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第三話

 ショッピングセンターは電気が落とされて暗闇に包まれている。穴の空いている天井からは光が漏れるが、ほとんどの店の中は内装が分からないほど暗くなる。

 埃が舞い、かび臭さが充満する。足を踏み入れるだけで異様な静けさが返ってきて、人間を寄せつけない不気味さがある。


 パッカーは背負っているバッグから懐中電灯を二個取り出した。一つ手渡すと、彼女は震える手で受け取る。


 二人の足音がほぼ同時に響き渡る。端っこのほうに光を当ててみると、骨化した死体がいくつか転がっていた。

 昔はここも賑わっていたのだろうか。少なくとも、パッカーはその賑わいを味わったことがない。


 賑わいを知らないくせに、寂しさだけは心の芯で感じる自分が面倒になった。

 興味なさげに視線を切ると、重積する埃を払うように奥へと進む。


 途中で確認したボロボロで煤けた案内板によると、服屋は幾つかの場所に分かれているらしい。

 一つ一つ回るのは時間がかかるだろうが、危険性を減らすためには仕方ない。

 

「行くぞ」


 湿った暗闇が言葉を奥へと吸い込む。

 アリスは頷いて足元の瓦礫に気をつけながら、半歩だけパッカーに寄った。

 彼女の変化に気づかないふりをして、彼は前を照らす。


 残念ながら服はほとんど残っていない。 

 こういったものは、近くの集落が取りきってしまっている。残っているものも虫食いだらけになり、汚れている。


 それでも、パーカーとジーパン一着ずつは見つけることができた。


「着替えてこい」


 そう言うと彼女は服を持ったまま立ち止まる。 

 どうしたのかと首を傾げると、懐中電灯の光りに包まれるアリスはこちらをじっと見ていた。


「……あの、近くにいて……ほしい」


 その声は、聞いてきた中で一番頼りなく震えていた。


 服を包み込む手には、ふるえながら力を込めていた。暗闇で一人にされるのは、年頃の女の子にとっては耐え難いものなのだろう。


 試着室の近くまで寄って、「ここにいるから」と安心させるようにいう。頷くと、中にはいってカーテンを閉めた。


 壁にもたれながら、天井を見上げる。何やってんだよと、自嘲気味に心の中で呟いてしまう。


 衣擦れの音が、パッカーの思考を削ぎ落とした。試着室を隔てた先で彼女が着替えているのだろう。

 不用心だなと思う。初めて会った男に着替えを見晴らせるなど。この世界では絶対にそんなことはしない。


 彼女がよほどの温室育ちなのか、それとも謎にこちらを信用してるからなのか。


 どちらにしても、面倒だと思う。しかし、パッカーはその面倒を放り出すことだけはしない。


 そんなとき、響き渡る足音が聞こえた。誰かがショッピングセンターに入ってきたらしい。暗闇の中で光が生き物のように動いている。

 どこかの略奪者かと考えたが、それにしては足音が統一されすぎている。重なる音が、訓練された兵士のものだと主張していた。


 狙いは──言われるまでもないだろう。


「アリス悪い……少し離れる」

「……え?」

「お客さんみたいだ。……大丈夫すぐ帰ってくるから、着替えとけ」


 彼女の返事を待たずして、懐中電灯の光を消した。暗闇が、世界を塗りつぶす。

 静けさの中に潜むように息を殺した。


 手探りで闇をかき分けるように進む。できるだけ音を立てないように慎重に。

 懐にしまった拳銃を、手に取り出した。人を殺すことができるそれは、いつも以上に重たさと冷たさを放っているように感じた。


「どこかに隠れているはずだ探せ!」


 侵入者の一人がショッピングセンターの隅々まで届くような大声で言う。くぐもった声は、ガスマスクをつけているのだろうか。

 その声に反応するように、周囲の人間たちが返事をする。


 声の重なり具合からして、五人ほど。

 足音の均一感、やけに姿勢正しい佇まい、手に持つ短機関銃サブマシンガンの扱い方。そのすべてが、彼らはどこかの組織に訓練された人間だと証明していた。


 息を殺して待っていると、そのうちの一人が近くに寄ってきた。相手の持っている懐中電灯の光に当たらないように気をつけてから、背後に回る。


「がっ……あっ!」


 後方から、首を思いっきり腕で絞め上げた。苦しそうな声を上げて、パッカーの腕をタップする。しかし、手を緩める気はなかった。

 力を込め続けると、やがて手がダランと垂れ下がる。動かなくなった彼の体を、そっと地面に落とす。


 大きく息をついた。一人目を絞め上げたことに対して、自分の心に称賛を送る。こうすることで、心の落ち着きを取り戻すのだ。


 パッカーは略奪者の基地に忍び込んだこともある。その経験が生きている。

 

 あと四人心の奥底でカウントしながら、大きく息をついた。

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