第40話 聖女リザベート(結婚の承諾)
◇◇結婚の承諾
ビクトールはこれまでの事とこれからの事について考え事をしていた。 その為にカールから声を掛けられるまで、彼らの接近に気が付かないでいた。
「トール様 ごきげんよう」笑顔でリザが挨拶をする。 昨日の今日である。 パーティーでは落ち着いて話をする事も出来ずに居たのだ。
周りには色々な人々がいる。 話せる訳がなかった。
「あ リザ殿 おはようございます」トールも慌てて立ち上がりながら挨拶を返していた。
「アリシアちゃん おはようなの」マリアも元気に挨拶をしていた。
「マリアちゃん おはようございます」マリアの挨拶にアリシアも挨拶を返していた。
この日はお互いの事を少しづつ話し出した。 お互いに秘密を抱える間柄なので話せる内容は限られていたが お互いに相手に知られても良い所を話していた。
「私は目覚めの儀式の後から仕事の準備として見習いに成りました」リザの話にトールも真剣に聞いていた。
トールとしたら目覚めの儀式で商人としての資質に目覚めたと勘違いをしたようだし、リザもそれを否定しなかった。
「僕は成人後にあの街で家業の手伝いをしながら見識を磨いていて、リザ殿と出逢った後にこの国に来たんだ」トールもぎこちないながらも話していた。
既にリザベートは『トール』の正体がビクトールである事を知っているので、深くは追及をしなかった。
リザもトールもお互いの秘密を隠しての話なだけに、少しぎこちない物になるが仕方がなかった。
此処でカールはトールに一通の招待状を渡す。 昨日、急遽 決まったカールの招待だった為、招待状も無かったのだ。 それをカールは作ってきたのだ。
一通はトールに渡し、もう一通をリザに渡す。
トールは律儀に招待状を作ってきたカールに好感を抱いた。 子供が作った招待状だが、招待状は招待状である。
しかし招待状を封緘してある封緘を見て見る見るうちに表情が強張って行った。
アーレンハイト家が使う封緘はハイランド王国が使う封緘と似ている。 元々は同じ家系の出である為である そして王家以外で家紋と封緘に竜と虎を使う事が許されているのはアーレンハイト家しかなかった。
トールは国元から大使として赴任する前にハイランド王国と、それに紐づく大貴族の家紋や封緘などは勉強をしていた。
そして、国元から特に云われた事はアーレンハイト家と誼を結ぶ事だった。
今まで色々な国が直接、アーレンハイト家に接触をしてきていたが全てマルガレータに依って排除されてきた。
そのアーレンハイト家からの招待である。 トールは思わず、カールの顔を見てしまった。
「カール君 君はアーレンハイト家の人間だったのか?」トールは溜息にも似た息を吐きだした。
トールとしたら、このハイランド王国の大使として赴任してひと月が経つが、最近に成ってやっと小さなサロンに出入りができるようになっていた。 通常はどこかのサロンに出入りを行い、そこから上位のサロンを紹介して貰う。 そういう遣り取りを幾つか繰り返して目的の相手が所属するサロンに近づいて行くのが貴族の社会では普通だった。
この為に目的の相手を紹介して貰うまでに多額の金銭と時間を要した。 それが突如、目的の相手の家に招かれる事になった。 この時、トールはカールがアーレンハイト家を継ぐ嫡男だとは気が付いて居なかった。
だが、カールがアーレンハイト家の人間だと云う事は大きなアドバンテージに成った そして妹が仲良くなったマリアもアーレンハイト家の人間である。 最悪の場合、妹のアリシアを通じてアーレンハイト家の家長に挨拶をする事も出来る。
今までリザの事で浮かれていたトールは一気に仕事の顔に成っていた。 これも既にカールは世界樹からの情報で知っていた。
この日はトールにとって忘れえぬ一日と成ったようである。 しかし、トールはカールから手渡された招待状に浮かれ、リザに告白するタイミングを逸していた。
この楽しい時間もいつか終わりの時を告げる。 リザには教会に用事があったのだ。 トールとは再会を約束して分かれ、教会に向かった。
教会にはこの大陸で四人しかいない大司教の『エリザベート・イースト』と約束がなされて居たのだ。
彼女はアーレンハイト家を実質的に差配している母達と懇意であった。 実際にカールが目覚めの儀式で倒れた時に教会側の対応は大司教であるエリザベートが行っていた。
カールは此処でリザと別れる事にした。 やはり母達の知り合いと逢うのは気が引けたのだ。 一方、トールはこの日からアーレンハイト家の情報を必死に集めた。 招待されて尋ねる先の情報を知らないでは失礼になるからだ。
アーレンハイト家の情報は、招かれて訪れる前日に辛うじて集まってきた。 この結果、トールは冷や汗を流す事に成った。
トールが逢いたがっていた当主には逢えないが、それより影響力のある人間が分かったのだ。 それがカールであった。 見た目は幼く、妹のアリシアより少し年上だが それでも少年と呼ぶのに相応しかった。 しかし、アーレンハイト家で数々のヒット商品を生み出したのがその少年だと云う事だった。
この情報は一般には知られて居ない。 彼があらゆる伝手を使い調べた結果だった。 そしてカールに嫁ぐ将来の婚約者の顔ぶれも凄かった。
彼はデビュタントも迎えていないにも関わらず、既に三名の交際相手がいた。 その中の一人は王女だと云う事だった。
トールは明日のアーレンハイト家に持って行く、手土産の見直しを大使館員に指示をした。 下手な物を持って行っては恥を掻く事に成る。
結局、大使館員たちはあらゆる所に手を回したのだが、今日の明日である トールが望むような品を見つける事は出来なかった。 仕方がなく、トールや妹のアリシアが好きな 自国の紅茶を持って行く事にした。
