7 熱に浮かされ
青い炎は行燈の様に、静かにそこにいた。
銀朱様と私との行いを、揺らぐ事なく照らしていた。
「あっ」
冷たい唇が触れ、赤く熱い舌が肌を這う。
触れられる度に、私の肌はほんのり色づいていく。
肌蹴た着物はするりと落ち、片方の肩が露わになった。
……私は、他人事のようにぼんやりとそれを見ていた。
『逃がしはしない』
その言葉通り、銀朱様の片手は後ろへ回され私の両手を拘束している。
為す術のない私の口からは、どこかで聞いた様な嬌声がこぼれた。
私は……。
このまま皆と同じ運命を辿るのだろうか。
暖かい陽の光を避け、闇に生きる物の怪のように。
ゆらり、青い炎が揺れた。
衣擦れの音。
「邪魔が入った」
銀朱様はそれだけ言うと顔を上げ、青い炎を手にした。
「また、来る」
青い炎は消え、屋根裏部屋は再び闇に包まれた。
……助かった。
私は、肌蹴た着物を手繰り寄せ胸元をきつく閉じた。
熱くじんわりと疼く肌が、憎らしい。
触れられたくらいで嬌声をこぼす、喉も憎い。
淫らに変えられていく、自分が辛い。
うずくまる様に、胸を抱え窓を見上げた。
差し込む月明かりに、夕刻の彼を想った。
陽の匂い、暖かい唇。
何故だろう。
嫌じゃなかった。
それどころか、懐かしささえ感じた。
その日の夜。
私は夢を見た。
顔の見えない母親と、幼い私が歩いていた。
二匹の狛犬の間を抜け、階段を上っていく。
帰りは一人、泣いていた。
悲しい、悲しい、と。
夕刻の少年がやってきて、頭を撫でてくれた。
日に焼けた、浅黒い腕。
気が付いたら、部屋はまだ暗かった。
「可哀相に……」
細くて、白い手が私の頭を撫でていた。
「ゆうづる……ねえ、さん」
半分しか開かない、重いまぶた。
悲しそうな顔をした夕鶴姉さんが見えた。
「可哀相な、薄桃……」
「ねえ、さん」
体が重かった。
銀朱様の触れた肌が、まだ疼いていた。
「起きなくていいのよ。可哀相に、熱を出したのね」
夕鶴姉さんの白い手が、おでこに添えられた。
ひいやりと、冷たく心地よかった。
そうか、私は熱を出したのか。
夢はそのせいか。
どろりとした睡魔に身を任せ、私は重いまぶたを閉じた。
夢でも想うのは、やっぱり少年の事だった。