13 約束
白き幻が、揺れる。
薄暗い森の中、目を凝らせば女の形。
誘うように、白い手が招く。
透ける肌、優しい微笑み。
廃れた、鳥居。
手を合わせる、女。
懇願する瞳。
強く合わせた手の平。
合わせる指無く、曲げられた小指。
小さく開いた唇は、消えた少女の名を呼んだ。
指差す先は、廃れた鳥居。
迷わずくぐり、振り返る。
女は幻、透ける形。
その揺蕩う姿、美し。
***
「美桜っ」
目覚めた時から、悪い予感がしていた。
「何処に、いるんだ……」
携帯を片手に、健は歩き回っていた。
胸騒ぎがする。
今朝、病院で健は目を覚ました。
一時は植物状態になるのではと、医者が諦めかけたというのに。
頭の傷も塞がり、桃色の傷跡を残すだけ。
その回復力は奇跡というより、何か妖しげ。
しかも、美桜の姿が見当たらない。
目覚める少し前に、看護師さんと会っていたというのに。
絶対安静。
健は良い子のふりをして、病院を抜け出した。
幸いな事に、事故の時着ていた制服と荷物がそのまま部屋にあった。
悪い予感がする。
「くそっ」
知り合い全てにメールしたというのに、誰ひとり美桜を見ていない。
健は握り締めた携帯を振り上げて、止めた。
携帯に八つ当たりしても、美桜の行方がわかるわけじゃない。
「何処に、いるんだよっ!」
考えたくなくても、考えてしまう。
あの日の出来事、消えた美桜。
「美桜……」
健は力無く、道端に座り込んだ。
ここはそんなに大きく無い町だ。
誰にも見つけられないなんて……。
「みお……」
空を見上げた。
暖かく、晴れた空。
心地よい空の下、美桜がいない。
『私がいなくなっても、絶対探してね』
小さな、痩せた女の子。
互いに小指を結んだ、約束。
「……絶対、探す」
健は、立ち上がった。
顔から苛立ちが消え、強い眼差しで前を向いた。
「絶対、探すから」
小さな痩せた、美桜。
守ってあげると決めたのは、自分。
健は歩き始めた。
絶対に、美桜を探す。
例え何処かに消えても、必ず見つける。
歩き続ける健の上に、桜の花が舞う。
健は、舞う桜に目を細めた。
「……」
まるで誘うように、桜が舞う。
「さく、ら……」
健は、花びらを手の平に握った。
そのまま、ふらりと歩き始めた。
次から佳境です。