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東京では今朝木枯らし1号が吹いたと報じられたが、リビングは、快適な空調とガラス越しの陽射しで晩秋とは思えない暖かさだった。
由衣はお気に入りの青い花柄のマイセンのカップに、香りの高い紅茶を注いだ。親友の瑞穂が心配して様子を見にきてくれていた。瑞穂とは、大学までエスカレーター式にいけるキリスト教系のお嬢さん学校で、幼稚園から一緒だった仲だ。周囲の友だちからは、外見も性格もまるで双子のようだと言われていた。
「大丈夫?」
「平気よ」
「お葬式は?」
「さあ。向こうの両親が引き取って、やったんじゃない。あれから父の勧めで死後離婚をしたから、私は行かなくてもよかったのよ。ねえ、このクッキーおいしいのよ。横浜に新しくできたお店の」
由衣は優雅な手つきでクッキーをつまみ、口元に運んだ。
「由衣、知ってたんでしょう?」
「ああ、殺された人のこと。ええ、結婚する前に興信所にいろいろ調べてもらったから。でも、あたしは殺せなんて言ってないわよ。私は誰とも愛情を分け合ったりはしないから、過去をひきずったりしないでねとは言ったけど」
「あなたらしいわね」
瑞穂がころころと笑う。
「大体パパが、有能だからなんていう下らない理由で、あんな男と結婚させたりするからいけないのよ。でも、言うことを聞けば、マンションも買ってくれるし、生前贈与で財産も分けてくれるっていうから」
「そうなんだ」
「うん、全然つまらない人で好きでもなんでもなかったし。だから子どもができないように、すごく気をつけてたの」
「でも後腐れもなくて、きれいに片付いてよかったわね。由衣の戦略勝ちってとこ?」
「あら、幽霊話を見つけたのは本当に偶然だったのよ。元カノの実家がそこだったから、もしかしたらと思って、かまをかけてみたらビンゴだったのには、あたしのほうがびっくりしたわ。だって金持ちの娘と結婚するために付き合ってた子を殺すなんて、何だか昔の刑事ドラマみたいでしょう。今でもそんな馬鹿なことをする人がいるなんて信じられない」
二人は顔を見合わせて、また華やかな笑い声を上げた。
「ねえ。そう言えば信州においしいお蕎麦を食べに行かない。紅葉はもう終わりだけど、温泉にも入ったりして」
「由衣があたしを誘うなんて珍しいわね。もしかして幽霊を見にいくとか」
「まさか。それほど悪趣味じゃないわ」
「それはそうと先だってからいつも一緒に旅行してた、あの銀行マンの彼はどうしたの?」
「彼とはもう別れたわ。今は完全にフリーよ。今度はサラリーマンじゃなくて、海外旅行とかも行ける自由業の人がいいなあ。瑞穂、誰かいい人がいたら紹介してよ」
「由衣みたいに飽きっぽい人に紹介したら、あたしが恨まれるわ」そう言いながら、瑞穂は軽く由衣をにらんだ。
「大丈夫よ。恋愛なんて結局遊びなんだってことくらい、頭がいい男なら、分かってるわよ」
二人が談笑する窓のはるか下の歩道には、色褪せた街路樹の紅葉が、初冬の冷たい風に無数に舞い散っていた。 (了)
とてもクラシックなミステリー仕立てで、ちょっぴりホラー風味なお話です。




