マオ、ゲームについて教わる
変態紳士ハムにより、ボク仕込みの悪戯は、明後日の方向にネジ曲がっていった。「どうしましょう?」という気持ちが無いわけではないのだが、現在の心境のほとんどが「傍観していましょうか──」といった感じに傾いてきている。
「○□■★△Ш☆ШШ■→!!」
「□☆─△☆■→Ш□○○!」
先ほどから、リオが事態を大きくして楽しんでいる。
事態を収拾できる人物の1人であるユウキは、リオがボクの前に出たときに抜いた『剣に殴られ、気絶』したままだ。
街中での攻撃は不可能であり、正確に言うなら『PVP』以外ではダメージは入らない仕様らしい。ただ、ダメージは無いが、『気絶』などの状態異常は起こるそうで──。(サキ談)
何故、サキから情報を得ているのかと言うと、『助けられたフリをして、【フレンド登録】をした』からだ。
『それにしてもぉ~、マオの姿を見たときはぁ~、驚いいちゃったよ~?
「何処の女の子が来たの~!?」って、一瞬考えちゃったのよ~?』
『ですが、騙されなかったじゃないですか?』
『それはねぇ~リオが、落ち着いていたからだよ~。あれでリオが慌てていたらぁ、私は騙されていたと思うよ~』
そういってサキが向ける視線の先には、ハムさんを煽るリオがいた。変に煽らないで欲しいところである。
話が落ち着かないまま、1時間が過ぎ、目覚めたユウキが説明を行い、「ロリコンではない!!」と公衆の前で声高らかに公言していた。見ていた人は、笑っていたが──。
──蛇足になるが、ユウキはこれ以降【隠れロリコン】の2つ名が付いたと聞いた。
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「全く、酷い目に遭ったぞ!!」
周囲の周囲の冷たい視線に晒された、ユウキはそう文句を言ってきたが、正直なところは「そんなこと、知ったことじゃないです!」と言いたい。
実際に30分は、ボクの楽しみで使っているので、あまり酷い言葉を吐かないけど!
残り30分は、キルステさんに捕まっていたことが原因だ!(ボクは被害者です!!)
「ボクがどう足掻いてもVRである以上、※ガーリッシュなのは変わらないですから……」
──っか、悲しくないんだから!!
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ガーリッシュとは?
ボーイッシュの逆を指す、勝手な造語である。辞典に載っていたら、申し訳ない。
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「それにしても、マオの変身はスゴかったね!」
ドッキリに使った服から、プレイヤーのみ使える【コスチュームチェンジ】で着替えたボクは、ニコニコと笑ってリオが誉めるが、正直嬉しくない。だって、ボクは"男"なんだ!!
──あの服装では、説得力はないか……。
「ねぇ~、マオの服ってぇ、さっきのも含めて"プレイヤーメイド"だよねぇ~?」
サキは、ボクが来ている服が普通ではないことに気付いたようで、ボク自身もこのような服を着ているプレイヤーを現時点では見かけていない。
「やっぱり、珍しいですかね? 一応、貰い物なのですけど」
ボクの言葉に、「βプレイヤーか──」とユウキは確信したように頷く。サキに関しては、「ねぇ~、それって誰?」と聞いてきたのでボクは、何も考えずに気楽に答えると、驚かれた。
「それって"裁縫師"キルステじゃないか!?」
「そぉねぇ~、キルステさんなのはぁ~、間違いないねぇ~」
ボクの着ている服を見ながら、サキは服の仕上がりから読み取ったのだろう。やはりキルステさんは、有名人だったようだ。
なるほど──通りで正規版スタート時点で、十数着以上の服を持っていて試着させられたワケだ!
