俺と師匠
これは、『気ままに。』という物語の番外編となっております。本編に出てくるト―マ君の登場シーンがあまりにも短いので、彼のためにも書いてみました♪ まだ道場にいたころのミカゲ君も出てきます。
「お前、一人か? 私と一緒に来るか?]
俺が一人木の根もとでうずくまっていると、声をかけてくる酔狂な奴がいた。顔を上げると、俺とそんなに年の変わらなさそうな女がいた。
「お前、私と一緒に来い!」
そう言ってにっこり笑った女は俺に手を差し伸べた。俺は無意識にその手を掴んだ。
……この後何年もこの手を取らなければよかったと後悔することになる。
俺が師匠に拾われてから1年が経った。俺は13、師匠は14になっていた。
「んじゃ、行ってくるぞ~。トーマ、後は任せた!」
「ちょっと待て、師匠! 何処に行くんだ!」
俺の静止なんて聞こえていない(フリの)我がお師匠様。今日も今日とて何処へ行くのやら……、って戻ってこい!
「くそ、また逃げられた。今日で何回目だ、俺が師範代になってから」
師匠に稽古をつけてもらうようになってから半年で俺は師範代を任された。それからというもの、師匠は何かにつけて道場をちょくちょく空けるようになった。すべての稽古を俺に押し付けて。師匠曰く、
「あら、師匠の代わりが師範代でしょ? 稽古くらい、トーマなら楽勝でしょ♪」
らしい。俺が門の近くでうずくまっていると、誰かが近づいてくるのが分かった。
「またどっか行っちゃったんですか、あの師匠。困ったもんですね……」
「ああ、ミカゲか。悪いな、今日の相手はまた俺だ」
「トーマさんが相手してくれるなんて、僕は幸せ者ですよ」
「そう言ってくれると嬉しいねぇ」
ミカゲはつい3ヶ月ほど前に師匠が拾ってきた"黒ネコ族"の少年だ。この道場は俺をはじめとする8割方は師匠が拾ってきた子供という結構変わった道場で、師匠がフラッと何処かに消えては誰か拾ってくる。ミカゲはその中でも極めて優秀で、まだ3カ月なのにもう俺を追い越す勢いだ。
「お前は強いからな。そろそろ師範代交代か?」
「そんな、僕なんてまだまだですよ」
「やっぱり今日はお前と俺でチビたち鍛えるか。よし、決めた!」
「またただのじゃれあいになりますよ」
「それがまた楽しいんじゃないか。それくらいやらせてもらえないと俺はとっくにここを出てる」
俺の本気が伝わったのか、ミカゲは渋々だが俺の後についてきた。俺よりも頭一つ分ほど小さい頭には黒い三角形の耳がぴょこぴょこ動いている。……か、可愛い!
「……何ですか」
「あ、いや、別に」
俺の視線に気がついたのか、怪訝な顔をしたミカゲが俺を見上げてきた。
「俺、子供好きかも」
「そのでかい図体で何を言うのかと思えば……、頭大丈夫ですか?」
「その毒舌何とかならないか!? 確かに俺はでかいけど!」
俺はこの1年で身長がメキメキと伸び、現在160cmくらいあるのかな、測ったことないけど。
「う~、いいもん。チビたちに遊んでもらうから!」
俺はミカゲを置いて稽古場へダッシュした。見よ、この鍛え抜かれた走りを! 毎日(蛇や毛虫を持った)師匠に追い回されていたから足にだけは自信がある。
「みんな、、待たせたな!」
俺が稽古場に飛び込むと、そこで各々好きなように体を動かしていた子供たちが一斉にこっちを見た。
「あー! トーマさんだ! 遊んでー!」
「おう! お前ら元気だな!」
飛びついてきた何人かを抱きとめながら、ついでにくるくると回してやる。すぐに僕も、私も、と群がってくる子供たちを一人ずつ捌く。
「おし、じゃあ今日は二人一組で投げとその受け身の練習すっか。ほら、さっさと組め~。余った奴は俺とな」
はーいといいお返事ですぐに二人組を作り出す子供たち。後ろからとてとてと足音が近づいてくる。
「あー、僕余りですね。トーマさん、僕と組んでください」
「よし、久々だから手加減なしな。泣いてもしらねーぞ」
「トーマさんこそ弟弟子に泣かされないでくださいね」
「言ったなー!」
俺は嬉々としてミカゲに飛びかかった。
もし、あの日、俺が師匠の手をとっていなかったら、そう思ってもきりがない。確かにあの日あの手を取ったことを俺は今でも後悔している。
でもこいつらに出会えたから、強くなれたから、そして貴女に会えたから。俺は少しだけ貴女に感謝します、師匠。