プロローグ
よろしくお願いします。
二年前、戦争があった。
それは神話の時代から続くと言われている魔王と人類の戦争であり、休戦と開戦を繰り返してきたソレは一人の勇者が魔王を討った事で終戦したと世間一般的には言われている。
勇者とは、テンブルス王国に本部を置く“教会”によって選定された力ある人間であり、必須条件に光魔法を使えるという事が記載されている以外には特別な事は要求されていない。
光魔法が使えて力がある人間。そして、教会から支給される代々受け継がれてきてた聖剣を使って戦う姿は正に一騎当千であり、人類存続の戦争という事もあってこの時代に数多く生まれた“英雄”と呼ばれる人間達より頭一つ抜けて強いというのは、前線に居る兵士達にとっては常識だった。
しかし、そんな兵士達でも「勇者では絶対に勝てない」「仮に自分たちが敵対する事になったら全力で命乞いをしろ。奴らからは逃げられない」と口を揃えて言わしめた存在がいる。
世界で五人だけ存在する彼らを人は“大英雄”と呼ぶ。
大英雄は一人で一国を相手出来る程の力を持つと言われる程に強力な力を持っていた。そして、彼らにはそれぞれの特徴に合わせて二つ名が付けられた。
大賢者は魔法を極め、一度発動させれば湖が蒸発する。
神槍はその槍を突き出せば海が道を開ける。
宵弓は到底人では届かせる事の出来ない距離の敵に対して百発百中で矢を当てる。
創造者は錬金術でゴーレムの軍団を作り出し、敵を蹂躙した。
彼らの二つ名は勇者や聖女などよりも戦場に轟いていたが、そんな中でも恐れられ、大英雄が全員で挑んでも良くて相討ちにしか出来ないと四人に言わしめた大英雄はその名を前線に居た一部の人間しか知らない。
彼はその姿を指して《血濡れ》と呼ばれた。
魔族との戦争でほぼ不眠不休で戦い続け、常に敵の返り血を身に纏っていた剣士。共に戦場に立った事がある兵士は彼を畏怖と尊敬を込めて様々な呼び名で呼ぶが、多くの兵士は“血濡れの剣士”と呼ぶことが多かった。
誰よりも前に一人で出て、孤立無援だとしても全てを薙ぎ倒して帰還する。
まるで死なんて恐れていないかのような振る舞いに、兵士達は皆、震えた。
そして、魔王を討ったのも彼だった。
それが何故、勇者が倒したという事になっているかと言うと、教会と王国の政治的な問題があるからだった。
教会は自分たちが選出した勇者が魔王を倒していないとなれば、その発言力を大きく落してしまう。
王国としても、自国の勇者が魔王を討ったとなればこの先他国に対して有利に立ち回れる。
その二つの思惑と《血濡れ》自身が名声や権力に興味がなく、むしろそういうのは面倒だと思っていた事から両者合意の上で表向きには『勇者が魔王を討ち、世界に平和が訪れた』という事になったのだ。
数々の功績を上げて来た大英雄がそんなスタンスだったために、教会と王国はついでに彼の功績も全て勇者の物としてしまった。
それ故に、民衆には《血濡れ》という二つ名の大英雄はあまり有名ではない。
終戦から二年。他の大英雄が出身国に帰り、様々な働きをしている中で血濡れの剣士ことベル・オールビーも出身国である王国へと帰還していた。
だが、他の大英雄のように何かをしているわけではない。
彼は、王国の西側に存在する長閑な村に居る。
正確には、その村から少しだけ離れた場所にある花畑――その中心に生えている大木の根本で横になっていた。
ただただ、戦争時代にそぎ落としてきた睡眠を取り返すかのように惰眠を貪っているのだ。




