第13話 カール 女難の相!(妻候補者と姑候補の攻防 前夜祭!)
◇◇妻候補者と姑候補の攻防 前夜祭!
屋敷に帰るとマルガレータ母様の執務室へ「マルガレータ母様 ただいま戻りました。 実はお話が有るのですが、宜しいでしょうか?」
「何だ! カールが改まって話がって云うと 身構えてしまうな」マルガレータは冗談を云いながらカールに話の続きを促した。
「実は交際の宣言をして下さった、三人からマルガレータ母様へご挨拶がしたいからと話が有ったのですが いつが宜しいでしょうか? 一応 領都のアグネス母様達の処はクーガの祭典が終わり次第に 行きたいようなので これから手紙を書こうと思って居ます。」
「あ~ぁ 挨拶か 久しぶりだな! 普通は早くても中等学部の終わり頃にある話なのだが、カールは学院初年度だからな 私は何時でも良いが、向こうは準備が有るだろうから 来週ではどうだ?」
「判りました! 来週と云う事で話を進めます。 具体的な日時は決まり次第と云う事で」
「カールは実際問題、如何なんだ?」
「マルガレータ母様 どうと云われましても 実感も何もないのが現実です。」
「確かにそうだな、カールはやっと5歳だからな」
何となくカールに出鼻を挫かれた感のあるマルガレータなのだが、気を取り直して当初のカールの引出しを開くべく言葉を紡ぐ。
「ところでカール! アーレンハイト家の事だが、前に貰った 宝石と貴金属で財政的には改善をしたと云えるが これは一時的な物と思うが、如何だ?」
「確かにその通りです、アーレンハイト家の今後のビジョンを考えないとダメでしょう 幸いな事に 今であれば少しは手持ちが有る為に先行投資も出来ると思います。 ここでこの前のパンの件はどうなったのでしょう?」
「パンの件は私の弟が商家に婿に入って居て、その弟 ジョンビーノに任せる事にした。 既に領都のアグネスにも手紙を送った。」
「そうですが では食品関連はジョンビーノ様に任せる事で良いと思います。」
マルガレータは最近、カールとの会話が楽しかった。 カールはマルガレータの思考に付いてこれる。 マルガレータが何を云わんとして居るか理解できるのだ。
これはマルガレータにとって得難い事だった。
「カール、ついでだがこの前 聞いた食品の流れでもう少し何かアイデアは無いのか?」
「色々と有りますが、どの様なアイデアをお望みなのでしょうか?」
「折角、新しいパンにトッピングするチーズとバターだ、その流れで頼む!」
「判りました、少しお待ちください。」カールはそう云うとマルガレータの元から、キッチンへと向かった。
「カール様 どうされました? 何かご入用でしょうか?」
料理長のクックは少し期待を込めてカールへ訊ねた。
「あ 調理長! マルガレータ母様から この前のパンとバター、チーズの流れに沿った 新しい物は無いかと聞かれたので、作りに来たんだ 良いかな?」
「あ~ぁ 喜んでお手伝いをさせて頂きます。」
「ありがとう では材料として卵とお酢に油、出来たら少し高級な植物油が良いな それに塩も欲しい」
そう! カールはマヨネーズを作る事にしたのだった。
料理長が材料を揃えている間に、レシピを頭に中に思い描いた。
確か、卵は卵黄と卵白を分け 卵黄にお酢と塩を加えてよく混ぜる、そして其処に少しずつ植物油を混ぜて行くんだったはず
手順の確認が終わった頃、料理長は依頼された材料を抱えて戻ってきた。
「カール様 ご依頼の卵とお酢に高級な植物油と塩をお持ち致しました。」
「ありがとう 料理長 今回はサンプルだしそんなに沢山は作らないから 卵を4つ卵黄と卵白に分けてボウルに入れて」
クックはカールから云われる通り、卵を卵黄と卵白を分けてボウルに入れ、素早く卵黄にお酢と塩を加えてよく混ぜて行った、カールはクックが混ぜている卵黄に少しずつ植物油を注いでいった。 そしてクックの腕が限界に近づいた頃 マヨネーズは完成した。
カールは出来上がったマヨネーズを少し舐めて、満面の笑みを浮かべた。
完成したマヨネーズを持ってカールはクックと共にマルガレータの執務室へ向かった。
「マルガレータ母様 先ほど話していた物が出来ました。」
マルガレータとしては、そんなに早く出来るとは到底思いもしていなかったがカールが持って居るボウルへ目が釘付けになって居た。
「カール それは何だ?」
「これは、先程 マルガレータ母様からご要望の有ったパンとバター、チーズの流れに沿った新しい食べ物です。 名前はマヨネーズと名付けました。」
「マヨネーズ? 何だ? まぁ 名は良いが どんな物だ???」
カールはマルガレータとクックに少し試食をしてもらう事にした。
その試食として一番簡単な方法としてサラダをクックに作って貰いながらこの調味料の活用方法を説明した。
話の内容にマルガレータが驚いたのは当然だが、クックの驚きは想像以上だった
「この前のパンにバター、チーズと云い、カール様は料理の天才です! 私はこの様な新しき食の誕生に立ち会えた事を一生の誇りと致します。」
クックはまさに涙を流さんばかりの感動だった。
このマヨネーズはサラダに付けても良いし、パン、魚、肉に付けて焼いても万能調味料である。
強いて言えば、作るのが大変だと云う事だった。
カールは混ぜるのに風魔法を使用する事で労力の逓減が出来ると話したのだが。。。
マルガレータは早速、弟のジョンビーノに連絡をする事にした。
