表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/73

第27話「国際的使命」

 心の料理講座が軌道に乗ってから一ヶ月後、王宮に緊急の使者がやってきた。


「リン様、お忙しい中申し訳ございません」


 王宮の外交官が慌てた様子で報告した。


「北方のノルディア王国から、緊急の支援要請が届いております」


「支援要請?」


 凛は驚いた。ノルディア王国といえば、厳しい自然環境で知られる北の大国だ。


「実は、ノルディア王国で大規模な自然災害が発生いたしました」


 外交官が詳しく説明した。


「火山の噴火により、多くの村が被災し、数千人の避難民が発生しています」


「それは大変なことですね」


「被災者の中には、家族を失ったり、故郷を失ったりした人々が多数おり、深い心の傷を負っています」


 外交官が続けた。


「ノルディア王国では、そうした人々の心のケアに困っており、リン様の『心を癒す料理』の技術を求めているのです」


 凛は即座に理解した。物理的な支援だけでは、心の傷は癒せない。


「どのような支援を求められているのでしょうか?」


「可能であれば、リン様ご自身に現地に赴いていただき、被災者の方々に直接『心の料理』を提供していただきたいとのことです」


 それは大きな決断を要する依頼だった。


「少し考えさせてください」


 その夜、凛はヘンリーと相談した。


「ノルディア王国への派遣か……」


 ヘンリーが深刻な表情で考え込んだ。


「確かに、君の力が必要とされている」


「でも、危険ではありませんか?」


「火山活動は収まっているが、現地の状況はまだ不安定だ」


 ヘンリーが説明した。


「それに、長期間の滞在になる可能性もある」


「でも……」


 凛は迷っていた。


「あの人たちを助けたいんです」


「君らしい判断だ」


 ヘンリーが微笑んだ。


「俺も一緒に行こう」


「一緒に?」


「君一人を危険な場所に送るわけにはいかない」


 ヘンリーが決意を込めて言った。


「それに、災害復興には外交的な調整も必要だ」


 翌日、凛は正式に支援要請を受諾した。


「ありがとうございます」


 外交官が深く頭を下げた。


「ノルディア王国の人々も、きっと喜んでくれるでしょう」


 準備期間は一週間。その間に、現地で必要な物資と人員を整える必要があった。


「メルちゃん、お店のことお願いできる?」


「もちろんです」


 メルが力強く答えた。


「でも、リンさんも気をつけてくださいね」


「心配しないで。ヘンリーさんも一緒だから」


 レオナも協力を申し出てくれた。


「私も一緒に行きます」


「レオナさんも?」


「はい。心の料理の技術を実地で学ばせていただきたいんです」


「それに、一人でも多くの手が必要でしょう」


 料理学院の優秀な生徒たちも志願してくれた。


「僕たちも行かせてください」


「現場で学べることがたくさんあるはずです」


 最終的に、凛、ヘンリー、レオナ、そして料理学院の生徒五名の計八名による支援団が編成された。


 出発の前日、セレスティアが特別な道具を持参してくれた。


「これは『癒しの調理具』です」


 美しく装飾された鍋や包丁のセットだった。


「古代の遺物を参考に作った特製品です」


「魔法の効果を増幅させる効果があります」


「ありがとうございます」


 一週間後、支援団はノルディア王国に向けて出発した。


「頑張ってください!」


「無事に帰ってきてくださいね」


 多くの人が見送ってくれた。


 ノルディア王国への旅路は三日間。馬車での長旅だったが、メンバー同士の結束が深まった。


「現地ではどんな状況になっているでしょうか」


 生徒の一人が不安そうに言った。


「どんな状況でも、私たちにできることをやるだけよ」


 凛が励ました。


「大切なのは、被災者の方々に寄り添う気持ちです」


 三日目の夕方、ついにノルディア王国に到着した。


「お疲れ様でした」


 出迎えてくれたのは、ノルディア王国の外務大臣エリック・ハンセンだった。


「遠路はるばる、ありがとうございます」


「こちらこそ。少しでもお役に立てれば」


 凛が丁寧に挨拶した。


「では、早速現状をご説明します」


 エリックが深刻な表情で話し始めた。


「火山噴火により、五つの村が全壊または半壊しました」


「被災者は約三千人。現在、王都近郊の避難所に収容されています」


「三千人……」


 凛は規模の大きさに圧倒された。


「物理的な支援は他国からも受けていますが、心のケアが追いついていません」


「多くの人が家族や友人を失い、深い絶望に陥っています」


 翌日、凛たちは最大の避難所を訪れた。


 大きなテントが並ぶ避難所には、確かに多くの人々がいたが、その表情は皆暗かった。


「皆さん、本日より心を癒すお料理を提供させていただきます」


 凛が避難所の人々に挨拶した。


 最初は警戒していた人々も、凛の優しい笑顔に少しずつ心を開いていく。


