表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第一話

 世界は終わった。それでも生きていかないといけない。

 パッカーは瓦礫と化した町を歩き、自分が生きていくのに必要なものを集めていく。


 定住はしない。いろんな場所を渡り歩く。そんな人のことを浮遊者フローとみんなは呼ぶ。

 パッカーも気がつけばそう呼ばれていた。好きでそうなったわけではない。


「……たくっヒデェな」


 先日、人間同士のいざこざがあったようで、辺り一面に死体が転がっている。地面や建物は血だらけで、歩くたびに粘着く感触が靴裏にひっつく。

 火薬の匂いと硫黄の匂い、さらには血の匂いが混ざったような悪臭がした。耐えきれなくなり、防臭マスクを背負っているバックパックから取り出して装着する。


 死んでいる人間たちは大きく分かれて二種類だった。


 旧式の装備に身を包む緑や茶色の迷彩柄の服を着た人間。新式の装備を身に着けた、灰色や白色などの都市型迷彩の服を着た人間。

 両勢力が正面からぶつかり、ここで多くの人間が命を散らした。


 パッカーからすれば、この二つの勢力がどこに所属しているかは関係ない。

 死体を漁って、売れるものや使えるものを探すだけだ。


 一番乗りしてきた甲斐があった。まだまだ使えそうな銃やガラクタが山ほどある。近くの集落の人間たちは、まだ巻き込まれるのを警戒して近づいてこないだろう。

 自分一人だけで好きなだけ漁れる。


 銃声の音が聞こえた。無機質な瓦礫の山に反響して、重なって聞こえる。

 マスクの奥で舌打ちをして、体を陰に隠す。


 どうやらまだ争っている生き残りがいたらしい。

 しかし、これは予想通りだ。ダルいなとは思うが、息を潜めば済む話である。


 そう、ただやり過ごせばよかった。


 上から人の気配を感じた。見上げると、建物から一人の影が飛び出した。


 白いタンクトップにデニムのホットパンツ。上に羽織る青色の丈の短いコートが風に靡く。

 右側に一纏めにした少し長い金色の髪が、太陽の光を反射して美しく尾を引く。青色の透明の瞳は、吸い込まれるほど綺麗だ。

 タンクトップを押し上げるほど大きな胸に、白い肌。線の細い体つきのわりには太ももの肉つきは良い。


 そこまで認識して、パッカーは微かに「女の子……?」という声を漏らした。


 少女はパッカーの近くに着地をする。周囲の灰色の景色が華やいだと錯覚するほどの可憐さがあった。


「嘘……生き残り?」


 視線が合うと、彼女は驚いたように少し目を見開く。彼女の浅い呼吸音は、本当に予想外なときに起こる反応だ。


 また銃声が鳴る。今度はそれに混じって、金属が削れるような甲高い音も聞こえてきた。どうやら争いはすぐ近くまでやってきているらしい。


 少女は見上げる。しばらく考えるように瞳を揺らしてから、パッカーの手を取った。

 久しく触れていなかった肌の温かさが、彼の頭を現実に引き戻す。彼女の手の力は優しくもどこか力強い。


「来て、ここは危ない」


 簡潔に言うと、少女は走り出した。

 引っ張られ、つんのめるようにしてパッカーは連れられる。


「お、おいちょっと!」


 彼女の動きを止めようとしたが、聞いてくれない。相当に切羽詰まっているのだろう。

 

 完全に巻き込まれたな。心の中で大きくため息をつきながらも、パッカーは手を振りほどくことはしなかった。

 彼女が近くを通過したということは、追っている連中もやってくるということだ。そして、その連中は彼女の態度から察するに一般人も容赦なく殺すような人間たちである。

 だったら、途中まで引っ張られてタイミングよく少女から離れたほうがいい。


 パッカーは彼女に力強く引っ張られながら、響き続ける銃声を背中に受けた。



※※※※※※※※※※



「そろそろ、放してくれないかなぁ?」


 銃声も聞こえなくなった頃、靴の音だけが響き続ける静寂をパッカーが割った。少女は振り返り、「ごめんなさい」と小さく言うと手を離す。

 温もりが遠ざかり、パッカーは安心したように息をつく。


「んで、こんなところで何してるんだ? 見たところ、十代そこそこだろ?」


 お互い建物の中に潜む。薄暗い影の下で、少女の瞳は周囲を警戒するように鋭く動く。

 しかし、世界に不釣り合いな金色の髪はすごく目立つ。彼女が隠れる意味はないなと、パッカーはそっと肩を竦めた。


「追われてる」

「それは見ればわかる。俺は“なんで、追われてるのか”って前提で話してる」

「……言えない」


 周囲の安全確認が終わったのか、彼女は姿勢を戻した。壁に背中をつけて、そのままずるずると擦るようにその場に座り込む。

 膝を抱えて顔を埋める彼女を見て、頭をかく。


 よく見ると震えていた。緊張の糸が解けて、恐怖がぶり返してきたのだろう。


 仕方ねえなと大きくため息をついた。

 恐怖を噛みしめるように浅く呼吸をする女の子を見捨てるほど、パッカーは落ちぶれていない。


「オレはパッカーだ。お前は?」


 彼女が顔を上げる。名乗られたことが意外なのか、少し考える間があった。

 震える体を誤魔化すように、彼女は右腕に左手を添える。


 そして、絞り出すように口を開いた。


「……アリス。アリス・ブラックウッド」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