マオ、VRの世界に感動する!
ここから、本編になります。
この作品は、『ありえない生産職』のリメイク版ではなく、『再構成品』になります!
基本的に、登場人物はそのままですが、より個性を強調する方向で考えています。
例:マオの場合
男の娘➡中性的な、女の子っぽい顔
もの作りオンリー➡勘違いして、○○○
2つ名【魔王様】➡職業【魔王様】
『です。ます。』調➡会話では使うが、地文の方では使わない
といった感じで、個人でも変更が入っています。ストーリーに関しては、『完全に別物』になっています。
地文の『です。ます。』調も、「読み手を選ぶ」とご感想をいただいたので、変更しています。
12月3日 誤字の修正をしました。
【1日目】
目の前には何もない真っ白な空間で、無機質な声が響き渡る。
【アバター名を入力してください】
「──たしか、ゲーム内で使う名前のことでしたよね?」
ボクは、辿々しい手付きで、空中に浮かぶキーボードでアバター名を【マオ_】と入力した。
【アバター名 マオ 間違いは御座いませんか?】
→YES NO
間違いがないことを確認したボクは、これから『マオ』と名乗る。まあ、これがリアルネームなのは友人との約束だからね。(別の名前にしようにも、ネーミングセンスが無いけどね!)
確定ボタンを押すと、次のステップに移る。
【アバターデータを個人認証カードから、読み込んでよろしいでしょうか?】
ボクの生活している世界では、全世界の住人が『個人認証カード』を持っている。より正確に言うなら、『持ってないと、生きていけない』ので、誕生と同時に国から発行されていて、定期的に更新をしている。
このカードに関して、偽造・改造などは一切できず、内部に秘匿されている情報に嘘をつくことは出来ない。
その為に、世界最高の身分証明となっている。
→YES NO
【許可を確認しました。身体データをアバターに反映します。
なお、身体データの変更は出来ませんので、ご理解ください。
1部、髪の長さ、毛の色、瞳の色は変更可能です。変更致しますか?】
このVRで使用するアバターは、リアルの自分とかけ離れ過ぎると"脳と肉体信号のズレ"から行動に多大なる影響を与えるらしい。
元々、VR技術は軍事産業の一端として開発された経緯があるそうなので納得している。その開発過程で、『脳と人体への影響』が明るみに出ることになった。(軍事目的だったときは、『アバターの"死"=脳が肉体が死んだと誤認』したり、VR内での怪我がリアルに反映されていた)
その為、VRゲームで使用する肉体は"リアル仕様から逃げられない"。このことについては現在、小学生のうちに教わるくらい、VR技術は生活に密接に関わっている。
ここまでは、学校で学んでいた通りなのだが、問題がある。
「ボクの外見ですよね……」
目の前にボクの体が浮いてる。その姿は、リアルと全く変わらず、小さい姿で、この姿(主に、身長)を変更できないというのは、言い様の無い絶望を感じてしまう。
──こうなったらこの姿で、とことん楽しんでやる!!
無駄な気合いを入れながら、最初に髪と瞳を弄り始めた。
………
……
…
【最後になります。初期スキルを5つ選んでください】
ボクは親友から教えられた情報を元に、スキルを選んだ。
このときのボクは、まさか勘違いで選んだスキルが"チート性能"を発揮するとは思わなかった!
スキルを選び終わると、オープンまでカウントダウンの時間になっていた。結構な時間を使用した感じだが問題はない。
最終確認を済ませ、『ダイブ』ボタンを押すと視界が暗転した。
【グッドラック! です! 魔王様!!】
そんなシステムの声を耳にするが理解出来ないままに、ボクの意識は途切れた。
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暗かった視界が、徐々に明るくなり、意識がハッキリしてくれば、周囲から聞こえてくるのは喧騒だった。ゆっくりと目を開けると、天から降り注ぐ陽光がとても眩しく、直ぐに目を閉じてしまった。
何度か呼吸を繰返し、心と体を落ち着かせると、目を開き周囲をぐるっと見た。
目に映るのはレンガ敷の広場で、ボクの背後には【通行不可】と札の架かった大きな扉がある。結構な威圧感を感じるので、ここから先は、プレイヤーが進入することが出来ない『管理者区画』というものかな?
そして、ボクの右後ろにサーカスなどでよく見る"輪"が空中に浮かんでいた。状況から見ると、ボクは『この輪から出てきた』ことになる。
輪と言ったが、形状は輪の外側を十字方向で山なりの飾りがついている為、『穴の空いた十字架』と言った感じ。
後ろから視線を前に流すと、少し降りた場所に広場がある。広場の中央には大きな3段積みの噴水が、最上段の先までで3mほどの高さがありそうだ。
噴水孔からは、山なりに水が吹き出してアーチを描き、それを近くで見れば、虹が見られそうなくらい幻想的だ。
下の溜め池の大きさは直径5mと言ったところかな? 深さは膝下、30cmくらいだと思う。
噴水の周囲は石のレンガが敷き詰められ、10mくらいの範囲を円形に敷かれ、東西南北に長く延びてる。この石の道は本道に当たるのだろうか、門の外まで続いているように見える。
ゲートらしき輪の設置してある場所から、広場に向かって石段を下りていく。ゲート? の位置は、広場の近くにあり、石段を下りるほど人々の活気を感じられる。
最新のVR技術の結晶である"五感認識"は本当に素晴らしい性能まで到達した!
