほど長くなく、だいたい5~10cmくらいの長さだ。
ユウキの説明によれば、この平原で出現するモンスターは、ラビット、ウルフ、バッファローという話である。これはあくまでも地上の生物であり、街から離れることにより『鳥型』が、森に近付くと『虫型』が出てくる。
「──なかなかいませんね……」
探し始めてそろそろ20分になる。この間、ラビットは当然のこと、他のモンスターとの戦いもなかった。
──何故だ?
それから更に10分ほどして、やっとモンスターと出会った。こうなった原因は、ユウキが教えてくれた。
「間違いなく、スタートダッシュのせいだろう」
何のことか詳しく聞いてみると、〈戦闘系スキル〉は戦うことで、〈生産スキル〉は生産活動を行うことでスキルレベルが上がるかららしい。
その為、戦闘職がモンスターを「我先に!」と狙い続けていることが原因だと言っていた。特に、βテスターを落ちたゲーマーは、この傾向が強いようだ。
現に、リオを見ると戦いたそうにしている。(戦闘狂っぽい)
「────【魔力弾】」
ユウキの説明を思い出しながら、見学していたが──〈無属性魔法〉って弱くねぇ?
そんなボクの顔を見ていたユウキは、苦笑しながら教えてくれた。
「魔法に関しての詳しいところは門外漢だが、リアルワールドにおいての魔法は、『最低消費MP10』になるらしいんだ。サキの使ったMPも最低量だろうから、あの程度の威力になる。
ちなみに、各属性の初級魔法として【バレット系】を覚えているが、無属性と比べると倍くらい威力に差がでる」
「────【水魔弾】」
今度は、水属性の魔法を使ったらしい。先ほどは怯んだくらいだったのが、弾き飛ばされている!
なるほど! これが〈無属性魔法〉が魔法の1つとして、サキが上げなかった理由か!
──実際に目にして、納得させられる。
「どうかしらぁ~?」
ニコニコ笑顔でサキが聞いてくる。ボクは笑顔で頷き返した。
「公式サイトに載っていることだが、魔法のみならず『属性には優劣』か存在する!
1番有名なのが、『火は水に弱く、水は土に弱く、土は風に弱く、風は火に弱い』というものだ!」
「ちぃ~なみにぃ~、『光』と『闇』は4属性とはぁ~、無関係よぉ~」
サキが補足してくれた。詳しくはこうだ。
━━属性における優劣━━━━
①4大属性には優劣があり、モンスターにも『属性』がある。
②『光』と『闇』は互いが、特効属性であり、弱点属性でもある。但し、4大属性に対する優劣はない。
③優劣による"相殺"には、『完全相殺』と『劣化相殺』がある。完全相殺とは『±0』の状態であり、劣化相殺とは『どちらかがちょっと強い』状態である。
④光と闇はそれぞれ、特化種族がある。光➡ゴースト・スケルトンなどのアンデット特効、闇➡精霊種特効。
───────────────────
──と、こんなところかな? 細かすぎるところは、理解しきれないからね!
『ブモォォォォォォォォォ!!!!』
説明を聞きながら、情報を脳内でまとめている最中、背後から牛のような鳴き声が聞こえた。
背後を振り向くと、そこにいたのは『牛』だった。頭部から角が出ているので、『バッファロー』とも言えなくはない。
──白ベースの黒斑点を無視したら!
「おう! あれは『も~ぎゅう』だな!」
「モーギューですか?」
「違うよぉ~。も~ぎゅうよぉ~! 名前はひらがなねぇ~」
──紛らわしい名前だ! いったい誰が付けたんだ?
そう思うが、ふと脳裏には"1人女性"が浮かんだ。それは『母様』である。ボクも似たような自覚はあるが、言動からして突拍子もなく、「お肉が食べたいわね~」と言って牛を1頭丸々買ってくるくらいは朝飯前だ。
──牛肉(正確には牛)の半分を食べる食欲がある……
それだけで分かるかもしれないが、母様は直系で、父様は遠い分系に当たる。家の開祖は同じ人物である。この辺はゲームに関係ないので、割愛しよう。
「それじゃあ、も~ぎゅうを使って、アーツを──」
そう言おうとしたユウキだが、突然顔中に脂汗が浮き上がった!
原因は明白で、隣にいるリオだ。先ほどから、「戦わせろ! 戦わせろ! 戦わせろ! 戦わせろ! ──」と正直、煩くて危険な女になっている。
理由は分かるけど、もう少し落ち着いて欲しい。
「──分かった、わかった! リオに任せるから、落ち着いてくれ!!」
あれは、本気の懇願だ。ユウキがここで下手な対応をしたら、3日3晩枕元で『呪詛』を言われること請け合いである!
