3話 選択の時
有桜が倒れた。
理由はまだ分からないが、色々な人が集まってきている。さっきまでは集中治療室というとこに居たが、今は病室に運ばれて、何故か僕も偉そうな人々に同伴している。
有桜はとりあえず大丈夫みたいだ。すやすや寝ている。
そこに1人の医者が入ってきて、暗い表情で説明するように話す。
「ここが選択時です。延命処置をするか、余生の質を高めるのか。」
え?どういうこと?延命?
冷や汗が流れると共に思考が止まる。
状況が飲み込めず、何も理解できない。
「選択は、明日までにお願いします。」
医師はそう残すと、病室を後にした。
「選択、か。そうか」
一番偉いであろう人が口を開いた。
「んで、君は誰なんだい。有桜とずっと一緒に居たらしいが。」
「あっ、はい!楽と言います!有桜さんには、いつもお世話になっていて、えっと…」
「もういい。分かった。私たちは今日はもう帰る。君も早く帰りなさい。」
そういうと、5人くらいの偉そうな人が帰っていった。病室に残ったのは僕だけだ。
「ん…あれ、楽くん…」
「あ、有桜…大丈夫か…?」
有桜が目覚めた。
「その表情見ると、私の話もう聞いた…?」
「詳しくは聞いてない、ただ…」
「実はね、私死ぬんだ。血液硬化っていってね、血がどんどんドロドロしていって、最終的に機能しなくなるの。」
「え…それ、大丈夫なのか?」
「ううん、治らない。ただ、選択肢が二つあるらしいの。延命処置でベットから出れないけど3年は生きられますよ。って処置と、1年足らずで死んじゃうけど、自由に動けるよ、って処置。」
「そうか…どっちにしたいの?」
「私的には、自由に生きたい。だけど、それを世界は許してくれない。」
世界…?
「ほら、私のお父さんって社長じゃん。んで、私はもう見切られてて。早く会社を継ぐ子供を作れってうるさいんだ。その矢先のこの病気。笑っちゃうよね笑」
「笑えないよ…そんなの、聞いてないし…」
「言いたくなかったんだ。変に気を使われたくないしね、ごめんね」
本人が言いたくない気持ちもわかるが、こんなのいきなり過ぎやしないか…
この日はこれっきりで帰され、次の日1番で病院に行った。既に、昨日の人達が集まっていた。
そんな中、1つの話が耳に入ってきた。
「娘は子供を作ることは可能なのか?」
「延命処置をしていれば、普通の出産はできなくはないでしょう。ただ、難しいものになりますね。質を高める処置にすると、薬を定期的に入れなければいけないので、出産は無理ですね。」
「そうか。なら、延命処置を…」
「ね、お父さん。私、延命処置なんてしたくな」
「黙れ。お前に選択権はない。お前は会社を継ぐ子供を作るのだ。決定事項だ。」
…なんだ。そんなの違くないか?
人の家族のことに口を出したくない。元々厄介事は嫌いだ。関わりたくない。だが、これはいくらなんでも違う気がする。
「決まりだ。延命処置で決めだ」
「ちょっとまってくださいよ」
思考よりも先に口が開いた。やばい、どうしよう
「なんだね、君は。人の家族事情に口を出すな。」
「いや、あの…こういうのは!本人の意思が、重要だと思う、思います…」
「じゃあ君にはこの会社を存続させるいい案があるのかね。経営能力があって、とても優秀な若い人材を用意できるのかね?私にはビジョンがある。小さい頃から教育させ、ウチの会社を継がせるのだ。」
さて、どうしよう…
無責任なことを言ってしまった責任がある。
僕にできることは限られているはずだ。
有桜のために、できることならやろう。
「ぼ、僕が!僕が継ぎます!僕は高校が専門の経営専攻ですし、これからもずっと勉強して、絶対紅生さんに納得させる能力をみにつけます!」
「…」
「なので、有桜さんに、選択させてあげてください!」
「楽くん…」
部屋に沈黙が流れる。その時、自分がしてしまった失態が体にだんだんしみて行く
その沈黙を打ち破るように口を開いたのは、有桜の父親だった。
「……分かった。その代わり、有桜が死んだら週に2日はうちで経営を学んでもらう。」
「…!!!」
有桜が顔を伏せ、震えていた。
僕は、やってしまった感と感激の感情がとても混ざっていた。
「楽くん…ありが、とう……」
この時、僕は決めた。この子の残りの余生を、何とか充実したものにしなければ、と。