3 鬼の性(さが)
色鬼、たかおに、鬼ごっこ。
鬼さん、こちら。
手の鳴る、方へ。
こちらへ来れば、甘いお水もあげましょうよ。
「ねぇ、黒紅。私、銀色の鬼を見たわ」
黒い鬼はきりがない。飽きることなく、繋がれる体。
待ったをかけるように、話し始めた。
「あんな綺麗な鬼、初めて」
鬼は私の体を膝の上に乗せ、肌蹴た胸元に舌を這わせた。
「……それは、妬けるなぁ」
黒紅には、心が無い。
ただ、色を好むだけ。
「でも、血塗れだった……わ」
嫉妬と言う言葉がふさわしいのか、わからない。
黒紅は、私が他の鬼の話をするのを好まない。
「あいつは……まだ、弱いからなぁ」
平然と話をしながら、私を責め立てる。
「あいつは……まだ、人を喰った事がないからなぁ。弱いんよ」
鬼は、人を喰う。
美しい容姿で人を惑わす。
この黒紅だって……。
『娘を喰われるのと、お前が攫われるの。どっちが良いか』
初めて黒い鬼に逢った日。
黒紅は、笑顔で私にそう問うた。
黒い髪の毛、透き通る肌の白さ。
瞳は赤く、男とは思えぬ桃色の唇には小さなほくろ。
……ひと目でわかった。
この世のものでは、無い。妖艶な美しさ。
一瞬、見蕩れた私に、鬼はまた私に問うた。
『娘かお前か、どちらか選べ』
鬼は幼子を易々(やすやす)と片手に抱え、にやりとその牙を見せた。
『娘を助けて下さい』
私は、後悔などしていない。
あの日、それ以外に選択肢はなかったのだから。
薄暗い部屋の中。
水音だけが、響く。
黒紅と繋がれる、私の体。
「……弱いんじゃ……ないわ」
人を喰わない、銀色の鬼。
揺れる体をそのままに、私は想像に耽った。
「……きっと、優しい……のよ」
黒い鬼はニヤリと笑った。
「薄紅は、甘いなぁ」
考えなのか、味なのか。黒紅は、真っ赤な舌で私を舐めた。
「黒紅だって、甘いわ」
目で誘う。黒い鬼は、誘いにのって私に耽る。
全く……甘い。
鬼と交わる事など、私にとってどうでも良い事。
この行為に、何も意味はない。
お互い、心など無いのだから。
ただ、鬼が娘を攫わぬよう体で繋いでいたいだけ。
濡れるのは、私が流す涙。
私の体から流れるのは、涙だけ。
私は、想像に耽った。
……人を喰わぬ鬼。
それはこの世界では珍しい、銀色の鬼。
人を喰えば、強くなるのが鬼の性。
目の前の鬼も、数え切れない人を喰ったのだろう。
銀色の鬼。
快楽ばかりの遊郭で、私の興味を惹いた……鬼。