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第四十四話 辛勝

 来るまでにも見えていたが、実際に向き合うと更に大きく見える。巨人たちもレドを視界に入れたのか砲を乱射し、彼女は兵士たちを巻き込まないように気を配りながらも走り回って攻撃をかわす。


「受ける気にもならないわね」

「あの砲は数に限りがありますから、切れるの待つのが上策ですが」

「それをやると周囲への被害も馬鹿にならない、か……!」


 同士討ちを誘えないかとシュヴァンレードに尋ねるが、即座に「彼らはそれを避けるように動きを制約されているために不可能です」と答えられてしまった。


「それは業歪によるもの? それとも……」

「最初から備わっているものです。あれは人の代わりを果たすために作られたものですから」

「人が行う過誤はしないように……でもそれはそれで不気味ね」


 先程殴ったときの冷たく硬い感触を思い出す。これも魔剣や悪魔と同じように過去の存在の複製なのだろうが、こんなものが動き回る世界とはどのような世界だったのか、戦闘の只中とはいえ少し気を引かれていた。


「仕方ないわね、どうにかして体を転がしましょう」

「目を潰すことも可能ですが?」

「あれが暴れない保証があるのなら考えるわ」


 彼の言葉に応えつつ背後を取られないように跳躍すると頭を蹴り飛ばすが、微かに揺れただけで損傷は与えられない。砲撃を加えようとするもう片方を上手く相手を盾にして防ぐと一旦着地する。


「突くのと斬るのはどちらが向きかしらね」

「突く方でしょう……お使いください」


 右手へと銀が集まり短槍となって収まる。


「リアリスほど槍術は身につかなかったのよ」

「出会った頃に比べれば破格の進歩です」

「お世辞が上手くなったものね」


 二体の間に入り込み、一方の首元に槍を突き刺す。今度は手応えがあり、傷口から熱気が吹き出した。


「くっ!」

「これをお使いになられてください」


 言葉とともにもう一つ短槍が左手に形作られ、それを軸に熱気に押されて崩された体勢を整え直し着地。ぐずぐずせずに距離を取る。刺された相手は左の力が入らなくなったのか刃を取り落とした。だが、砲の残弾はまだ残っていて砲口へ捉えるべく腕を動かしてくる。


「まだまだかしら」

「首元に効果はありました。次は胴体です」

「……武器を作れるのはあと何回?」

「何分初めて扱う力ですので……あと二度程度に抑えたいのが本音です」


 やや弱気に見立てた。やろうと思えばその二倍くらいはできそうではあったが、無理して力が解除されてしまえば、そちらのほうがずっと問題である。


「了解……目覚めたばかりのあなたに無理もさせられない」

「お互い様ですよ、レド様」


 そうだったわね、と笑いながら槍を構えるレドの下にマトヤが息をきらせながらも追いつき、敵をにらみながら語りかけてきた。


「間に合ったな」

「ちょっとマトヤ、ここは危ないわ」

「少しくらい毒を飲んでも死にはしないさ」


 笑えない冗談を言う彼女を抱えてレドは二体の巨人から一旦距離を取った。面と向かっては言いにくいが、正直彼女がいては戦いにくい。


「そう困った目で見るな。自分が足手まといなのは一番良く知っているとも。だが、生き残るだけでは汚名返上にはならないのでな」

「あなた……」

「リアリスと約束したんだ、私を役立ててくれ……レド」


 自虐的なことを言いながらも目は透き通っている。死を覚悟してはいないのを感じ取ったレドは小さく頷いた。


「なら、一つだけお願いを頼める?」

「言えた立場ではないが、お手柔らかにな」


 二人は二言三言の短い打ち合わせを済ませると、左右に分かれて切り込む。巨人たちの正面に立ったレドは右手の槍を盾に作り変えて砲の狙いになりやすい位置を取り、次々と飛んでくる砲弾の雨を盾で遮り続けた。


「シュヴァンレード、大丈夫?」

「気が抜けません。まだ張り替えが間に合っていますが」


 攻撃で薄くなった個所を瞬間毎に張り替えて防いでいるが、巨人用の弾丸を立て続けに受けては彼といえどもたまらない。もう少し我慢して、と励ましつつ前を見ると巧みに巨人の背後へ回り込んだマトヤが手を振るのが見えた。レドは受けるのを止めて駆け出し、砲を向けられない位置まで進むと盾を剣に変えて構え、横一文字に右脚を斬る。機を合わせ滑り込んできた相方が同じように左脚を斬って捨て、立っていられなくなった巨人は左側に横倒しになった。左脚を斬ったほうも既に正面方向に駆け抜けていて影響は受けていない。

