天使の足跡
私、沢田隆広の研究は死者と生者の脳を繋ぐというものだ。既に何度か実験を重ねているが、倫理観な問題などから表沙汰にできるものではない。
被検体40号
・藤田 麻里子
・20歳女性
・事件の被害者
・腹部に刺し傷。ナイフによる多量出血・多臓器不全により死亡している
被検体41号
・加藤 孝太郎
・25歳男性
・事件の加害者
加藤の犯行に計画性は無かった。犯行後すぐに警察に逮捕されたが、逃走中に事故にあったために記憶喪失になっている。今回の実験での目的は、被害者である藤田真理子の脳と加藤の脳を繋ぎ、藤田真理子の事件当時の記憶を加藤に追体験させ記憶の回復を図ることだ。一応この実験は尋問という形で行っているが、細かい問題は金で解決した。
部下たちが10名入っても余裕のある広さの実験場では、実験用の機材が稼働し続けている。薄暗い実験場の真ん中には、加藤と藤田真理子。保存状態を保つために藤田真理子の遺体は身体ごと専用のマシンに入れ、冷凍状態を保っている。加藤は、拘束具を取り付けベッドに縛り付けてある。頭にはヘッドギアを取り付け、藤田真理子の遺体が入ったマシンに接続をして、それを囲むように配置された実験用の機械には部下たちを張り付かせて仕事をさせている。
実験の進行状況から、藤田麻衣子の脳を通した事件当時の追体験は概ね完了しているはずだ。データ再現された仮想世界から目を覚ました加藤の記憶状態を確認することで実験は完了する。
10年前、事故で死にかけた時に見た白いワンピースを纏った少女。天使のように可憐で美しい少女だった。私はもう一度だけ彼女に会いたいのだ。死者の脳の中には、彼女の足跡が残っているかもしれない。一歩でも彼女に近付くために、私は死者の脳を覗き見なければならないのだ。