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プロローグ:いつかの物語

【??日目】


 何処とは分からぬ大平原。

 そこを埋め尽くすのは、大地を覆うごとき大量の黒き影。

 そこにある赤き輝きは、影の倍くらいはあろう。

 小さいものから、大きなモノまで、オマケに空を飛んでいる影もある。


「──はぁ~、この状況って正しく『ゴミのようだ!』と、言って笑うべきなのでしょうか?」


 小高い切り出した崖の上から地平線を眺め、思い付いたことを口に出したようだ。

 小柄な少女の顔には、現状に対する『呆れ』が見えている。赤き輝きを持つ影、それはこの世界では"魔素生命体(モンスター)"と呼ばれている存在で、少女たちの人族共通の敵だからだ!!


「幾らなんでも、この数は多すぎないか!?」


 その右隣に立つのは、彼女の頭2つ分は背の高い少女であり、パーティメンバーの1人。

 紅い燃えるような短髪に、小麦色に焼けた肌、防具は銀色の胸当てくらいしかない。実はこの少女は、少し前に他の防具を修理に出していたので、現在は胸当て以外の装備は、腰に下げている"双斧のみ"という立ち姿になっている。

 普段着のように薄手の服が、申し訳なさ程度に身体を覆っている。ズボンは膝上くらいのハーフサイズで、下に肌に張り付いた黒の薄いズボンを履いている。


「それにしても、すっごく多いよね!」


 左側に立ち話しかけるのは、少女に近い身長の女の子。彼女もパーティメンバーの1人で、その整った容姿からは細長く尖った耳が見え、そこに目がいくだろう。

 その尖った耳こそが、森人族(エルフ)と呼ばれる種族の1番の特徴だからだ。

 この少女の髪の色は、腰まである薄いライトグリーンで、左耳の辺りから1房のポニーテールが流している。肌が白いので、その髪の色は際立っている。

 服装は、股下までの短いワンピースを、腰の当りで大きめのベルトで留めている。

 下の方は、巫女(はかま)に酷似した形状をしている。上下の服の色は、髪と同じライトグリーン系で統一している。


 2人の少女と話している最中、背後から声がかかる。


「ガハハハハハハハ!! 突然のパーリィーじゃのぅ!!」


 のっしのっしとゆっくり歩き、赤毛の少女の後ろから大声で笑いかけたのは、白髭を撫でている老人? で、髪はないくツルリとしていて、光の反射でキラリと輝いた。

 背は、赤毛の少女と同じくらいだが、その体は筋肉質でガッシリして、腕には幾つもの切り傷があるのが見て取れる。

 この老人、よく見ると耳の先が少し変わっている。彼の耳は人族に近いのだが、耳の上部だけが尖っている。これは土人族(ドワーフ)と呼ばれる種族の特徴で、彼らは総じて筋肉質であり(女性を除く)力強く、鍛冶が(比較的)得意である。もちろん、鍛冶が苦手な人もいる。(いわゆる、パワーファイター)


 ガサゴソと懐を漁る、老ドワーフ。


「ほれぃ! キルステのヤツから、預かってきたぞぃ!」


 そう言って老人が具現化した(取り出した)のは黒色の服で、裾が長くて、少女が着れば地面に触れてしまう。時々、日の光を受けてキラキラと輝いている。ラメを思い起こさせる。

 裾の長い服を受け取り、ザッと確認した小柄な少女は、感心したように言った。


「流石、『黒竜の鱗』を使っただけはありますね! "スペシャルレア(SR)"くらいのレア度がないですか?」


 この少女の言う『SR』は最上位ではないものだが、それでも上位でトップクラスの性能に当たる。


 ──レア度に関しては、後ほど語ろう。


 そして、黒色の服を出した老人は頭を捻り、考える。恐らく何かを忘れているのだろう。いや、間違いなく忘れている!


 ──何時ものことである。


「なんじゃったかのぅ? キルステのヤツに──」


 ブツブツと何かを考えている。

 誰かが公言した。『すぐに忘れるのは、老人の特権である!』と。ただ、この老人が『鍛冶バカ』であることを念頭に置くと話は180度変わるのだが……。

 そんな老人を横目に、少女はある人物(・ ・ ・ ・)に連絡を取ることにした。数コールで相手は出る。


「──もしもし、キルステさんですか? ええ、今さっきレインさんから【黒竜の闘衣(ドラゴ・ルージェ)】を受け取りました。注意点とかは、ありますか?」


 少女が連絡を取ったのは、作製を依頼した人物で、より正確に言うなら、最終仕上げをして貰った人と言える。


『魔王様? ああ──やっぱり、覚えてなかったようだね……。ちゃんと説明を書いた紙も渡したのに……』


 当然、彼女──目の前の老人の孫であり、"裁縫師"の2つ名で周囲(プレイヤー)から呼ばるキルステには理解し(わかっ)ていたので、大丈夫なようにと手を打ってはいた。


 ──しかし、その手段自体が忘れられているのは、予想外だったようだ!!