 それを確認してから剣を槍へと変え倒れた巨人の胴を貫きとどめを刺すが、その隙を狙い残された巨人が砲を狂ったように乱射してくる。レドは体勢を整えられずに窮地に陥るが、彼女を援護するべく残存していた城攻め部隊の兵士たちが一斉に突撃を仕掛けていた。


「好機を逃すな! 星の光を援護せよ!」

「より多くの命を救うのだ! 怯むな!」


 指揮を取るブレッカとラルフレートが檄を飛ばし、それに応えた兵士たちが最後まで温存されていた全ての槍で巨人の胴を絡め取り次への対処を遅らせる。その間に再度武具を生み出した彼女のもとに、最後の援軍がたどり着いていた。


「マトヤ、私に合わせなさい!」

「分かっているさリアリス!」


 いつの間にか後を追ってきていたリアリスが、マトヤと示し合わせて先程の再演のように巨人の足を斬って転がした。諦め悪く砲を撃とうとするが、鋭く飛んできた円盤が砲身を歪ませてそれを防ぐ。


「止めを外したら承知しねえぞ!」

「その賭け、はずれは引かせないわ!」


 疲労の限界を超えてその場に座り込んでしまいながらも、大声で呼びかけるデスクスにどなり返したレドは跳躍して相手の心臓部を貫く。先に倒れた巨人と同じように悲鳴すらあげずに動きを止め、完全に動かなくなったことを確認したレドが終わりを告げると、安堵と歓声がその場を満たした。


「やりましたねブレッカ様!」

「ああ、生きて残れたことを感謝せねばな」

「アルジェナイト様もご無事で何よりでございます」

「リュービス、気を遣うのはいいが君自身も労るようにな」


 合流した三侯たちは口々に安堵の声を上げる。数多くの犠牲を払いながらも一筋縄ではいかない戦いを乗り切ったことを喜ぶ。


「おいドール、今夜は美味い酒を頼むぜ!」

「任せとけ、酒はちゃんと良いとこに隠してあるからよ!」

「まあ、準備は怠りないわよ」


 早速祝杯の相談をするデスクスとドールにアトリは苦笑した。当てにならない自分の占いも少しは当てにできそうだと改めて思う。

 そんな歓喜の輪から少し外れたところでそれを眺めていたマトヤに、レドとリアリスが声をかけた。


「お疲れ様、マトヤ。いい動きだったわよ」

「ありがとう、レド……しかし、不思議なものだな。お前に借りた剣を持っていたら、好機になんの迷いもなく体が動いていたよ」

「それはあなたの実力よ。私はちょっと手を貸しただけ」


 柔らかに微笑む。業歪が過去から魔性を再生できるように星光たるシュヴァンレードも過去から武具やそれに宿る記憶を再生でき、レドはその力で足りない技量を補っていた。

 また、今回のようにその力を他人に貸し与えることもでき、レド本人のように柔軟に変えられないが貸したときの形に応じた力を発揮できる。もっとも、最後にリアリスたちが呼吸を合わせられたのは別の理由もあった。


「リアリス……」

「ご苦労さま、まだまだ罪を償うには足りないけど……あなたには少し休養も必要かしらね」

「そうか……」

「ただ、普通には休ませないわよ。あなたにしか出来ない役割があるもの」


 リアリスはいたずらっぽく笑って後ろを振り向く。その視線の先には彼女がずっと心を砕いていたかけがえのない宝物がいた。


「……カザリ? ……カザリ!」


 ユーデとセキトに支えられぼろぼろな姿でふらふらと歩み寄ってくる妹に駆け寄り、その体を離さぬようにしっかりと抱きしめる。


「ねえさま……」

「カザリ……許してくれ! 私は……わたしは……お前に何もできなくて……!」

「いいの……私も……姉様も……無事だから……」

「うああああっ!」


 二人の目からは止めどなく涙があふれてきて、お互いにそれ以上は言葉に出来ずにただただ抱き合って思いを寄せあった。少し離れた場所でレド達は言葉をかわす。


「ユーデ様、カザリをお救い頂いて助かりました」

「いえ、私もセキトに大分助けられましたよ」

「姉さんこそ大丈夫? 無理してない?」

「そうだ! 姉さんも少し休んで。動きすぎだし、力も使いすぎでしょ?」


 セキトの言葉にはっとなり慌てて姉を気遣うリアリスに手を振ろうとして、出来なかった。レドはゆらりと体を傾けてしまう。


「……シュヴァンレード?」

「レド様……現状ではこれ以上支えきれません……」

「困ったものね……ダンくらい頑丈なら良かったのだけど……」

「姉さん!」


 星光と語り合いながら倒れこみ意識を手放したレドに、妹は悲鳴を上げた。抱き上げたその体には全くと言っていいほど力が感じられない。

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