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隣の席の不良な秋津君は言った。「敷島さん、聖女なんて辞めてさ。俺と人類滅ぼそ?」【後編】 

じわりと墨が滲むように空中に黒点が浮かび。ざわり、ざわりと空気を揺らし。人の形になって目の前に佇む。赤みを帯びた黒髪、黒曜石のような瞳、精悍な造りの顔にブロンズ像を思わせる見事な肢体。


恐ろしい威容を放つ偉丈夫が、魔王オブシディアンがそこには居た。発せられる尋常ならざる魔力に当てられ広場に集まる人々が次々に崩れ落ちる中、笑い声が上がる。


「ふはっ。道理で見たことある気がした訳だ。敷島さん。俺だよ、俺、俺──!隣の席の秋津俊介だよ!!文芸部のユーレイ部員で何時も腹ペコ秋津君!!敷島さんはもしかして転生?俺も、転生されたんだぁ。今から大体ね、千年前カナー?」


ヤバ、泣きそう。親兄弟の顔もとっくに忘れてたのに敷島さんのことだけはすっげぇ覚えてる!そんなん愛じゃん。


まだあったんだ。俺にそんな人間らしいトコ。なんか嬉しいな。

敷島さん、敷島さん。俺ね、いま。魔王サマって呼ばれてるんだよ。すっげぇ、頑張って。魔界でテッペン取ったんだ。


「敷島さんにベンキョー見てもらったお陰。公民とか数学とか。正直、なんの役に立つんだろって思ってたケド。滅茶苦茶役に立ったよ──!!あ、それで話は変わるんだけどさ。敷島さん、俺のお妃サマになってくんない?」


Q,乙女ゲームの主人公に転生し、どのキャラともくっつかないルートを模索するも。ゲームの強制力によって備わった魅了体質のせいで異性に好かれ。


人心を惑わし国を傾ける大悪女として悪役令嬢に断罪されて処刑が決まってしまい。民衆が見ている前で火炙りにされる直前。前世のクラスメートを名乗る魔王にプロポーズされた場合の返事を以下から選べ。


A,厨二病に目覚めた?


B,不安なら私も一緒に病院行こうか?


C,ハイ、ヨロコンデ!!


「あ、俺のオススメは断然Cだよ敷島さん!!」


そう言って魔王たるオブシディアンは。秋津君はふへりと懐かしい笑顔を浮かべる。小さく首を傾げる癖も変わらない。秋津君だ、あの秋津君がそこに居ると涙が滲んだ。


「さらっとひとの心を読まないでね??」


本当の本当に本物の秋津君なのかだとか。秋津君が魔界でどーやって。というかなんでテッペンを取ったのかだとか。


「魔王サマってどういうことだとか色々聞きたいことがあるけれども!一先ず燃えてる薪を消火して欲しいな!」


「良いよー。その代わり俺のお妃サマになってくれるのが条件だけど。」


「·········選択肢の意味ェ。ええい、背に腹は変えられない!!助けて下さい秋津君!!」


「はーい、喜んでぇ!」


パチンと秋津君は指を三回鳴らした。一回目で燃え盛る炎と拘束していた鎖が結晶化して砕け。二回目で私の焼け爛れた皮膚が治り。

三回目で着ていたワンピースが絹地のように柔らかな肌触りの良い布地の秋津君の瞳と同じ色で魚の尾ひれを思わせるデザインのドレスに変わる。


秋津君がなにかしたのだろう。ふわりと地面に軟着陸すると秋津君に手を差し出され。私はおずおずと手を重ねる。秋津君に。爪、どーしたの?と聞かれて。思わず隠そうとして手を引くも握り締められた手は動かない。


「ねぇ、誰が敷島さんを虐めたのかな?あぁ、敷島さんは俺よりよっぽど優しいから誰が虐めたかなんて言えないかぁ。教えたら俺が殺しちゃうもんねぇ?」


あー···、こんなことなら千年前にさっさと人類滅ぼしときゃ良かったな。ホトケ心っていうんだっけか?弱いもの虐めなんてカッコ悪いからさぁ。不可侵条約結んでやったのに。


