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龍(のぼる)の祖父の依頼

 勇次郎は少年の後をついて行った。魂が魅かれるとでもいおうか、気になって仕方がなかったのだ。

 少年は電車を乗り継ぎ一時間ほども離れた隣りの県に住んでいた。少年は未だ泣く事をやめない。


 龍という少年の部屋に入ると勇次郎は驚いた。壁には格闘雑誌の切り抜きがたくさん貼ってあった。全て勇次郎であった。TV台の棚の中には『勇次郎県大会予選~三回戦』『勇次郎流派大会組手演武』など勇次郎のVTRが並んでいる。それらは販売されている物ではない。きっと龍自身が撮影したものだろうと思った。


『このコレクションは研究好きな克典さんでも及ばないだろうな。いや大したものだ。』


 勇次郎はコレクションを見ながら呟いた。


 その時、背後に気配がした。振り向くと一人の老人が立っている。じっと勇次郎を見据えている。すぐに老人がこの世の者ではないと悟る。勇次郎と同じ魂の立場であろうと。


『ご老体。誰なのだ? 』


『儂は龍の祖父じゃよ。龍の守護霊じゃ。』


『なるほど。そう言うものか。で? 何か用か? 』


 以前の生きている時の勇次郎には理解できなかったであろう事も、今では『そういう事もあるかもしれない』と考える事が出来るようになっていた。自分自身の”魂の存在”って事が不可思議なのだから。


『ははは。それはこっちのセリフじゃろう!? お前は何故龍の後に付いてきた? お前の魂は澄んでおり邪悪さはない。』


『なぜ? ……なぜかな? よく分からん。ただ、こいつが気になってな。』


 勇次郎はそう言ってベットで泣いている龍を指差した。


『そうか。龍の魂が引き寄せたのかもしれんな。いつもお前の事ばかり考えておったからな。』


 そう言って老人は笑う。

 その後で老人は勇次郎に言った。


『実は儂はもうすぐ生まれ変わる。龍の従姉弟の息子としてな。じゃから龍を守ってやる事はできなくなる。お前が代わりに龍を守れ。お前が守護霊になってな。』


『は!? 俺がか? ……まあ、暇だし、それもいいが守護霊とは何をするんだ? 俺に務まるのか? 』


 勇次郎は体を失い、どうすればいいのか分からなかった。守護霊と言う役割が与えられるのは願ったりと言うところだった。


『何、守護霊の決まりなどない。龍を守ってやれば、導いてやればいいのだ。お前ならできるわ。と言う訳で頼む。』


 老人は頭を下げて頼んだ。勇次郎は頷いて了承したが、老人が消える間際に一言残した。


『さて後釜も決まったし、儂は消える。守護霊が死んだばかりの者で少々不安じゃから、もう一人にも声をかけておる。そのうち来るじゃろう。じゃあな。』


 すっと老人は消え去った。



 こうして勇次郎は死んで三日目に龍の守護霊となった。


 さらに二日後、『礼子』と名乗る女の魂が現れた。


『あんたが勇次郎ね。私は礼子。今日から私も龍の守護霊をするわ。よろしく! 』


『まあ、よろしくな。あんたは死んで長いのか? 』


『三年くらいよ。生前の事はその内に話すわ。』


『おう。そうか。で礼子はなんで龍の守護霊に? 』


『だって龍君の魂ってとってもピュアじゃない。ひと月前に見かけて魂に惚れたってとこね。』


 礼子の言うピュアな魂とは何なのかよく分からなかったが、要は龍が気に入ったという事だろうと勇次郎は思ったのだった。




 こうして龍の祖父と言う老人に誘われるまま”(のぼる)の守護霊”になった勇次郎だった。まだこの時点では龍と勇次郎は会話する事はできない。会話できるようになるのは少し後の事だ。その話はまた別の機会に……。




END

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