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紅葉狩り  作者: サニー
2/6

 由衣が警察に夫の捜索願いを出したのは、夫婦が信州旅行の話をしてから、五日目の朝だった。邦明は仕事があるといって土曜に家を出たきり、行方がわからなくなったのだ。携帯の電源は切れていて、会社に問い合わせると週末は連休を取っているということだった。

 

 心配した由衣の父親が知人の警察幹部に話をし、その日の午後に、二人の刑事が尋ねてきた。


「ご主人の行き先に何かお心当たりは」

 

 岩隈と名乗った年配の刑事はソファーに腰を下ろすと、口を開いた。


「それが車は置いたままで。どこに行ったのかまったく分からないんです」


「脅迫電話とか、そういう類いのおかしな電話がかかってきたりはしていませんか」


「いいえ」


「ご主人はだいたいいつもどれくらい現金を持ち歩かれますか」

 

 岩隈刑事は部屋の中を見回し、年齢のわりには裕福そうな、夫婦の暮らしぶりを見て尋ねた。

「よく分かりませんが、カードも何枚か持っているので、大金を持ち歩くというようなことはないと思います」


「そうですか」

 

 岩隈は手垢で黒光りしている手帳に、由衣の返事をメモしている。


「最近、ご主人の様子に何か変わったところはなかったですか」

 

 今度は若いほうの刑事がたずねた。


「いえ、特には。あっ、でもそういえば先週私が、週末信州に紅葉見物に行かないって誘った時に、急に話を中断したんです。ふだん、そういうことは全然なかったのでちょっとびっくりしました。それくらいでしょうか」


「信州…ですか」


「ええ、鬼女伝説のある鬼無里という村の観光案内のサイトで、幽霊が出るという話を見かけて。朝食の時に主人にその話をしたら、急ぎの用を思い出したと言って、あわてて出て行きました」


「それはいつのことですか」


「確か水曜日だったと思います。その時は、旅行の話は、仕事から帰ってからと言ってたのですが、帰宅すると土曜日は仕事が入ったから、旅行はまた今度にしようと言っていました」

 

 二人の刑事は、なるほどというようにうなずいた。


「しかし実際にはご主人は土曜日はお休みを取られていた」

 

 再び岩隈が言った。


「はい。念のために、宮崎の主人の実家にも聞いてみたんですが、来てないということで。でもどこかに行くのに、どうして私に嘘をついたり隠したりしなければいけないんでしょう」

 

 由衣の話ぶりは冷静で、取り乱したところはなかった。頭のいい女性なのだろうと岩隈は思った。二重瞼の大きな瞳にすっきりと通った鼻筋、肉感的な形のいい唇。仕事柄たくさんの女性に会う岩隈でさえ、一瞬その大輪の蘭のようなあでやかな美しさに目を奪われた。しかも表情や仕草が上品で洗練されている。こういう女性を妻にした男が、他の女に心を移すということがあるだろうか。岩隈はそんな疑問を頭に浮かべながらも、由衣に直接それを聞くことはしなかった。 

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