4
東京の警察からの問い合わせを受けて、駐在の出水は「この人、先週の土曜日あたり、見かけんかったかね」と、村人たちに、浅野邦明の写真を見せてまわった。折りしも村は観光シーズンで、たくさんの観光客がやってくる。その中の一人を覚えている村人はいなかった。昼近くになって資料館の前で、伊原伸郎に会った。娘の紅子が行方不明になって一年ほどは、声をかけるのもはばかられるほど憔悴していたが、近頃は前のように農作業にも出ているし、観光案内のボランティアも再開していて、出水も内心胸をなで下ろしていた。
「ああ、伊原さん」
出水の声に、伸郎は目を上げて、かぶっていた帽子を取り会釈した。
「忙しいとこ悪いけど、この人見かけんかったかね」
出水はそう言いながら胸ポケットから、浅野邦明の写真を取り出した。すると、伸郎は無言でその写真をしばらく見つめ、それから顔を上げて、ひとことひとこと絞り出すような声で答えた。
「この男は、私が……殺しました」
「なっ……」
出水は驚きのあまり、自転車ごとその場にひっくり返りそうになったという。この村に赴任してから四年。出水はほとんどの村人と親しくなったが、中でも伊原は、真面目で温厚で、殺人などという非道な行為からは一番遠い人間だと思われた。その伊原の、思いもかけない告白に、出水は何をどうすればいいかもわからず、言葉を失った。
伊原の話によれば、浅野邦明が鬼無里村に現われたのは、先週の土曜日の昼過ぎだった。案内所には、伊原ともう一人、大学生のボランティアの女の子がいた。
邦明は部屋の中に入ってくると言った
「実は僕、心霊研究会みたいなことしてて。数日前にここのブログを見たんですよね。ほら、あの幽霊が出るっていう……」
伊原は男の顔をじっと見た。白いパーカーにGパンという学生のような格好で、サングラスをかけている。
「いや、幽霊の話っていろんなサイトで見かけるんだけど、ここのは服装とかが、ずいぶん詳しく書いてあるじゃないですか。それで面白いなあと思って。もしかして誰か見た人とかいるんですか」
「私が見ました。でも私が見たのは夜だったし、昼間じゃねえ」
伊原が答え、男は笑った。
「あっ、そう、そうですよねえ。でも、そこへ行ってみることはできます?一応写真とか取りたいんで」
二人は伊原の車で山に入った。車内で邦明は、東京の電機メーカーに勤めていることや、心霊スポットめぐりは趣味だというような世間話をし、伊原は無言のままあいづちをうった。観光道路から離れて、人目のない山道に入ったところで、伊原は車を止めた。邦明が車から降りてあたりを見回し、けげんそうに言った。
「ここ……ですか」
「幽霊が出る場所は、君が知ってるんじゃないのか」
振り返った邦明の目に、猟銃を構えた伊原の姿が飛び込んできた。
「何を……」
「四年前、君と私の娘は白い乗用車でこの村にやってきた。その時娘は青いワンピースを着て、白い大きな帽子をかぶっていた。遠くからだったが、私は見たんだ。けれど紅子の行方はそれきり分からなくなった。だから、紅子が最後にいた場所は、君が知っているはずだ。紅子を、私の娘をどこにやった。」
邦明は口元をわななかせた。
「言え。言わなければ今ここでお前を撃つ」