『まあ、手紙を忘れると考えなかった私が悪いか。

 早速だが、【ドラゴ・ルージェ】について説明するよ!


 ──まず、耐斬・耐打の物理耐性が非常に高い! 大体、20%くらいは減らすかな?


 私が押す、1番のセールスポイントは、"火炎耐性・半減"だね!

 本当に、今まで作った服で発現したこ(・ ・ ・ ・ ・)とないよ(・ ・ ・ ・)こんなスキルは!!』


 フムフムと頷く少女に反応してか、お尻で銀色の尻尾がフラフラと揺れている。その形は、筆の先のように根本からふくれ、先端にいくほど細くなっていく。

 "尻尾"がある時点で分かるが、彼女は純粋な人ではない。より正確に説明するなら、彼女は獣人族(ビースト)と呼ばれる種族の1種である"狐人族(フォクサ)"であり、尻尾と一緒に頭の上には特徴的な銀色の毛の大きな獣耳がある。いわゆる、狐耳というものだ!

 ちなみに少女の顔は、見る人により感想が違うがどちらかというと"ボーイッシュ系"と言える。肌の色は、エルフの少女ほどではないが白っぽい。

 服装は、上下黒に統一されているので、見方によっては"スーツ"や"学生服"にも見えることだろう。


「ほぉ、確かに黒竜に対しては、〈火属性スキル〉の効果がかなり薄かったですからね。これはむしろ、"付いて当然"という気もしますね!」


『いや、何度も言うけど"素材も持つスキル"が発現するかは、完全に運(・ ・ ・ ・)だからね!?

 分かっているの? 魔王様!!』


 魔王様と呼ばれた暢気な少女に、キルステと呼ばれた女性は声を荒げるが、当人からすると毎回なぜか発現しているモノだから「当たり前でしょう?」って感じなのだが。


「ガハハハハハハハ! 魔坊は"リアル・ラァック"だったか? それが、人より強いからのぅ!!」


 そう言って話しに割っては入るのは、レインと呼ばれたドワーフの老人である。

 この老人の発音は、何時も何処かがおかしく、(主に)『英語』というより、カタカナ発音がおかしくなる。


「もう! 何度も言いますが、ボクの名前は"マオ"です!!」


 両手をグーにして突き上げ、いかにも『怒ってます!』というポーズをしているが、その瞳が笑っているのでポーズだけ。

 そんなマオと名乗った少女の後ろから、1人の青年が現れた。

 肩を落とした彼は『疲れたような顔』をして暗い。そのゆっくりとした歩みは、幽鬼のように不気味だ。

 この顔を見れば、10人中10人が『巻き込まれ体質だ!』と口を揃えることだろう。


「──あの……自分、鍛冶士(見習い)ッスよ? なんで最前線(こんなところ)に、連れて来られたんッスか?」


 そんな風に『自分は無関係ッス!!』という彼に、マオはこう言い返す。その顔が笑っているのは当然のことだ!


「コカ君、キミは何を言っているのですか? レインさんの愛弟子である時点で最早、普通ではありませんよ?

 明らかに、レインさん(師匠)寄りです!!」


 人指し指をコカ君にビシィ! っと指差し、キリッとした表情で決める! 目がキラン♪ と輝いている。

 そのマオの顔には、『何をいまさら……』という呆れ(笑い)が見えている。コカ君と呼ばれた青年は、驚愕を顔に浮かべその場に崩れ落ちた。

 その口からは、「自分は……一般人ッス──」と漏れ出ているが、この場には気にするような繊細な人物はいないから! 嘆くだけ、無駄だよ??


「ムゴー! ムゴー!(俺を解放しろ!!)」


 何処か崩れた声ならぬ声。マオと呼ばれた少女の足元に簀巻きに(・ ・ ・ ・)された人(・ ・ ・ ・)が転んでいる。

 その数は3つ──詳細は、男1人に女2人。その人物は少女のことを知っているように叫んでいる。


「何を言っているのか、分かりませんよ?」


 少女の顔に浮かぶのは『微笑み』。それが本来の意味の正反対(・ ・ ・)なら、全く別の意味になる。

 ゾクッとするような悪寒が、項垂れていた男に突き刺さる!