最近、鉱物資源狙いでコソコソと小狡く境目を跨いで盗掘してるし。見目良い種族を拐って奴隷にしたり。挙げ句、なぁんも悪くない女の子をよってたかって吊し上げて拷問して。見世物みたいにしてゲラゲラ笑いながら処刑にするとか。


「──人類、腐ってんね?そんなんだから文明が衰退すんだよ。」


「秋津君···?」


「千年前はさ。結構、現代の日本に近かったんだよ。人類の文明。スマホとかあったからね。でも俺たち魔族が魔界に籠ってる間に文明が後退して中世まで逆戻りしてるとか。俺としては正直ガッカリ。ま、人類に期待なんてしてねぇけどな。」


腐りきった人類に価値はない。ましてや敷島さんを虐めて笑ってたヤツらをのさばらせたくないんだよね。


「だから敷島さん、聖女なんて辞めてさ。俺と人類滅ぼそ?」


そう笑う秋津君はなんだか無理をしているように見えた。目線を下に降ろす。どうせ直ぐに処刑されるからと拷問の時に剥がされたまま放置していた爪は元通りになっていて。


なんなら綺麗に爪紅が塗られていた。秋津君の瞳と同じ色。それに勇気付けられて気づけば俯いていた顔を上げた。


「聖女は辞めない。人類も滅ぼさない。善悪を語れるほど私は生きていないし、秋津君がこれまでなにを見てきたのかも分からないから見当違いのことを言ってるかもしれない。」


それでも私は人間だから、人間に価値はあると言い張りたい。それがどれだけ無知なことだとしても。


「ひとは無価値な生き物じゃない。生きるに値するだけの存在意味はあるんだって言い続ける。秋津君が諦めてしまった分も。」


「···うん。敷島さんはそういう人だった。俺よりも俺のことを分かってるんだもんな。敷島さんに免じて人類を滅ぼすのは待ってあげるよ。」


まあ、俺たちがなんかしなくても。どーせ人類は滅びるだろうし。ざっと二千年?早くて五百年ぐらいカナー?


「魔族は寿命が長いからね。気長に人類が滅びるのを待つよ。」


「長命種目線だぁ。」


「だって長命種族だからね。俺たちからしたら人類の寿命が短すぎるんだよ。」


あ、でも。敷島さんをくだんない理由で虐めてたヤツらは殺しても良いよね──?うっそり笑う秋津君に慌てふためいて処刑を特等席で見ていた人が。王族や学園の生徒たちが逃げ出していく。


民衆を見捨て。置き去りにして我先にと。


秋津の物言いたげな目にアレを人類代表にしないで欲しいデスと首を真横に振った。


「ふ、はは。ベルンシュタイン!やっぱりお前は聖女じゃなかった!魔王の手先、悪魔の使い!私は間違ってなかった!」


「なにを言ってる。ベルンシュタインは操られてるだけだ!!」


「そうとも。我々が助けだし、二度と誰の手にも渡らぬようにせねば。」


「待ってな、ベル。俺たちが助けてやっから!」


「魔王だかなんだか知らないけどボクのお気に入りを返して貰うよ!!」


「私以外の手を取るとは。再教育の必要があるなベルンシュタイン。」


人類って愚かだ。やっぱ滅ぼそ?と耳に囁く秋津君に。滅ぼさない滅ぼさないと必死に主張しているとコーラル嬢を筆頭に何故か詰め掛けた攻略対象たち。


秋津君はスッと瞳から熱を無くし、コイツら敷島さんのなに?と問うので。あー、ある意味、私の被害者かなと魅了でこうなったと身体を小さくして語ると秋津君は。


んー?ああ、確かに魅了状態だけどさ。この程度の魅了でこーなるとか、意志が弱いだけだよとあっさりと言い放つ。


「え···?」


「敷島さんの魅了の力はね。せいぜい良い印象を与える程度だよ。意志が強ければ簡単にはね除けられる。」


にも関わらずコイツらが敷島さんに超絶魅了されてんのは。単純にコイツらのメンタルが弱いだけ。あとは敷島さんに見せたっていう変態染みた行動もコイツらの本性が表に出てたってだけ。


