プロローグ
炎天下のアスファルトをただ黙々と歩きながら、俺は蜃気楼の中に薄っすらと映し出される建物に向けて足早に歩いていた。
朝に俺イチオシの中野アナが今日は全国的に気温が30℃を超えると言っていたが、この気温は体感的に40℃はあるんじゃないかと思うほどに暑い。
蜃気楼のなかに浮かぶ我が学校は冷房なんてついていないオンボロ中学だ。この暑さのなか冷房の効かない学校なんて行ってられるか馬鹿馬鹿しい、と思いもしたがいかんせん今日は卒業式。
さすがに自分の卒業式だけにサボるわけにも行かず、この炎天下のなか渋々登校しているというのが今の俺こと三条里玖の現状である。
怠い体に鞭を打ちながらやっとのことで学校に着いた俺はさっそく受付を済ませ、式が始まるまでの暇な時間をどう過ごそうかとボーッとしていると後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おーい! 里玖! こっちこっち!」
「ん? おー、新太ももう来てたのか」
振り向くとそこには学ランを着た少年が満面の笑みで俺の方に手を振っていた。あいつの名前は一ノ瀬新太。鮮やかな茶色い髪と目が特徴的で身長も180cmと俺よりも10cmは高い。それに加えて新太は顔も美形で性格も良いから凄まじくモテる。ガチで。
「いやー、それにしても意外と中学の三年間ってあっという間だったね。なんか楽しすぎて、まだ卒業したくないよ」
そう言って切なそうに空を見上げる新太。こういう一つ一つの動作が一々絵になるからイケメンは凄いよな。あ、これは別に僻んでるわけじゃないから勘違いすんなよ。
それから時間まで新太と三年間の思い出話に花を咲かせていたらあっという間に時間は経った。そろそろ教室に移動するか、と新太と話して教室に向かうことにした。
教室の扉を開けるとほとんどの生徒が揃っていた。耳を澄ませば、みんな友達との思い出話に夢中になっていて中には涙を流している奴なんかもいた。いや泣くの早すぎだろ、と心の中で突っ込んだのは内緒だ。
ところでそろそろ担任の今野先生が最後の点呼を取るために教室に来るはずなんだけど……遅いな。卒業式だから色々と忙しいんだろうか。
「今野ちゃん遅いね。何かあったのかな?」
新太は今野先生のことを親しみを込めて今野ちゃんと呼んでいる。新太に初めてちゃん付けで呼ばれた時、今野先生は凄く照れていたのを俺は忘れない。そーいや新太の真似して俺がちゃん付けで呼んだ時は嫌そうな顔してたな、うん。あ、ちなみに今野先生は23歳独身の女性だ。
「卒業式だから何かと忙しいんだろ。卒業生の担任だから仕事も多いだろうしな。まあどっちにしろ、入場する時までには来るって」
そう言って俺は鞄からコンビニで買ってきた飲み物を取り出して、乾いた喉に流し込んた。そして新太がトイレに行き、ぼっちで暇になったのでボーっと窓越しに校庭を眺めているとあることに気付いた。
「あれ? なんで今野先生があんなとこにいるんだ?」
俺の目に映ったのはこちらに背を向けて微動だにせずに佇む今野先生の姿だった。というか入場までもう時間があまり無い。後五分で入場なのにあんな正門付近で突っ立っているとは……。もしかして緊張し過ぎて時間のこと忘れてるのか?
「はは。まあ今野先生っちゃ今野先生らしいな」