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全日本空手道選手権決勝

 小野寺勇次郎は全日本空手道大会の決勝戦へ勝ち進んだ。決勝戦の相手は結城克典。三年間、同じ対戦であった。両者の対戦成績は一勝一敗の五分。お互いに今年で雌雄を決するつもりでいた。

 二人は互いをライバルと認め、今日のために激しい鍛錬をしてきた。二人はタイプも違う。勇次郎は蹴り技を得意とし、先に攻めるタイプ。克典はカウンタータイプだった。一昨年は勇次郎渾身の回し蹴りを克典が捌き、中段突きのカウンターが決まり克典が勝利。昨年は勇次郎の”蹴りの軌道を途中で変える”中段回し蹴りが決まり勇次郎の勝利。それから互いに己の得意とする技を磨いてきたのであった。



 勇次郎は父親の経営する花屋で働きながら道場に通っていた。一応、その道場では師範代を務めていたが、己の技を磨く事に重きを置いていて指導者としては半人前である。しかし、その道場の門弟たちは技を追及するストイックなまでの姿勢を目の当たりにして、皆が勇次郎のファンであった。


 一方の克典は空手道場の指導員として生計を立てている。決して給与は良くないが好きな事をして飯が食える環境に不満はなかった。彼は教え方も上手く、色々なタイプの門弟たちを教える事が出来た。克典は道場の近くに部屋を借り、一日中道場に入り浸る空手三昧の生活である。



『間もなく男子組手決勝戦がセンターコートにて行われます。』


 館内放送が決勝戦がいよいよ行われる事を告げる。

 二人は満を持してコート脇の控えに向かった。


 二人の勝負は三分間の時間内では決着がつかなかった。克典がフェイントを使い勇次郎の攻撃を誘うが、勇次郎はフェイントに引っ掛からなかった。勇次郎も何度か蹴りを出すが、克典の呼吸を読みタイミングを計られないようにしていた。そのせいで勇次郎の蹴りを捌くがカウンターを決められない克典だった。二分間の小休止が入り、やがて延長戦に入る。



 勝負は一瞬であった。


 勇次郎は得意の回し蹴りを出した。克典は昨年と同じように蹴りの軌道が変わる事を読んでいた。何度も勇次郎の試合のビデオを観て研究しつくしていた。

 克典の読み通り右上段へ迫ると見えた蹴りは中段に軌道を変えた。『よし! もらった! 』克典は中段の蹴りを捌く…… はずだった。しかし、勇次郎の蹴りは中段に来ず、次の瞬間左側頭部に衝撃があった。


 「それまでっ! 赤、一本っ! 」


 勇次郎の勝利だった。

 試合を終えた二人は歩み寄り固く握手を交わした。


 「まさか二度も軌道を変えるとはな。完敗だ。」


 克典が勇次郎に微笑んだ。勇次郎も照れながら答えた。


 「克典さんには去年、”軌道を変える蹴り”は出していますからね。同じ手を食う克典さんじゃないでしょ!? 」


 「まあな。昨年と同じ蹴りだったら、勝っていたのは俺だよ。今年は悔しいが負けだ。だがこれで決着がついたと思わんでくれよ。来年もやろう。」


 そう言う克典は握っていた手に力を込めた。


 「痛いって。ははは、仕方ないなぁ。来年も相手しますよ。」


 二人は戦った者にしか分からない絆を感じていた。




 次の日から小野寺勇次郎と結城克典は稽古をはじめた。もちろん来年の選手権に向けてだ。

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