デジタル・ハンムラビ
「仕事」をテーマに、少しダークヒーロー的な仕事を書いてみました。
匿名って怖いですよね。
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@oregano1
2人でホテルに入っていく瞬間笑 ジャッジと寝て代表とか草 クソ弱いのに笑
@hammurabi
それお前だろ
@oregano1
え、待って、違う違う
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「自分だけは大丈夫だ」という自信はいったいどこから来るのだろう。
カイは、それが不思議でたまらなかった。
多くの人は、他人に起こっていることが自分に起こるとは思わないし、他人がバレていることが自分はバレるとは思っていない。炎上は対岸の火事だ。
その自分も、他人から見れば他人なのに。
カイは、そうしたネット上での誹謗中傷やストーカーの被害を受けた人から依頼を受け、復讐を肩代わりする代行業をしている。
「目には目を、歯には歯を」をモットーに、あくまでもやられた範囲内での仕返しをする。
決して報酬は安くないが、どこで調べたのかいつもそれなりの依頼が来ている。
ピーン
「お、また依頼だよ。今日もどんどん来るねー。」
届いたDMを、隣の机で窓口を担当している相棒が開いて確認する。
「これで美味しいご飯を食べれるんだから、人の醜さに感謝だねーうんうん。えーと…へー!こんな人からも来るんだ」
kawaiidesu: 助けてください。お願いします。①住所特定、近隣写真の投稿、脅迫、②ファン、③rikorikosick
hamnomado: 警察には?
kawaiidesu: 言ってません。
「なんで言わないんだろうねー」
送ってきたのは、誰もが知る有名グラビアアイドルだった。示されたSNSアカウントの投稿を遡ると、このアイドルのことをずっと追いかけていることがわかる。
たしかに最近の投稿は度を超えている。
「うんうん、これは怖いよねー。だめだよねー」
さすがにまだ住所を晒すことまではしていないようだが、明らかに「僕はわかってるよ」と伝えたい気持ちが溢れている。きっとDMではもっと直接的に言われていることは想像に易い。
カイは興味のない目で、rikorikosickの投稿をひたすらスクロールしていく。
「見つけた。」
カイはいくつかの投稿を相棒に見せると、おもむろに席を立った。
「お、早いねー。すぐに送っとくねー」
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@rikorikosick
今日の夕ご飯美味しかったかな。このお店のオムライスは僕も好きなんだ。
@rikorikosick
この公園で、近くで同じ空気吸える幸せ。
@rikorikosick
ちゃんと帰ってきたね。えらいね。
@hammurabi
ソースかけすぎだろ。
@rikorikosick
え、なにこれ
@hammurabi
この公園なんか空気悪いな。
@rikorikosick
待って、やめて
@hammurabi
そのキャップ似合ってないね。あとタグ出てる
@rikorikosick
やめてください
@hammurabi
郵便物ポストから溢れてたよ
@rikorikosick
やめてください、誰ですか
@hammurabi
他人にはやるのに自分がやられると「やめてください」かよ。お、ちゃんと帰ってきたね。えらいね。
@rikorikosick
やめてください、お願いします
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ピーン
kawaiidesu: ありがとうございました。助かりました。
hamnomado: 振り込みは期日内にお願いします。
「止まったみたいだねー。よかった。あ、早速振り込まれたよ、ネットバンキングって便利だねー」
相棒が、振り込まれた金額に満足そうにしながら夜ご飯のポテトチップスを食べている。
油のついてない指で器用にフリック操作をする相棒を横目に、カイはSNSをうろうろしていた。
「アイドルも大変だねー。でもおかげで美味しいご飯が食べれるんだけどねー」
「…その子の裏垢ってわかる?」
「んーとね…あー…いや…んー…これだね」
「…お前もじゃん」
カイは小さく溜め息をこぼした。
「どしたの?」
「飯食ってくる」
カイが示した投稿に、相棒は次の仕事を確信した。
@cawaiideath
業者使ってあのクソストーカーの住所特定してやったわ笑 ストーカーする暇あるなら金稼いで私に投資しろよ
@cawaiideath
そういえばあの女全身整形で、偽パイなんだって笑 作り替えてもブスとか救いようのないブスじゃん笑 消えろよ笑
ピーン
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