「でぇもぉ~、マオはどうやってぇ~、キルステさんと知り合ったのぉ~?」
サキは、ボクとキルステさんの出会いを聞いてきた。やっぱり聞きたいのか……。答えるのは問題ないが、出会った原因はアレなので──正直なところは話したくない。
ボクを使った『着せ替えごっこ』とかは──。
「あそこにある、お店の前で声をかけられました」
そう言ってボクは、キルステさんの店を指差した。ここからの距離は20mくらい離れている。曲がり角に面しているので、この場所からは少し見えにくい。
「その『魔法使い』っぽい服も、裁縫師が?」
ボクは頭のサイズに対して少々大きい、とんがり帽子のズレを直しながら答えた。
「そうですよ! 魔法使いの正装の1つだと聞きました!」
今のボクが着ているのは、上は長袖の白いシャツに赤いリボン帯を蝶々結びしている。少し手の甲を隠すくらい長い。
下のズボンは膝下くらいの丈で青色のハーフズボンを履いている。サイズが大きいので、結構余裕はある。
また、ズレ防止のベルトを隠すように、ローブから延びた大きな飾りベルトをしている。(結構留め具が大きい)
靴は登山用のようにしっかりとした造りと、茶色がメインに据えられている。靴底、つま先、踵には攻撃が出来るように「ぶ厚く、頑丈」になっている。
そして、目がいくのはマントだろうね! ボクの背丈では、踝くらいまでの長さになるが、表面は黒色、裏面は濃い目の茶色のリバーシブル仕様。
きちんと袖も付いているので、コートっぽい見た目になっている。キルステさんから言われたように袖に腕を通して、胸の前を小さなベルトで留めている。
前の部分は、鳩尾くらいまでしかない魔法使いのローブを参考に作っているので、フードも付いている。
──魔法使いのローブの別タイプ(ワンピースタイプ)を押し薦められたが、それは丁重に辞退した。
腰に差している杖は、初期装備として与えられたものだが、【????】と文字化けを起こしていて、何なのか分からない。杖であることだけが、フォルムから分かるくらいである。
「"裁縫師"の渡した装備だ、セットボーナスが付いているんじゃないのか?」
『セットボーナス』初めて聞く単語である。文字面から分かるのは、決められた装備をしたときに発動する"ボーナス"かな?
ユウキに確認してみると、それで間違いないようだ。
「何も言ってませんでしたね」
キルステさんが何かいっていたけど、詳しく覚えていないんだよね~。そう開き直ったボクは、これから街の外に行くかを確認した。その返事は、「当たり前だろ!」と読み取れる表情だった。
門外に向かう道中、ユウキから『リアルワールド』について色々な説明を聞いた。最初に教えてくれたのは、『ゲームをする上での注意事項』だった。
「マオとリオはよく聞いておいてくれ! プレイ上の注意だ!
①リアルワールドの1日は、現実の1時間である。
②肉体の排泄信号が鳴ったら、恥ずかしがらずに教えること。
③このゲームのプレイ制限時間は"7時間"である。
④スキル制だが、スキルがなくても出来る奴は何でもこなす。
とりあえず、この4つは覚えておいて欲しい。分からないことはあるか?」
話していたユウキがそういうので、質問をしてみた。
「②つ目の詳しい理由を、教えて欲しいです」
ボクの言葉にリオも「うんうん」と頷いてる。
「理由は1つだ。
戦闘中の離脱が出来ない仕様なんだ。元々、警告自体は"かなり前に出されているからだ。
肉体の限界がすぐにならないように、時間は『原則5分前』には鳴ることになるからだ!
もちろん、現実の時間だから──ゲーム内では、『1時間前』になる」
ゲーム内の1日はだいたい12時間くらいだろうか?
現実=ゲーム➡1時間=1日と事前に聞いているから、計算上はそうなるはずだ。
「ねえ、ユウキ。ゲームでの1日は何時間なの?」
リオもボクと同じ考えに至ったようだ。
「現実の半分の12時間だ。昼と夜が6時間づつに別れている。
現実での、朝の区切りは『01分~30分まで』、夜の区切りは『31分~00分まで』になる。時計の数字を見れば分かりやすいだろう」
30分区切りなので意外と分かりやすい。
「では、ゲーム内ではどうなるのです?」
「ゲーム内では、朝は『6時00分~11時59分』、夜は『12時00分~5時59分』と正反対の分け方になる。
ちなみに、『朝焼け』『夕焼け』も完備されていて、日の出・日の入りの10分前から見られる」
──ゲーム内の方が面倒だった。けど、朝日や夕日が見れるのは嬉しい。
ゲーム開始可能時間が、現実の9時10分からだったから、ゲーム内の時間は6時10分……今がだいたい、7時30分くらい。
あと5時間くらいで、夕日が見られる計算だね!