「おっしゃ━━━━━!!」
右手に短剣を持ち、天に掲げるリオ。
──もう少し、乙女らしい行動をしてください。
そう思うだけで、言わない。実際に、言ったところで「私は乙女らしいわ! (サキほどじゃないけど)胸だってあるしね!」と反論してくる。
だが、あの娘に負けるのは、時間の問題のような気がする。
「──じゃあ、サキが先ほどやったように、【魔力弾】で牽制してみますね」
眺めているだけってのも寂しいから、支援することをリオに言う。ただ、本人が聞いていたかは不明。
「出陣じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、すでに駆け出しているからだ。このゲームが絡んだときの、性格の変わり具合はかなりのものだ。恐らくではあるが、βテスターに落ちた反動だろう。
──この間、1秒にも満たない。
も~ぎゅうも駆け出しているため、互いの距離は50mもない。焦らず、慌てず、落ち着いて──ボクはも~ぎゅうの足を狙って、大地を抉りながら進む様子をイメージする。
「(使う魔力はサキの10倍くらいで──)【魔力弾】」
ごぅ!!
予想以上に大きい魔力弾が、も~ぎゅうを目指し突き進んだ!
ボク以上に、その現実に驚いていたのは、サキであった。
【条件を満たしました。スキルに〈魔王魔法〉が加わりました】
それ以上に衝撃的だったことは、このシステムの言葉であった。サキから聞いたばかりの、魔法系統に属していない、『系統外魔法』──それ則ち、"特殊魔法"と言うことだ。
イメージ通り、地面を抉りながら進んでいくマナバレット。
その大きさは、サキの使ったアクアバレットの10倍に近い大きさに見える。
大きさに関してだが、サキのアクアバレットは直径10cmくらい、ボクの放ったマナバレットは直径が1m近いある意味異常なくらい込めた魔力の量が原因で、大きさに差が出たのだろうか?
──興味が尽きない!!
先ほど入手した【固有能力】に関しても色々聞きたいが、話せない気がする。
主に、稀少度が原因で……。
ユウキに誘われて始めたゲームだが、スペルの多様性・変化を調べるのも楽しそうだ! 何よりも、この『魔法・魔力』で新しい何かを産み出すことは出来ないのだろうか?
考えることが色々と増えそうだが、それに反して楽しみが増える予感がしているので、今の心境はワクワクしている。
放ったマナバレット? に関しては、も~ぎゅうに当たると、その巨体を1mほど上に浮かび上がらせた!
これが、昔のゲームなら【改心の一撃!! も~ぎゅうは、瀕死のようだ!】とかテロップで出ているのだろう。実際にヤツは起き上がれず、リオのナイフの突きで粒子となった。
ラビットのときに表現していなかったが、リアルワールドにおいて、『倒したモンスターは粒子になる』のだ。この現象は、モンスターだけでなく樹木・岩石などの素材を切り出したときにも発生する。
ただ、リアルワールドというゲームには、他のゲームにあるモノがない。
──あるモノとは、『アイテムボックス』的な持ち物の無制限所持機能だ!
その為、プレイヤーは【即席鞄】や【魔法の鞄】などのアイテム保存袋or鞄を早期入手しなくてはならない。
初期装備として、【道具袋】を与えられてはいる。容量がネックなのは言うまでもないことである。
アイテム袋に入る量は、『9種類9個まで』と何処かで聞いたことがある条件になっている。
安いバック系は、この第1の街でも買えるし、作製することも出来るらしいが、詳しいことは次の機会に話したいと思う。
も~ぎゅうに止めを刺したリオが、「不完全燃焼だ!!」と言わんばかりの表情で歩いてくる。ボクの前に来たリオは、正面からボクを抱き締め、締め上げた!!
痛い!! けど、柔らかい!! だけど、苦しい!!! しかし、柔ら温かい!!!!
「マオ──私の獲物を取ろうとした! 酷いよ!
罰として、ぎゅ~っとする!!」
口には出さないが、「いつもの行動」である。基本的に、リオには抱き付き──いや、抱き締めグセがある。対象は『ボク1人』だけである。
まあ、他の人にしないのは性別的なこともあるが、根本的原因は『絞め殺しかねない』からだ! まあ、ボク個人だけだったので、意外と容赦ない。
──ピコーン! ピコーン!
「あらぁ~?」
サキもこの音に気付いたらしい。何だ? この電子音は??
「この『音』なんだが──発生原因は、マオだ」
初耳だ!! ステータスを確認すると、HPバーが黄色に点滅している!!