「つまり敷島さんに非はまったくない。だからソイツがアンタを選ばなかったのも単純な理由だよ。」


秋津君はどこか憐れむようにサーフィル王子にすがりつくコーラル嬢を見下ろす。コーラル嬢は炎の最上級魔法を放ちながら秋津君に叫ぶ。


「ッ黙りなさい!!」


「────アンタが好みじゃなかったから。好き嫌いで伴侶を決めれる立場かって話だし、アンタは悪くない。」


でも、だから敷島さんを虐めて命を奪って良いかって言ったら話は別だ。


「アンタはもう被害者じゃあない。立派な加害者。罰せられるのは、アンタの方だ。」


広場を埋め尽くすほどの巨大な炎は結晶化して砕け散った。

崩れ落ちるコーラル嬢を視界にすら入れずにサーフィル王子たちが次々に魔法を放つも秋津君に届く前に消失する。


興味が失せたとばかりに秋津君は私に向き直るとそんじゃ、行こっかと私の手を握る。行くってどこに?頭に疑問符を浮かべる私に秋津君はもちろん、魔界だよと笑った。


「えーっと。私が行っても良いものかなぁ。」


「良いんだよ、敷島さんは俺のお妃さまだし。」


「お、お妃様かぁ。その場のノリかと思ってたんだけど、本気の本気?」


「とーぜん本気。」


千年前に。ちょーっと厄介な呪いを掛けられたんだ。此の世界のヒトとは子供を作れないし伴侶になった相手は必ず死ぬって言うからさ。だからずーっと探してたんだ、俺と同じように此の世界に連れてこられた転生者を。


「それが敷島さんだった訳だけど、こーいうのをヒトは運命って言うのかな?」


「あ、秋津君?」


「千年経ても色褪せることのない愛をあげる。どうか俺と生涯を共にすると、俺の伴侶になるって頷いてくれないかな。」


「私を奥さんにしたいなんて。そんな物好きは秋津君以外には現れないだろうな。私は恋とか愛とか。あんまりわからないけど。隣に秋津君が居てくれたら私は嬉しい。」


「今さらだけど俺が魔王でも敷島さんは嫌わずにいてくれる?」


「───秋津君がどんな姿になっても。どれだけ歳が離れたとしても秋津君は秋津君だもの。魔王になったぐらいじゃ嫌いになったりしません。」


「そっかぁ。俺たち両想いだね、敷島さん。」


「んぐっ。そ、そうなるか。そうなるね。両想いか。私のこと何時から好きだったの、秋津君。」


「気になる?」


「気になるよ。そーいう素振りを秋津君は見せなかったもん。」


「え、敷島さんが好きなことは隠せてないって言われてたし。敷島さんにもバレてるとばかり。」


「···こ、心当たりがまるでないぞぅ。アレだな。私が鈍過ぎたか。」


「あ、鈍い自覚は敷島さんにもあったんだ。」


「自覚というか。秋津君の友だちによく言われてたというかな。ひとに言われるほど鈍いかなって疑問だったんだけど。うん、自覚した。確かに私は鈍かった反省する。」


「敷島さんは確かに鈍いけど。俺からしたらそこが良いし。敷島さんが鈍かったお陰で俺は敷島さんを手に入れられたからなにも問題ないかな。」


腰に腕が回され、引き寄せられる。唐突な密着に頬が熱くなってあわあわしている内に周りの景色が変わる。銀の月が浮かぶ薄紫色の空。荘厳な王城。その広場に何時の間にか居て。


秋津君に目で問うと魔界の俺の城だよと悪戯が成功した子供のようにくふりと笑う。

手を引かれて歩き出すと何時からそこに居たのか統制が取れた動きで大勢のひとが頭を垂れたかと思えば大歓声をあげる。


目をパチリと瞬かせると秋津君は俺のお妃様探しは配下たちにとっても悲願だったからと目を柔く細めて笑う。


「此処に集まってる面子はずーっと俺のお妃さまが現れるのを待ってたんだよ。覚悟してね敷島さん。数ヵ月。なんならこれから百年は祝われるからね。」


ああ、それから魔族は番至上主義で。自分の番。伴侶が可愛くて堪らない。特に魔王になる輩はそれが顕著でさ。それこそ伴侶が望むなら人類を滅ぼせるぐらいにはなーんでも叶えてあげたくなるんだ。