「まずは温かいスープから作りましょう」


 凛は生徒たちと協力して、大量のスープ作りを始めた。


 セレスティアからもらった特別な調理具を使い、最大限の魔法をかけて調理する。


「心を込めて、一人一人の幸せを願いながら」


 完成したスープを配り始めると、避難所の雰囲気が少しずつ変わってきた。


「久しぶりに温かいものを食べた気がします」


「心が軽くなりました」


「ありがとうございます」


 人々の表情が明るくなっていく。


 しかし、中には深い傷を負って、簡単には癒されない人もいた。


「私の娘は……娘は火山に飲み込まれてしまいました」


 一人の女性が泣きながら話した。


「もう生きる意味がありません」


 凛は女性の手を取った。


「お辛いでしょうね」


「でも、娘さんはきっと、お母さんに幸せになってほしいと願っているはずです」


 凛は特別に『記憶の料理』の魔法をかけたお粥を作った。


「これは、大切な人との美しい思い出を蘇らせる料理です」


 女性がお粥を食べると、涙を流しながらも微笑んだ。


「娘の笑顔が……娘が私に『頑張って』って言っているような気がします」


 一週間の活動で、避難所全体の雰囲気が劇的に改善した。


「素晴らしい効果です」


 ノルディア王国の医療責任者が感激していた。


「心の回復が、体の回復も促進しています」


「これまで食事を拒否していた人たちも、食べるようになりました」


 しかし、凛はまだ満足していなかった。


「一時的な効果では意味がありません」


「現地の人たちが、自分たちでも心を癒す料理を作れるようにならなければ」


 そこで、凛は現地の料理人たちに技術指導を始めた。


「心を癒す料理の基本は、愛情です」


 ノルディア王国の料理人たちが真剣に聞いている。


「技術的な部分も大切ですが、一番重要なのは作る人の気持ちです」


 実習では、現地の食材を使った料理を教えた。


「この地域の食材にも、素晴らしい力があります」


「大切なのは、その力を引き出すことです」


 二週間の指導を経て、現地の料理人たちは基本的な技術を習得した。


「これで、私たちがいなくても継続できるでしょう」


 レオナが安心したように言った。


「現地の皆さんも、とても熱心に学んでくれました」


 支援活動の最終日、避難所で感謝の集会が開かれた。


「リン様、本当にありがとうございました」


 エリック外務大臣が感謝を込めて挨拶した。


「皆様のおかげで、多くの命が救われました」


 避難所の人々も口々に感謝を述べた。


「あなたのお料理で、生きる希望を取り戻しました」


「子供たちも笑顔を取り戻しています」


「この恩は一生忘れません」


 凛は深く感動していた。


「私たちこそ、皆様から多くのことを学ばせていただきました」


 帰国の途中、ヘンリーが感慨深く言った。


「素晴らしい活動だった」


「君の力が、国境を越えて多くの人を救った」


「みんなで力を合わせたからこそです」


 凛が謙遜すると、生徒たちが反論した。


「リン先生の指導があったからこそです」


「僕たちだけでは、絶対にできませんでした」


「でも、皆さんの献身的な働きがあったからこそ成功したんです」


 王国に帰国すると、大きな歓迎を受けた。


「お疲れ様でした!」


「大成功だったそうですね」


メルや常連客たちが温かく迎えてくれた。


 翌日、王宮で正式な報告会が開かれた。


「今回の国際支援活動は、我が王国の名声を大いに高めました」


 国王陛下が賞賛してくれた。


「リン、君の活動は王国の誇りだ」


 しかし、その数日後、新たな依頼が舞い込んだ。


「東方のシルバニア帝国からも支援要請が来ています」


 外交官が報告した。


「内戦の影響で、多くの難民が発生しているそうです」


「さらに、南方の島国連合からも……」


 次々と届く支援要請に、凛は複雑な気持ちだった。


「すべてに応えるのは物理的に無理ですね」


 ヘンリーも同意した。


「君一人では限界がある」


 その夜、二人で今後の方針について話し合った。


「もっと多くの人に技術を教える必要がありますね」


「そうだな。国際的な教育プログラムを作ってはどうだろう」


 ヘンリーが提案した。


「各国から研修生を受け入れて、集中的に指導する」


「それはいいアイデアです」


 凛は新たな使命を感じていた。


 自分の技術を世界に広め、より多くの人々の心を癒すこと。


 それは、古代の継承者として与えられた、真の使命なのかもしれない。


「国際心癒料理研修所を設立しましょう」


「素晴らしい」


 ヘンリーが賛成した。


「世界平和への大きな一歩になるだろう」


 こうして、凛の活動は新たな段階に入った。


 個人から地域、そして国際へ。


 その影響力は、確実に世界を変えつつあった。


 しかし、大きな力には大きな責任も伴う。


 新たな挑戦が、凛を待っていた。


<第27話終了>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