目に映るのは、朝市のような喧騒。
聞こえるのは、元気に売り込む商人と、値切ろうとする買い手。
匂いは、草花の香りに、出店の食べ物のお腹を刺激する臭い。
肌で感じるのは風の動きと、ボクが着ている服の感触。
そして──味に関しては、満腹度が設定されているらしく、食事をするときが楽しみだ!!
「美味しそうなニオイ──堪りませんね!!」
ゲームの中だと言うのに、お腹が鳴きそう。そんな自分を宥め、噴水まで近付いていく。(お腹を無意識に撫でていたのは、ご愛嬌だろう)
吹き出す水のカーテンが、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。何気無く手を伸ばし触ろうとするが、水面に写る太陽に違和感を感じて、天を見上げ確認していた。
「──はい? 太陽が2つ……ですか??」
そこに浮かんでいるのは、『青』と『赤』の輝きを放つ太陽が──一瞬、ぽかんとして空を見上げしまう。
「ゲームで、ファンタジーなのですから、ありえないわけでは──ないのですよね?」
そう結論付けをしたボクは噴水の前で、何かの演技? をしている人を見ると上半身裸で、正面には瓦を高く積んでいる。
目測でボクの胸より高いくらい、だいたい1mちょっと? その後ろでポージングをしている、半裸の男性。
ちなみに服に関してだが、男性はボクサーパンツ型のスウェット、女性は上下別れたスウェットまでが、脱げるラインだと親友であるユウキから聞いている。
「すみません! これは何をしているのですか?」
ボクは意を決して、半裸ジーンズのマッチョ体型の男性に声をかけた。
ボクに気付いた男性は、胸の前で両手の拳を突き合わせ、流れるような動作で片手をL字に、反対の手を指先まで真っ直ぐに伸ばした『槍投げ』のようなポーズ、最後に両腕を上に、両拳の甲を頭に向けボクに「それはだね、お嬢ちゃん──」と言ってきた。
まあ、今のボクの姿から『男性』と判断できる人はいない! 髪の長さに関しても、リアルより少し長めになっているし、ボク自身が"女顔"なのは、紛れもない事実である!
実際のリアルでも過去に、ちょっとお化粧をしただけで(当時は、女物の服を無理矢理着せられた)、幼馴染みたちにも分からなくなったくらいだ。(言っているだけで、目から汗が……!!)
「俺がこれからするのは、"デモンストレーション"ってやつなのさ! 嬢ちゃんは見たところ、後衛職なんだろ?
俺がこれから使う〈闘氣術〉ってスキルは、前衛職にとって切っても切り離せない最重要スキルってものさ!」
「へぇ~、そんなスキルがあるのですね」
「無論、後衛職にも似たようなスキルで〈魔闘術〉ってスキルがある。これは生産系のスキルを持つプレイヤーも、無条件で使える。
後衛職でも、『弓使い』は前衛職と同じ〈闘氣術〉になる。例外はあるがな!」
教えてくれたマッチョ兄さんは、「嬢ちゃんには、ちょっと難しいかもな!」と言って心配してくれたが、見た目と内面が全く違う(高校生)ので問題はない!
「よし! それじゃあ、嬢ちゃんに実演してやろう!」
そういうとマッチョ兄さんは軽く柔軟体操をして、瓦の前で肩幅に立った。
「嬢ちゃんの友達には悪いが、簡単く説明すると──これから使うスキルの発動方法は2種類ある。
1つ目が『詠唱発動』といって、アーツ・スペル共に同じ名称だ。これは、スキル名を口に出して使う方法だ」
そう言って、「〈闘氣術〉発動!」とマッチョ兄さんは口にすると、体の周囲を朧気な光が包んでいく。
その光を消すと、次の説明をしてくれた。
「2つ目が『無詠唱発動』で、これは口に出さない思考タイプの発動方法になる」
そう言ったマッチョ兄さんの体の周囲を、先ほどと同じ光が包み込んだ。口は全く動いてなかったので、これが思考タイプの発動方法なのだろう。
「後衛職が無条件に使える〈魔闘術〉ですが、どうして"無条件"なのですか?」
ボクは不思議に思ったことを、確認してみる。
「おっと! 俺の言い方が悪かったな!
正確に言うと、前衛職は〈戦闘系スキル〉を──〈剣術〉〈槍術〉何かを確実に取るだろう? それが無かったら、攻撃がしにくくなるからな!