「敷島さんは人類は滅ぼさくても別に良いって言ったけど気が変わったら直ぐに言ってね。パパッと人類滅ぼしてくるからさ!」


「物騒が過ぎる。」


あれ、これ。私の一存で人類の存続が決まっちゃう感じか──?にこにことGOサインを待つ笑顔の秋津君に人類は滅ぼさないでねと念押しするけれども。にっこり笑顔で秋津君は黙りこむ。


あ、ダメだ。あの手この手で人類を滅ぼそうと私に言わせる気だ。つまり私は人類存続の是非を握ってしまったってことかぁ。


うん、荷が重い!!まさか私が聖女なのって秋津君のリードを握らせる為かと自分が此の世界に転生させられた意味を知った気がした。


(何時から敷島さんのことが好きだったかぁ。敷島さんは覚えてないかもだな。···小学校の頃の俺って病弱で身体もちっさかったから同級生によく虐められてて。いつもいつも、泣いてたんだ。)


あの日もそうだった。クラスメートに学校裏に呼び出されて。思い付く限りの悪口を吐かれ。叩かれ、蹴られ。ただ泣くしか出来なかった時に敷島さんが現れた。

別クラスの。よく図書室に居る大人しい女の子は俺をいじめる奴等に言ったんだ。


『自分よりも小さな子をよってたかっていじめて笑ってるなんて真似。私なら格好悪すぎて出来ないな。拳を振り上げて良いのは!!誰かを守るときだけだって誰にも習わなかったの!?』


そう言って敷島さんは俺を殴っていたヤツに掴みかかって。たった一人で俺をいじめてた奴等を倒して。へたりこむ俺に手を差し出しながら笑ったんだよ。


『───ひとりでよく耐えたね。君はものすごく頑張り屋さんだなぁ。』


その一言に救われたんだよ、敷島さん。耐えることしか出来ないと思っていた俺に。君は耐えることが出来たんだと認めてくれた。弱くて惨めな俺を君だけが救い上げてくれた。


···あの日から敷島さんは俺にとってのヒーローだった。中学に入り。背丈が伸び、筋肉が付いて。自分と似たようなはみ出しモノとつるむようになったけれども何時も胸にはあの日の敷島さんの言葉があった。


拳を振り上げて良いのは誰かを守るときだけだって。俺は敷島さんに教えられたから。

何度も、何度も。間違った方向に行きそうな時があったけれど。敷島さんの言葉を守って、この拳は何時も誰かを守る為だけに振り上げた。敷島さんみたいに誰かを守れるひとである為にね。


敷島さんとはなかなか接点がなくてあんまり関われなかったから。敷島さんが行く高校がどこか調べて、猛勉強したんだ。敷島さんと同じ学校に通うんだって。高校に受かって、同じクラス。


しかも隣の席だってわかったとき。俺がどれだけ舞い上がっていたか。敷島さんはきっと知らないだろうし。なんだか気恥ずかしくて教えらんないけど。


ずーっと、ずーっと前から。俺はね。敷島さんのことが好きだった。此の世界に転生させられて魔王になって。千年経てもさ。


敷島さんのことだけは忘れなかったぐらい俺の敷島さんへの想いは深くて、重くて。それでいてコールタールみたいにどろどろとしてるんだ。


「敷島さん、俺ね。敷島さんの為ならなんだって出来るし。どんな願いも叶えてあげられる。だから、今度こそ。敷島さんの隣でずーっと敷島さんのことを守らせてね?」


かくして人類と世界の命運は一人の少女の手に委ねられた。


これはナチュラルボーンにメンタルが聖女な少女敷島春子が思考と言動が常に物騒な同級生で魔王サマな秋津君をどーにかこうにか言いくるめ。人類と世界を日常的に救う日々のはじまりの物語である───。

 

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