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婚約破棄のあとで、紅茶を淹れました

作者: 絵宮 芳緒
掲載日:2026/02/02

◆登場人物


アンネリース・フォン・ローゼンヴァルト

ローゼンヴァルト公爵家令嬢。18歳。

物静かで礼儀正しく、感情をあまり表に出さない。

婚約破棄の場でも動じない落ち着きを見せるが、

それは冷淡さではなく、彼女自身の価値観によるもの。

紅茶と静かな時間を好む。



クラウス・フォン・ベルンシュタイン

ベルンシュタイン王国 第一王子。18歳。

金髪碧眼の王子然とした外見と、自信家な性格。

華やかさと分かりやすい感情表現を好み、

アンネリースの静けさを「退屈」と誤解している。

「――以上をもって、婚約は解消とする」

第一王子クラウス・フォン・ベルンシュタインは、澄んだ青の瞳でそう告げた。

王家らしい金髪が光を受けて揺れ、背筋はまっすぐ

絵に描いたような“王子様”だった。



広間には、わざとらしく息を呑む音がいくつか落ちる。

私は一拍置いてから、ゆっくり頷いた。


「承知しました」

それだけ。

自分でも、よく落ち着いていると思う。


淡い色のドレスに身を包み、髪はきちんと結い上げている。

このドレスは、今回の式のために彼が用意したものだった。

――彼の瞳と同じ、澄んだ青。


似合うかどうかより、

「隣に立ったとき、映えるか」が基準だったのだろう。

鏡を見れば、物静かな公爵令嬢そのものに見える。


――少なくとも、18歳らしい取り乱し方はしていない。


「……弁明はしないのか?」

王子が、少しだけ不満そうに眉を寄せる。

評価されることに慣れた人特有の、戸惑いの表情だった。


「必要でしょうか」

そう返すと、彼は一瞬言葉に詰まった。

たぶん、ここで感情的になる私を想像していたのだと思う。

泣くか、縋るか、声を荒らげるか。


「君は、王妃としては感情が見えない。

もっと明るく、民衆受けする妃が必要だ」


「そうですか」

淡々と返すと、また沈黙。


――ああ、これは“推し違い”ですね。

心の中でだけ、そう結論づける。

私は静かな時間が好きで、一人で紅茶を飲むのが至福。

彼は喝采の中で輝く舞台を求める人。

求めているものが、最初から違った。


「では、失礼いたします」

礼をして踵を返す。

背後から呼び止める声はなかった。



屋敷に戻ると、私の部屋は驚くほど静かだった。

事情を察した数人の使用人が、余計な言葉をかけずに頭を下げる。


「お疲れでしょう。お茶をお淹れしますか」


「ええ、お願い……いえ……」

私は首を振り、ポットに手を伸ばした。


「今日は、自分で淹れます」

湯を沸かし、茶葉を測り、カップを温める。

この一連の所作は、昔から変わらない。

こうしていると、余計な感情がきれいに沈んでいく。


――婚約破棄された直後に、紅茶を選べるあたり。

我ながら、随分と落ち着いたものだ。

カップに注がれた琥珀色の液体から、湯気が立つ。


鼻をくすぐる香りは、いつもと同じ。

私はそっと一口含んだ。


「……美味しい」

それだけで、今日は十分だった。

次のことは、また明日考えればいい……。

紅茶をもう一口飲んでから。

初めての投稿となります。


温かく見守っていただけたら、嬉しいてわす。

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