薄桃編 1 とうりゃんせ
赤く、朱色に染まった夕暮れ。
母と二人、歩いていく。
耳に届く、哀しいメロディー。
『とうりゃんせ、とうりゃんせ。此処は何処の細道じゃ……』
壊れかけた信号から、聞こえるとうりゃんせ。
単純過ぎるその音が、かえって恐ろしい。
繋いだ母の手を、ぎゅっと強く握った。
『行きはよいよい、帰りは怖い』
幼い私は怯えていた。
繋いだ手が、このままずっと母のものでありますように。
『怖いながらもとうりゃんせ、とうりゃんせ』
幼い日の記憶。
夕暮れ時は、誰そ彼時。
繋いだ手は、誰のものなのか。
見上げた時には、闇夜が包む。
耳に残るは、忘れかけていたメロディー。
あの日、隣に居た母はもういない。
繋いだ手は、いつの日にか解けてしまった。
漆黒の闇。
何処からきたのか、何処に向かうのか。
もう、とっくに忘れてしまった。
一筋の光、ゆらゆらと。
闇の向こう、朧ろげで。
ゆらゆら揺れる、雪洞か。
『イキハヨイヨイ……』
立ち止まるその先は、妖しい色香の漂う遊郭。
百鬼夜行ならぬ、百姫夜香。
闇夜に映える白い手が、おいでおいでと私を誘う。
『カエリハ……』
帰り道。
帰り道なら、もう思い出せない。
私は……。
何処からきて、此処にいるのだろう。