ボクがそうやって考えていると、リオが「どうして!?」と言わんばかりに、文句を言った。
「制限時間が"7時間"なのはどうして!?」
「そこは俺に言われても、分かんないよ。これはβテスト中からあったんだ──」
「──ということは、『MMO』自体が脳に与えるダメージが大きい──とう言うことですね?」
詳しいことは専門家でないと分からないが、たぶんそんなところだろう。そうでないのなら、制限を入れる必要なんかはない。
「ぶぅ! じゃあ、④の『スキル制だが、スキルがなくても出来る奴は何でもこなす』って言うのはどういうこと!?」
こらこら、自分を乙女と思っているなら、そんな顔をしない。ほっぺをプクゥっとフグのように膨らませない。
そんなリオを見たユウキは、クスッと軽く笑い答えた。
「それは今、体験してる。行動における"基本的な動作"がスキルがなくても出来ることさ」
前髪を軽く払う。ユウキの髪は短髪と言ったが、片側の前髪だけ長い。ちょうど右目が隠れるくらいの長さがある。
その動作をする為だけに、現実でも伸ばしている。
「殴る、蹴る、投げる、極める、叩く、踏みつける……といった動作も、基本的な動き──と言うわけですね?」
「──正しいんだが、もう少し穏やかに『掴む、触る、撫でる』とかさ────」
ユウキがそういった瞬間に、ボクはバックスッテプで距離を取った。この行動は、本能的なモノである。特に、命の危険と言うわけでもない。
『その男から、逃げろ! 離れろ!』
──と本能が、話しかけてきただけの話だ。だから逃げたあとは、サキの後ろに隠れた。
無論、サキの視線は冷たい。ユウキを見る目は、汚物を見るようだ──。
「ユ・ウ・キ~。貴方には、『反省』という言葉がないのですかぁ~~?」
普段の喋り方は、『ねぇ~』と延ばした感じでおっとりしているが、本気で怒ると今のように、ほとんど無くなるのだ。
それだけではない! リオの背後には、"怒れる般若"が包丁を片手に顕現している!!
現実でも結構怖いのに、ゲームになったら──もっと怖い!!
逃げようとして足に力をいれるが、ブルブル振るえるだけで動かない!! その恐怖に、心が折れそうになる……!!
グイッ
ボクは横から伸びてきた手に、引っ張られ何か柔らかいモノにぶつかった。手を引いてきた人物は、リオで柔らかいモノは慎ましい彼女の胸だった。
「マオは見なくて良いよ」
そういってリオの胸の中に抱き込まれた。リオはユウキのような鎧を着ていないので、その柔らかさが直接脳を刺激する。
その柔らかさと、女性特有の匂いは未熟な男性では性欲を暴走させ、「フジ○ちゃ~ん」とルパ○ダイブすることは間違いないであろう。
──残念ながら、ボクには効かない!! 理由は簡単。
「(普段からされなれていますが──それから比べても、感触に違いがありませんね! 本当にこれほど進歩していたとは!? 侮れません!!)」
と、ボクは明後日のことを考えられるくらいに、抱き付かれ慣れている。慣れの恐いところである。
その背後では、「ま、待ってくれ!! 先ほどの言葉は軽率だった!!」とか、「うふふふふふふふふふ……」と言う効果音を背後に浮かべ、"怒れる般若"と共にユウキを攻撃する『ドカァ! バキィ!! カァァァン!!!』という衝撃音が聞こえてくるが、完全に無視を決める。
──『障らぬ神に祟りなし』と昔の人は良く言ったものだと感心する。ちなみに、神と書いて"サキ"と読むのは秘密だ。
ボクの耳に周囲の声が入ってきた。
「優しいお姉ちゃんね」とか、
「可愛い♪ あんな妹が欲しいわね」とか、
「お持ち帰りしても、いいのかな?」とか───? ちょっと待てぃ!! 何なの!? 『お持ち帰りしたい』って、どういうことなの!!!?
実際、過去にそんな事態にも遭遇している。
小学校に入ったばかりのころ、ボクとリオは拐われた。幼女に性的興奮をするロリコンの、もっと酷いバージョンだ。ユウキは『ペドだペド!』と言っていたっけ?
その男の名は『大好 幼児』 名前からしてもヤバさ抜群の、小太りの男である。しかもこの男は、取り調べ中に「ボクちんはロリ専門ですが、"ショタ"もいけます!」と言ったらしい。(母様談)
それだけでは飽きたらないらしく、
「幼女に殴ったり、蹴られたり、踏みつけられたりするのは、最高のエクスタシーですよ!!」
と全身包帯だらけの状態で、断言したものだと当時は恐怖したが、自身の力を自覚している今は感心すらしている。
人間、あれほど素直に生きられるのか!! と言う風に──。
その男を『殴ったり、蹴ったり、踏みつけたり』した犯人は、このボクです。当時は、今より中性的(正確に言うなら"少女顔")でよく女の子と間違われてた。
リオ共々餌食になりそうになったとき、ボクの中にある"戦闘本能"が解放されました! 元々、何かに秀でていた一族だったので、「何かある」と理解はしていた。
──その秀でていた部分は、【英雄体質】という、一族でも『初代』と『ボク』だけの特異体質になる。
この事は、今話すことじゃないので、本題に戻ろう。
いくらボクが中性的な顔付きだからって、『妹』は言い過ぎじゃない!?