何だか、カールの引出しはまだまだ有りそうだ
「カール、ついでだ 来週、来る お嬢さんたちを饗す品も考えてくれ!」カールの引き出しがまだまだ、有りそうだと感じたマルガレータの無茶ぶりが炸裂した。
「もてなす とはお茶会に出す物と考えて良いですか?」
「そうだ クックも居る事だし 少し変わった物が良い 勿論、美味しいのは当たり前だ 頼むぞ!」
マルガレータは気楽にカールへ依頼をした。 まさかあんな物が出来るとはこの時のマルガレータは想像だにして居なかった。
マルガレータの元を去ったカールとクックはキッチンへと来ていた。
「カール様 どうしましょう?」
美味しい物か。。。。 もてなすのは若い女性だし。
カールは若い女性と云う言葉から、昔 孫の結花からケーキを一緒に作ろうと誘われた事が有った。
結花は祖父の公麿と一緒なら父の正幸から怒られないだろうと云う計算からだったのだが、公麿としては結構楽しんで作った記憶があった。
「あ そうだ! ケーキにしよう」目の前には、先程マヨネーズを作った時の卵白が残って居た これを泡立てたメレンゲからホイップクリームを想像していた。
この世界のケーキとはパウンドケーキやシフォンケーキの事である。
これらのケーキはふんわりと云うよりずっしりと云う感じであった
そのためにきめ細やかな膨らみなど期待できず、どちらかと云うとパンの延長線上にあった。
カールが作ろうとしているケーキはスポンジケーキである。 ふんわりした食感に何層にも重ねる事で味のアクセントを付ける事が出来た。
「クック すまないが、また材料を頼む! 卵、小麦粉、砂糖、バターにミルクを頼む」
カールはクックが材料を手配している間に、魔法でケーキの焼型を作った。
「カール様 準備が出来ました。」
「ありがとう! クック、それでは始めようか まずは先程と同じで卵を卵黄と卵白に分けて、今度は卵白を泡立ててくれ。」カールはクックが泡立て始めた卵白が少し泡立ち始めた頃から砂糖を加えだした。 卵白に少し角が立ち始めた頃に卵黄を加え、折角出来た角を潰さないように注意をしならが混ぜ合わせるように指示をする、次に小麦粉を少しずつ加えていく 本当は薄力粉を使ったようだったのだが、薄力粉が無いので小麦粉で代用だ! ざっくりと混ざった処で、温めたバターを加え風味を付ける。 後は適温に成った処で魔法で作っておいたケーキ型へ入れて竈で焼くだけだ。
竈は既に用意が出来ていた。 その中に入れてじっくりと焼くと出来上がるはず?
焼いている内に生クリーム作りだ!
「クック 次は出来上がった、ケーキにトッピングをする為の生クリームを作るぞ!」
クックは次から次へと作業が進み、頭が混乱しそうだったが 何とか今までの手順を覚えて行った。
この世界のミルクはとっても乳脂肪分が高いので生クリームを作るのに適していた。
「クック ボウルにミルクを入れてくれ、この前バターを作った要領を覚えて居る? あれと同じでボウルに入ったミルクを掻きまわしながら砂糖を加え 硬く成りだしたら終了だ!」
「カール様 卵を使った料理もですが、料理とは体力勝負だと改めて知りました。」
こうしてケーキの生地を焼き、生クリームが出来た所で綺麗にデコレーションをする。
此処はやっぱり本職のクックの腕は確かだった。
「クック このままでも美味しいが、この白い生クリームにイチゴなどの果物を混ぜてトッピングすると綺麗で美味しいと思う。」
もう直ぐ、夕食の時間が近づいていたが、カールはクックを伴い本日2度目に成る、マルガレータの執務室へ向かった。
「マルガレータ母様 来週のお茶会に出す物を試作いたしました。 夕食の時間が近づいて居ますが 取敢えずお持ちしました。」
カールの口上と共にクックが手にしている物を見たマルガレータは言葉を失った。
「カール その白い物がそうなの?」
「はぃ そうです ケーキと云います」
カールは自分のメイドのシンディーを呼び、ホールケーキを切り分けると小さなナイフにお皿とフォーク、紅茶を準備させた。
「マルガレータ母様 どうぞ お召し上がりください。」
マルガレータは先程のマヨネーズの件がある、驚かないように心の準備を整えてからケーキを一口食べた!
その瞬間、全ての音と時間が止まった!
「マルガレータ母様 どうでしょう?」
カールの声でやっと再起動したマルガレータは目を大きく見開き
「カール 何? 此れはいったい何なのです? 今まで食べた事が無いわ とっても柔らかくて美味しい!」
マルガレータの一言でカールはやっと肩の荷が下りた気がした。
そうして、シンディーやクックも新たに誕生したケーキを試食しだしたのだが、やっぱり女性のシンディーはケーキの美味しさに一瞬で虜になって居た。
再度、カールはマルガレータに是非を尋ねた。
「マルガレータ母様 今回、試作しましたケーキは如何だったのでしょうか?」
マルガレータとしては予想を遥かに超える出来だった事は云うまでも無かった。
こうして、来週のお茶会のメインが決まったのだった。
カールやシンディーにクックが執務室から退出した後 マルガレータは一人、ニヤニヤとしていた。
今から来週中に来るであろう、将来 カールの妃候補者に成る者たちの驚いた顔が目に浮かぶ。
例え、相手が王女であったとしても例外ではないだろう。 これで彼女たちより優位に立つ事は確実に決まった。