その〈戦闘系スキル〉に付随、"おまけ"として付いてくるんだ。
後衛職──魔法職、生産職は〈魔法才能〉のスキルがないと、『アーツ・スペルが使えない』んだ。この〈魔法才能〉は魔法力量の元で、スキルが成長する毎にMPが増えていくって寸法さ!」
「それでは、〈魔法才能〉のおまけで〈魔闘術〉が使えるようになるわけですね?」
大きく頷いたマッチョ兄さんは、「違いを見せてやる!!」と着ていない服の袖を上げる仕草をしてポーズをとった。
「俺は武器を使わない〈無手〉の使い手だ。βプレイヤーだったから、〈無手〉LV5になる。
最初は〈闘氣術〉を使わずにやってみるぞ?」
そう言って、「せいやあぁぁぁ!!」と気合いを入れて、瓦を殴りつけた!
ガガガガン!!
上から5枚の瓦を一息に割った!
「(ほう! 5枚ですか──これって、スゴいことなのでしょうか?)」
ボクの耳は気付かないうちに、ピンっと立っている。
「ちょっと驚かせたかな?」
申し訳なさそうな顔をするのですが、理由が分からないボクは曖昧に微笑みむことしか出来なかった。
「次は〈闘氣術〉を使った場合だ。このスキルは、戦闘系スキルの合計に合わせて上昇する特殊スキルだ。もちろん、〈魔闘術〉も同じだぞ?」
なぜ最後が「?」なのかは不明だが、言いたいことは分かる。格闘系で〈魔法才能〉は必要ないからだ。
「ハアアアァァァァ!!!!」
ガガガガガガガガガガガガン!!!!
今度は、縦に並んでいた瓦が全て割れた。枚数は15枚というところかな。
「ざっと、こんなものかな! 俺の場合は、〈無手〉〈蹴り〉が各LV5だから、合計はLV10になる。
一撃にまとめた場合、LV5で2倍、LV10で3倍と増えていく。
長期的な強化に使う場合は、LV10毎に0.5倍づつ加算されていくんだ。
〈闘氣術〉〈魔闘術〉に共通することだが、"LV上限はない"ことを覚えておいてくれ」
「詳しく教えていただき、ありがとうございます」
教えてくれたマッチョ兄さんにお礼を言い、「ボクも試してもいいですか?」と聞くと、「難しいだろうが、モノは試しだ! やってみるといい!」と快諾したので、実演することにした。
──Side:マッチョ兄さん────────
リアルワールドのオープン当日、俺はβの頃から考えていたギルドを創ろうと思い、噴水広場でデモンストレーションを行っていた。
極少数でも構わない。己が肉体のみで闘う猛者が集ってくれたら……。そんな俺の前に少女が現れた。
目の前にいるのは、銀髪銀眼の"狐人族"の少女だった。見た人は声を揃えるだろう、しっかりとした性格より顔の幼さが目立つので『幼狐』だと──。
初心者である少女を導くのは、先達としての当然の義務である!
──断じて、ロリコンではない! ロリコンではない!!
色々と教えるが、少女は見た目よりしっかりと理解しているようだ。同年代でも、女の方が男より『精神年齢は上』だと言うからな!
俺が実演をして見せたら、「ボクも試してもいいですか?」と聞いてきた。もちろん勧めたさ! 実践に勝るものはないからな!
──結果だけを言おう。俺は、少女の一撃に驚かされ、腰が抜けた。それだけだ。
俺がこれ以降、少女と会うことはなかったが、この嬢ちゃんが"魔王様"と呼ばれ、リアルワールドで有名人となった。
2つ名に関しては、何も言えないが──この嬢ちゃんの仕出かした出来事には「ああ、そうか」の一言以外の感想はない。
──────────────────
マッチョ兄さんが「やってみるといい!」と言ってくれたので、実際に試してみることに──。
先ほどの流れを見ていると、現実で行っている『気功』に近しいモノを感じた。(とある事情で毎日行っている)
──なので最初にするのは、"魔力の発生源"の特定を行うことだ。
目を瞑り、体の中を意識すると、普段から気功訓練を行っている効果なのか、案外簡単に違和感となるモノを見付けられた。
どうやら場所は心臓に重なるようで、血液の流れに乗って身体中を巡っている。〈魔闘術〉を無意識のまま、無詠唱発動させると、血管を流れていた魔力は肌から溢れだした。
このままでは、魔力の無駄遣いと思ったボクは小説であるように、魔力を皮膚に沿って身体中に張り巡らせてみた。先ほどより力強い鼓動を感じとることが出来た。
そんなボクを見て、何かを言っているが集中しているので、何を言っているのかは分からない。
振り上げた拳を体の全てを使い、螺旋状に力を練り上げ、拳を突き落とすと同時に体を落とし、拳に体重を加えていく。予想以上に、スムーズに流れたのを感じる。
「せいやあぁぁぁ!!」
ガガガゴゴン!!!!
ボクの振り抜いた拳は、瓦を突き破り、下のレンガにヒビを入れた。正直、「ヤっちまった!!」という心境になった。
ヒビとレンガのへこみは、光の粒子が包み込んだら、10秒もせずに修復されていくのを見ていた。
マッチョ兄さんにお礼を告げ、その場を後にした。〈魔闘術〉に集中していたボクは、システムの告げた言葉を聞いていなかった。
【スキルレベルが上がりました。新たなスキル〈魔力武装〉を入手しました】