「──魔王様、ご健在ッス!?」


 ウガァーっと言うように頭を両手で抱え、恐怖の叫び声を上げるのはコカ君呼ばれた青年で、魔王様──否、マオは簀巻きにした青年の上に足を置いたまま、コカ君を見つめていた。

 満足したのか、その視線を足元にいる存在に戻した。


「前回の『大侵攻イベント』で、ボクが優秀な成績を修めたことに対して『俺がその場にいたら、絶対に"俺が"トップに立っていたぞ!!』と言ったのは、何処の誰でしたっけ?

 さらに、『次は、俺が1番になってやるからな!!』と豪語していましたよねぇ?」


 ニヤリと笑う──否、嘲笑う、マオと呼ばれた少女の言葉にあるように、この状況は『ゲームのイベント』で、現実の出来事ではない。

 その笑みを見た男のパーティメンバーは、彼を睨みつけていた。そんな女性たちを見た男は、彼女たちの顔を見て──項垂れまった。


「俺は、悪くない。俺は、悪くない…………」


 口の中で、ブツブツと何かを呟いているが、少女には聞こえないようで、興味が無いように眺めている。

 この場合は、"傍観している"が合いそうだが──。


 足元の存在から、周囲に転がっている彼女たちに、意識が向いた。先ほどまでの、含みのある笑顔ではない。


「それで、サキとミオに関してですが、『パーティリーダーが死地に向うのを、待たせるのもアレですのでご招待!!』というわけです!」


 それは笑顔というにはあまりにも無垢で、幼子の微笑みにも等しいモノではある。その意味を知らなければ。

 3人の受難は、始まってもいない!!


「ねぇ、マオ──3人をどうやって連れていくの?」


 そう訪ねてくるのは、マオという少女の隣にいたエルフの少女が、ちょこんと首を傾げながら聞いてきた。

 それを聞いたマオは、得意気に頷いた。


「そこは大丈夫です! リュオ、出てきなさい!」


 マオの首元から、全長15cmくらいのトカゲ(・ ・ ・)が顔を表し、スルスルっと降りてきたリュオは小さく鳴き、マオの前に座り込み見上げた。


『キュルァァ!』


 そのリュオを見たエルフの少女は、笑顔で手を振ると、リュオと呼ばれたトカゲは軽く鳴き返した。嬉しそうな声で──。


「さあ、行きますよ! リュオ、〈竜神解放(ドラゴノア)〉です!!」


『キュルアァァァ……ァァァ──ギャアアァァァ!!』


 マオの言葉を引き金(トリガー)として光に包まれたリュオは、その光を徐々に大きくしていき、全長15cmが3mまで大きくなるという、驚きのビフォー・アフター!! を成し遂げた!


「ほぅ、それが魔坊のペットゥの真の姿か?」


 レインと呼ばれた老人は、その太く、しっかりとした指で自身のアゴヒゲを撫でている。

 その瞳に恐れはなく、『敵として出てきたら狩って、焼肉パーリィーじゃ!!』と意気込んでいる。

 しかし、その老人の言葉にマオは怒る。


「ペットじゃなく、【従魔】です!!」


 そんなマオの言葉は、目の前にいる老ドワーフには通用せず、レインからしたら、『ペットゥも従魔? も同じだろ?』という考え方だから──かもしれない。

 そんなレインを尻目に、マオはリュオの背中に鞍を着け始める。セットし終わり鞍に飛び乗ると、その後ろの席にはミイが座り込んだ。

 ここでよく見るとリュオの足の指は、ロープを(・ ・ ・)掴んで(・ ・ ・)いるのが分かるだろう。空輸の準備万端!!

 マオとリュオに死角は存在しない!!

 確認して頷くと、離れた位置にいる人物に声をかけた。


「レインさん、そこの魔方陣に入れば『敵陣のど真ん中』の上空に転移しますので!」


 そう言って、近くに生えている木を指差した。そこには、青白い光が地面から立ち上っているのが、薄いながらも分かる。

 マオの言葉が切っ掛けなのか、インフォメーションがイベント開始の合図を放送した。


【それでは只今より、第2回"大侵攻イベント"を開始します!

 採点方法は、告知通りになりますので、よろしくお願い致します】


「さあ! イベントの始まりですよ!!」



 ──この物語は、魔王様と呼ばれる少女? の勘違いから始まる、"公式チート無双"による、モンスター蹂躙、キテレツ生産の"魔王様"プレイライフである。

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