親切な管理人さん
今回の作品は短文です。
*本文は終始、一人の老人の目線で進みます。ご注意下さい。
初めまして。
私はこのアパートの住人兼管理人をしている、しがない年寄りです。以後宜しくお願いします。
それではお部屋にご案内……する前に身の上話をチョットだけさせて下さい。
実は私も貴方と同じく訳アリでここに辿り着いたんですが、このボロアパートを初めて見た時は『ここで暮らすの? やだなぁ〜』と思ったりしました。
ですが住めば都と言うではありませんか、程なく愛着が湧いてきまして。
いやね、見た目に反して案外居心地が良かったんですよ。
隣人も静かな方ばかりで、質素で静かに過ごせる環境が私に合っているとこのアパートが気付かせてくれたんですね。
ただ稀にこの環境に馴染めずに転居される方も。
初めは『こんな素晴らしい環境なのに何故?』と思っていましたが……後にいなくなった理由に気が付きました。
原因に気付いた翌日、偶然大家さんに会ったので挨拶をしたら『住みながらで構わないから入居者の管理もしてみませんか?』と話を持ち掛けられまして。
大家さんは『適任者が現れなくて困っていた』とその場で愚痴をこぼされまして。
あ、管理とは所謂『管理人』ってやつですね。
聞けば条件も簡単なモノばかり。
皆の為になるのならと喜んでお受けしたんですよ。
え? 年寄りの身の上話なんか聞いても面白くねえ? サッサと俺の部屋に案内しろと?
えーと、これから話が盛り上がる……いえコレは入居前に必要な説明だったんですが……貴方の性格では仕方ありませんね。
なら説明は省きますね、はいはいご希望通り止めましょう。
はい、残念ですが私もそう思っていたところです。
『はい』が多い? それと長話はウザいから手短にしろ?
はいはい、では早速昔話を……て明白に嫌な顔せずにもうちょっとだけ付き合って下さいね。
だいぶ前のことなんですが、変わった時期に新しい入居希望者が訪れまして。
え? 時期?
そう時期です。私もそうでしたがこのアパートを訪れる方は大抵は同じ時期じゃありませんか。
いい加減にしろ? あ、焦らないで。今、貴方の将来に関わる大切な話をしているんですから。
でその人は迷惑なくらいの強い殺気を放つ方でした。
どうやら『そっち系の方』だったみたいで、傷が癒えた事も含めて現実が受け入れられなかったみたいで。
因みに貴方はどうですか?
さっきから何を言ってるのか理解不能?
……そうですか。
まあ……これも仕事と割り切って続けますね。
いいですか? ここから良ーーく私の話を聞いて下さいね。
その騒がしかった方にも今、貴方に話しているのと似通った話をしたんですけど……どうしても現状が理解出来なかったようで途中から騒ぎだしちゃいまして。
その場は何とか収めたんですが、入居後にまた騒ぎ出しちゃいまして。
結局翌朝までに強制退去になっちゃったんですね、はい。
因みに強制退去の判断には私は一切関わっていないので先に言っておきますね、はい。
え? 騒いだだけで強制退去は厳しくないか、ですか?
人それぞれ複雑な事情を抱えて生きてきたのは分かります。
ですがその事情をどう清算するかを決める為にここに来たんじゃないんですか?
…………取り次ぐ島もなしですか。なら仕方ありませんね。
貴方もその騒がしかった方と同じく現実が受け入れられないということです……いやいや優しい大家さんが与えてくれた最後のチャンスを勿体無い……いえコレ独り言ですね。
では入居前の説明はこれで終了となります。ご静聴ありがとう御座いました。
ではお部屋にご案内しますね。
……あ、最後に一つだけ。貴方の目にこのアパートはどう見えています?
え? アパートじゃなくてリゾートホテル?
はぁ……そうですか。以前にもそう仰られた方がいましたね。
誰とは言いませんが……
ここはどこ?
老人の役割は?
大家さんとは?
色々と想像(推理)の翼を広げてみて下さい。