実は魔王国ゼシアの紅茶は俗に『青紅茶』と呼ばれるほど特徴的であり、この世界でも香りと味が際立っており、後に魔王国ゼシアの青紅茶は外貨を獲得する立役者になる。
これはカールが気に入った事でアーレンハイト家が大々的に魔王国ゼシアから輸入した事で全世界に広まったためだった。 トールは柄にもなく緊張した面持ちで妹のアリシアと共にアーレンハイト家を訪ねた。
出迎えは家令のハンスと共にハワードが務めた。 彼らには既にトールとアリシアの正体は伝えられていた。
ハンスとハワードにとってお忍びで有っても他国の王子と王女を迎える事は緊張を孕んでいた。 彼らは二人を幾つかグレードが有る応接室の中で最上の部屋に招き入れた。
そこにカールが母のマルガレータとマリアを伴って入ってきた。
「トール殿 ご紹介を致します 母のマルガレータ・フォン・アーレンハイトでございます 母は当主である父に代わり、この王都の屋敷全てを任されております」カールは何でもないように母を紹介した。
そして、トールの驚きなど気にもせずにカールは母にトールを紹介した。
「母上 ご紹介いたします 此方は魔王国ゼシアの第七王子でビクトール・フォン・ゼシア殿下と妹君で第十王女のアリシア・フォン・ゼシア殿下です」ビクトールは正式な名乗りも上げていないにも関わらず、カールが正式な情報を持っている事に慄いた。
「ビクトール殿下にアリシア殿下 カールの義母でマルガレータ・フォン・アーレンハイトでございます 宜しくお願いを致します」マルガレータは澄まし顔で挨拶を行った。
「マルガレータ殿 ビクトールです 宜しくお願い致します」完全にカールの先制攻撃に出鼻を挫かれた状態だった。
そこにリザベート達の到着が告げられる。 そのまま、部屋に通される。 リザベートはいつものように優雅に挨拶を行う。
そして既に既知の間柄である事から紹介の口上は無かった。 招待客が全て集まった。 トールはカールの先制パンチから立ち直って居なかった。
招待客の前にはカラフルなケーキとトールからの手土産である紅茶が出されていた。 話はサロンで有ればどこででも話される内容から始まった。 最近の王都での話題などである。
カールは頻りにトールに話題を振り話す切っ掛けを与えた。 一時間もするとマリアやアリシアは飽きてきた。 カールは二人を退出させ別の部屋で遊ばせる事にした。
マリアやアリシアが退出して一時間が過ぎた頃 漸くトールもいつもの調子に戻ってきた。
彼は先日、話せなかったリザへ交際を申し込むと言う大仕事が有ったのだ。 そして、カールには既に知られてしまったがリザに自分が皇族であると伝えなければ成らなかった。
その上で交際の承諾を貰うという『トール』には一世一代の大仕事が待ち構えていた。 時は無情にも過ぎていく、カールは此処でトールの手助けをする事にした。 まぁ お節介と云うか背中を押したのだ
「トール殿 リザ様にお話が有ったのでは?」トールはカールのその声で緊張はピークに達した。
暫しの沈黙の後、「リザ殿 もし宜しかったら 私とお付き合いをして頂きたいのだが、どうだろう」トールは有らん限りの勇気を振り絞り告白をした。
此処でいうお付き合いとは 当然、結婚を前提としたものである。
「トール殿 私で宜しいのですか?」リザは確認をするように静かに話した。
「はい 私はリザ殿がどのような者であろうと添い遂げたいと思います」此処までくれば後は一気に行くしかない。 リザが口を開く前にトールは続けて話し出す。
「リザ殿から答えを聞く前に謝らなくては成らない事が有る。 私の身分の事だ 私は魔王国ゼシアの第七王子でビクトール・フォン・ゼシアという 決してリザ殿を騙して居た訳では無い事だけは信じて欲しい」ビクトールはリザに告白をすると同時に指に嵌めていた指輪を外し本来の姿を現した。
「ビクトール様 正直にお話し頂き、ありがとうございます 貴方様の誠実な心に触れ感激しております。 私がお返事をする前に、私もビクトール様に謝らなければ成らない事がございます。 それはビクトール様と同様に身分についてでございます。 私は聖女リザベート・ルミナリアでございます」リザベートもビクトールに告白をすると同時に変り身のアーティファクトを外した。
この日、ビクトールは二度目の驚きを味わう事に成った。 まさか 自分が聖女に恋の告白をしたとは思わなかったのだ。
「ビクトール様 黙っておりまして申し訳ございません。 こんな私でも先ほどのお話をして下さいますか?」リザベートも一世一代の賭けに出たのだ。
此処でビクトールが怖気づいてしまえば、この話は此処でたち切れに成ってしまう。 静寂に包まれた空間に時だけが過ぎて行った。
「リザ殿が聖女リザベート様だと言うのには驚かされましたが、私の気持ちは変わりません。 それに騙した訳では無いが黙って居たのは、私も同じです」やがてビクトールが話し出した。
そのビクトールの言葉を聞いて、リザベートの目から涙が零れた。
「ありがとうございます ビクトール様のお話をお受けいたします」
毎回 すみません
最近、気が付いたのですが PVの割に評価やブックマークが伸び悩んでいるのです。
(ほとんど伸びていないのです)
そこで、お願いなのですが、面白いとか続きを読みたいと思われたらで構いませんので、評価やブックマークの登録をお願いします。
やっぱりPVや評価が上がるとやはり書いて行く上でモチベーションが上がります。
これからも皆様に読んで頂けるように頑張りますので、よろしくお願いいたします。
あ やっと 聖女へのプロポーズに辿り着けました これで心置きなく本編に戻れます。




