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修羅本

部屋には、修羅場の空気が流れていた

狭い一室、一組の男女が、現代では珍しい

和室の畳の上で、向かい合って、正座で座っている

他に物はなく、住居にしては、非常に、整頓されているとしか言いようがない

「それで、あなたは、浮気したんじゃないですか」

女の表情は、声色とは正反対に、その上気した音色とは、逆に、能面のように、普段の人相が、伺えたが、男は、それを目を合わすことなく、その目線は、畳のイグサの一列へと向かっていた

「それが実は・・」

言葉はあれど、その先は続かず

静寂という名の沈黙が部屋を、静かに、低温かへと、いざない始める

それが、どの程度たっただろうか、男の正座の限度が、第一のピークを、迎え始めたころ

おもむろに、置かれていた

女の横の鞄から、布が、小さく、その手の中で、揺れていた

男は、それを見る間もなく

脂汗が、ぽたりと、顔から畳を濡らした

「あなた、そういう趣味がないとは思いますが」

男は、それを述べもなく否定した

「実は、そういう趣味があるんだ・・」

女は、男を、見下ろす

身長差が、あるはずだが、それに、座高が著しく男が低いわけではないが

そんな光景が、出来上がっていた

女の、紅を刺したような、口が、白い顔の中で、ひらく

「かなり、大きなお胸が、お好きなようですね」

男は、それを肯定の意を敬して

「ああ、お恥ずかしながら、そういう女性になりたいと」

女の口は、間髪入れず続けた

男は、直ぐ口ごもる

「ここに何か、刺繡がしてありますね」

男は首を傾げ、その桃色のブラジャーの凝った

ゴシックのような、ごてごての入り組んだ、それに目を、向けた

そこには、まるで、間違い探しかのように、一筋の、文字のようなものが見えた

「SAEKO」

それを見て、首が、動きを止めた

「さえこさん、そうよばれたほうがよろしいのですか」

「ああ、そうしてくれ、幸子さん」

妻は、それをもって、一旦停止したかに思えた

しかし、それは、本の序章にしか過ぎなかったことを、

この男は、知らない

それこそ、妻が、これから自分を、女装趣味として、どう認識しようかという話に移るかと、そう考えていた

しかし、なぜか、一枚の紙を出された

離婚届、そう、男の頭には、浮かぶ文字があった

結婚半年にして、それはいくらなんでも早すぎる

しかし、それと同時に、こんな言葉が、聞こえてきたのだ

「そういえば、幸男さん、あなた、血液型は、なんでしたっけ、確かb」

男は、Bだと、こころの中に思った、しかし、それと同時に、なぜ、そんなことを聞くのかという疑問も、同等のものとして浮かぶ、何だ、何が、狙いだというのか

何を出す、血液型・・

「このブラジャーから検出された汗は、ABがたでした

理想のAb型の女性になるために、そんな小細工をするとは思えませんが

ねえ、幸男さん、女装って、血液型まで変えるんですか、ねえ、幸男さん

AB型だと、においか何かが、違うんですか、ねえ、幸男さん」

男の脂汗が、どばっと、露結した真冬のガラス窓のように吹き出す

「じっじつは」

妻はオウムのようにその言葉を繰り返した

「何ですか、実は、幸男さん、何なんですか、幸男さん」

「実は、高山田 冴子様に、誘われて」

妻の動きが今までとは正反対に

「っさ、冴子様」

ずっずるい

そんな上ずった声を上げた

「冴子様なら、私のほうが、抱かれたかったと言うのに

もう、何で言ってくれなかったの」

男は、べっとりと、滝のような、汗を、流しながら

正座している

その時、その正方形の座敷の中に、異質な機械音が、産声を、あげた

「リーンリンリンリーン」

男は、恐る恐る、懐に手を入れて

携帯を取り出すと、耳に当てた

妻はじっとこちらを見ている

その目は、何かしたら許さないようなそんな光をたたえていた

「はい、川下です」

携帯の中から、声が、聞こえる

「高山田だが、今日は、暇か」

ゆっくりと、和室の外の時計が、秒針を鳴らした

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