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1、呪い

投稿するのは初めてですが、よろしくお願いします。

書くのもほとんど初めてです。


物語が破綻しないよう頑張ります。

「痛っ」



リョーコが下駄箱の前で指をかばう様にして俯いていた。後ろからリョーコを刺激しないように覗き込む。想像した通り、指に小さな鮮血が浮かんでいた。



――またか――と、深くため息をついた。よくもこんなつまらないことを。


私はリョーコの胸のうちを代弁するように、彼女の上履きを下駄箱から乱暴に引きずり出した。リョーコが、あ――と声を小さくあげる。


ばらばらと画鋲が落ちてきた。


いやらしく光る金色の針がいくつも重なり、小さな山が出来た。おそらく画鋲のケースに残っていたものをそのままリョーコの下駄箱にぶちこんだのだろう。


私は犯人が近くで見て笑っているような気がしてたまらず、辺りを見回した。丁度登校のピークの時間だ。ひっきりなしに生徒が下駄箱を開閉し、ばたばたと教室へ向かってゆく。


よく見る顔の男子が通り過ぎる。クラスメイトだ。画鋲に明らかに視線を落としているのに、何事もなかったかのように通り過ぎてゆく。


朝だというのに、挨拶もない。


いつもの事だが、そんな些細な事が、私の不愉快さにますます拍車をかけるのだった。


「ユイ、ごめんね。これ片付けちゃうから先に教室に行っちゃっていいよ」そう言って、リョーコがゆっくりとしゃがみこんだ。


よく手入れされた、真っ黒でつやつやのロングヘアーがゆらりと前後にゆれた。もう誰も可愛いと言ってくれなくなったというのに。


この子は綺麗な長い髪手入れをするのを決してやめないだろう。それが臆病なこの子のささやかな抵抗なんだろうと、私は思った。


そのリョーコは下駄箱の前でうずくまり、色素の薄い手で散らばった画鋲をひとつづつ丁寧に集めていた。


頼りない両肩を小さく震わせている。


ああ、いらいらする。




――数日前のことだ。


「リョーコちゃん、呪われたんだって」

クラスメイトの女の子が私にそう告げた。


私がリョーコと仲がよいのを知っているから、あえて私に教えたのだろう。呪いなんて馬鹿馬鹿しい――私はこの時、そう考えていた。


"呪い"はよく学校で流行る怪談話のひとつなのだと思う。

音楽室のベートーベンの肖像画が人知れず視線を動かして誰かを見つめていたり、理科の実験室に置いてある人体模型が夜中にひとりで動き回ったりしたかと思えば、昔学校のあった場所には戦時中の死体が埋まっていたりする、その手の話だ。


私の通う小学校では、それが"呪い"だった。

そして、呪われた生徒は例外なく苛められる。


実際に何十年か昔、この小学校に通っていた生徒が苛めで自殺したという事件があったらしい。その"自殺した生徒の呪い"というわけだ。


入学してこの"呪い"について耳に入らなかった生徒はいなかっただろう。

この噂は上級生から聞いて入学する前から知ってた男子もいたし、別の女子が「こんな話知ってる?」と、噂を語りだしたり。噂が縦横無尽に行き渡っていたのだ。


それから――○○ちゃんは呪われている。××くんは呪われて自殺した――といった具体的な話も。それはもしかしたら誇張なのかもしれないが、私には分からなかった。


さすがに私も少しだけ恐ろしくなって、お母さんにもこの呪いについて聞いてみたことがある。

お母さんは私と同じ小学校に通っていたので、知っているかもしれないと思ったからだ。


私は「そんなの嘘っぱちだから安心していいのよ」という言葉を期待していた。しかし、お母さんはしばらく黙って私の目を見つめていた。

息の詰まるような沈黙のあと、とうとう「お友達にはやさしくね」と寂しそうに呟いただけだった。


あの時、お母さんは私の目に何を見ていたのだろうと、今になって思い返す。


その"呪い"がリョーコに降りかかったというのだ。

だから何だというのだ。

私はリョーコのお友達。

一緒に楽しくケーキやお菓子をいっぱい作ってきたし、宿題の見せっこなんて何度したことか。


"呪い"なんて関係ない。

私がリョーコを苛めるなんてあり得ないじゃないか。

私がいる限り、リョーコは大丈夫なのだ。


私とリョーコは今も、これからも、ずっと親友であり続けるはずなのだ。


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