ボクは慌てて、〈魔闘術〉を発動させ、リオのお腹に掌を当て、魔力を流す。体に『ズン!』と重い衝撃が来た。
【アーツ【魔王掌】を入手しました】
ポンポンとスキル・スペル・アーツを覚える現状の中で、1つの原因に気付く。それしか「思い当たらなかった」と言うのが本当のところだが……。
──職業【魔王様】──理不尽なくらい、チートな職業みたいだ。
リオの抱き締めから抜け出すことに成功したボクに、サキからの回復魔法が飛んできた。ヒールの回復効果を受け取り、体が瞬間的に輝く!
警告領域まで減っていた体力が回復するが、ボクの体力値は2000で4割くらいしか回復していない。ユウキに使っていたときは、全回復していたことから推測すると、『回復量は500』ということになる。
ユウキのHPは480、スキル補正を加えても大体『600~700』前後と推測できる。ボクのHPバーが黄色になって警告音が鳴ったのが、バー全体の2割だったことから最低でも3割を切っていないのは確実だろう。
──まあ、詳しいことは良いか!!
面倒になったので、考えていたことを放棄する。考えたところで、ユウキのHPを知らないからだ。
まあ、知っていても、意味がない気もするってのも理由だ。
そんなことよりも、【魔王掌】を食らったリオが座ったままなのが気にかかる。もしかすると、何かしらの状態異常が起きている可能性もありそうだ。
ボクがリオを見ている様子から、何を考えているかを理解しているようにユウキが教えてくれた。
「今のリオに起こっている状況は、HPが一撃で7割以上減ったことによる『気絶』という状態異常の1種だ。ちなみに、8割以上だったら『昏倒』という状態異常になる。
気絶だったら────」
ユウキの説明中に、サキはヒールの詠唱をしていたらしく、リオの体が輝いていた。光が収まるとリオは立ち上がり、屈伸運動をして身体の状態を確認している。
「サキから聞いていたけど、体験すると結構精神的にくるわね」
そう言いながら、片方づつ腕を回すリオ。
「サキのしたように、回復魔法でHPを『9割』まで回復したら治る。ちょうどいい機会だ。紙装甲に近いマオとリオがいるんだら、この際覚えて欲しい。
先ほどの『気絶』は、HPの回復か、時間経過でしか治らない。特に、ソロプレイをしそうなマオは気を付けてくれ!
それと、ソロで『昏倒』になったら死に戻りは確実だ」
ボクはユウキから視線を反らすのだが、気付いた。
始めて聞く単語が出てきたからだ。『死に戻り』とな?
「マオは、この手のゲームをほとんどしないから知らないだろうけど、こういったRPG系のゲームには"復活拠点が設定されているの。
──第1の街では、『教会』になるわ。
この『死に戻り』だけど、大体は『金額的な損失』で、酷いものだと『ランダムで素材を失う』モノのあったの」
ボクの疑問には、リオが答えてくれた。ユウキから聞いていた『復活』のことだった。納得する。
しかし、胸を張る必要はないだろう? 『ない』とは言わないが、『控えめ』なモノを強調しなくても……。
「ああ、このリアルワールドでは、その2つに加え、『ゲーム内時間12時間のステータスダウン』が発生する。βでは"12%"だった。
正規盤の方も、『βと変わらなかった』とスレッドに書いてあった」
試した人がいたことに驚くが、結構ペナルティーが重くない?
ボクの場合だと、『INT3900➡12%ダウン➡468落ちる➡INT3432』になる。
それにHP・MPの元値のステータスが落ちるんだ、最大値の減少の予想はそう難しくない!
もう1つの予想では、初期ステータスが低い面だ。各数値が『200~300』とすると、減少は『24~36』くらいになると思う。
「マオも答えに行き当たったようだが、HP・MPの最大値は減少する。先ほど『12時間のステータスダウン』と言ったが、発生しているマイナスは徐々に回復する。
──だいたい1時間毎に1%づつ回復する。
1番の注意点は、『活動時間』と言うことだ。宿屋での睡眠による『時間経過回復』は当てにできないことだ!」
ボクの場合は、生産も行うつもりだから、何かを作っている内に回復するんじゃないかな?
採取をして時間を潰すのも手段の1つだろう。
ユウキたちから大まかなレクチャーを受け、ボクは最低限のことを理解した。
このレクチャーの中で収穫だったのは、『スキルが無くても、色々出来る』点と、『〈魔法才能〉があれば、〈無属性魔法〉が使用できる』ことだ。
ユウキの予定では、これから近くの森で採取と狩りをするみたいだ。モンスターの出現傾向は、草原➡森➡岩石地帯=砂漠➡山➡洞窟➡ダンジョンらしい。
ダンジョンでは、レアアイテムが入手しやすいと言っているので、是非攻略に行きたい!