4話 親と子
有桜が入院したのと同時に夏休みが始まった。
時間が取れるという意味ではタイミングが良く、楽はその時間を有効活用しようと考えていた。元々友達など居なく、時間は無駄に余っていた楽なので、考える猶予はあった。
有桜との残された時間はあと1年足らず。
そう聞いたが、実際病状の進行度は分かりにくく、3ヶ月程度であっさりと死んでしまう場合もあるらしい。
そんな限られた時間の中で楽は自分が出来ることを考えた。ただ、16の高校生ができることなんて限られている。
「ただいま」
「ちょっと楽!どこに行ってたのよ!こんな時間まで。」
「ちょっとね…部屋に戻る」
「あっ、ちょっと!もう…」
元々親と仲の良い方ではなかった。
それに有桜のこと、反抗期と重なり、楽と親の溝は過去最高に深まっていた。
楽の家は父、母、妹と楽の4人家族だった。
父親は近くで居酒屋を営んでいて、経営の専門学校に入った楽を見て継いでくれると思っていた。
「楽、入るぞ」
父親が帰ってきたようだ。居酒屋といっても夜遅くまでやってる店ではなく、定食屋に近いような感じだ。
「楽、ちょっと遊びが過ぎるぞ。夏休みに入るが学校の勉強は大丈夫なのか?」
遊んでる そんなことを言われ、楽はイラッときていた。
「別に遊んでねぇよ。学校は父さんには関係ないだろ。好きにさせろよ。」
「そうはいかない。楽が専門学校に入ってくれて嬉しいんだ。頑張ってウチの店を継いで欲しいからな。」
楽は家の店を継げることはできない。その旨を伝える必要があると感じた。もちろん、最初に経営の学校に行った時は継いでもいいかな、と感じていたが、今はダメだ。それが有桜と最後まで一緒に入れる条件だ。
「…家の店は継げない。」
父親はビックリしていた。元々内気な性格なのもあるが。
「な、なんでだ?家を継ぐために経営を学んでるんじゃないのか…?」
最初はそのつもりだった。だけど今は違う。
詳しく伝えなければ、そんな気持ちが楽の頭に浮かんだが、伝えようとする気持ちを遮るように父親の言葉が続いた。
「それに、他に何をするんだ、起業でもするのか?そんなことを誰かに言われたのか?最近ずっと遊んでばっかいるが、そんなことを言う友達でもいるのか?」
なんてことない、心配の言葉だった。だが、今の楽に心の余裕は無い。今の追い詰められていた楽には、まるで有桜をバカにされたように聞こえた。
「だったらなんだよ!元々父さんの店を継ぐなんて話1度もしてねぇだろ!しつこいんだよ!」
怒号が家を震わせる。母と妹が何事かと駆け寄ってきているのを感じた。今までここまで自分の意思をハッキリと叫んだのは初めてだからか、父親はとても驚いていた。
「ちょっと!何事なの!」
母親が来たら面倒だ。と感じた楽は、父親を部屋から押し出し、鍵を閉めた。外では父と母が話しているのが聞こえる。
自分は何をやっているのだろうか。
こんなこと初めてだったのでとても疲れていた。
その日は落ちるように眠りこけた。
時間は余るほどあるので、楽は時間が許す限り有桜に合いに行った。ある程度の自由は保証されるが、とりあえず最初の3日間くらいは病院管理らしい。今日が2日目だ。
「あっ、楽くんじゃん。やっほー」
「うん。おはよう。調子はどう?」
「大丈夫だけど…ねぇ、親と喧嘩したべ」
「!?」
何故バレたのか。楽には分からなかった。
「なんで…」
「私もよく喧嘩するからさー。表情とか見てればわかるよー笑 何があったのか、話してみ?」
楽は包み隠さず昨日のことを話した。
「そっかー…うん。楽くんが悪い。」
「え…なんでよ」
楽は想定外の返しがきて、戸惑った。
「楽くんが私のためにお父さんにあんな提案してくれたのはとても嬉しいけど…すごい悪い言い方するね。それって楽くんのお父さん達からしたら楽くんの都合なんだよ。しっかり説明しないと。」
その通りだ。僕ももちろんそう思う。
ただ、喧嘩中の人とは、そういう当たり前のコミュニュケーションが取れないのが現実だ。
「ちゃんとご両親にしっかりお話して、私も明日退院できるから明日から楽しく遊ぼうよ。」
その通りだ。帰ったらちゃんと説明しよう。
「分かった。今日は帰るね。明日また来るよ」
「いい報告待ってるよ 楽くん」
その言葉を最後に、楽は病院を後にした。