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第31話 聖ワーグナー帝国(騎士 パブロ)

◇◇騎士 パブロ

パブロは頭目だけを見定め、攻撃を仕掛けた。


頭目以外は成るべく剣戟を避け体力の消耗を抑えての攻撃だった。 その為、パブロの身体は至る所が傷付いていた。 全身と云っても良かった。 しかしパブロはそんな傷など気にせずに頭目だけを責め続け、ついに頭目を仕留める事に成功する。 もし、パブロが仕留めたのが頭目以外だと面倒になるのだが


幸いな事にパブロの目は確かだった。 盗賊たちもまさか頭目がやられるとは思っても居なかったのだ。


此処からはパブロの独壇場である。 盗賊を殺す事に拘らずに傷を付けさえすれば良い。


時間と共に盗賊たちの戦意は落ちてくる。 パブロは盗賊たちが取った、夜中の暗闇と云う利点を最大限に利用したのだ。


昼間であれば周りを囲まれ、徐々に体力を削られるのはパブロの筈であった。


しかし夜中の見通しが悪い事を利用してゲリラ戦を行った。  こうでもしなければ一人で三十人以上の盗賊の相手など無理である。


パブロが行ったゲリラ戦は一撃離脱である。 既に頭目を失い統制など無いに等しい盗賊の戦意を削る戦い方であった。


盗賊も何処から現れるか疑心暗鬼になっている。  パブロにすれば出会った相手は全て敵である。


傷が付いても付かなくても構わないのだ、襲われるという恐怖を突き付けるだけで良かった。 そして暗闇がその恐怖を増幅する。 一人でも恐怖に負ければ、後は雪崩の如く崩壊する。


遂にその瞬間が訪れた。 剣を自分の前で振り回して居た盗賊が木の根に足を取られたのだ、恐怖に負けた瞬間だった。 一人が声を上げて逃げ出した。 それが呼び水となり、盗賊たちは我先にと逃げ出していた。


パブロが次に行動を起こしたのは、照明の確保だった。  焚火を複数個所に増やし、盗賊たちが潜んでいない事を確認した。 漸く、パブロは雇い主の所に戻り盗賊を撃退した事を告げた。


彼らは木の上からパブロの戦いを見ていたのだ。 焚火の火が無い所は漆黒の闇と化す。  その中でパブロが振るう剣の音が鳴り響いていた。


彼らにしても一人で大勢の盗賊を撃退するとは思わなかったのだろう。 パブロが声を掛けた時には、歓喜の声を上げていた。


パブロは初めに爺さんを下した。 一人で全員を下すには時間が掛かると判断したためだった。


その後、優先順位に従い順番に下すと 次は商人たちの安否である。 これも最悪の場合を考えて一人で確認をする事にした。


意外な事に抵抗したとみられる数人を除き、商人たちは手足を縛られた状態で転がされていた。 パブロが近づくと商人たちは声に出ないほど怯え、震えだした。  パブロはそんな事など気にせず、全員の縄を切り戒めを解いた。


夜明けになり確認したら、全身血だらけのパブロに恐怖した事が判明した。 雇い主の姉弟の所に戻り、爺さんに商人たちの安否を伝えるとホッとしていたようだ。


姉のお嬢様からはこの時、騎士様と呼ばれた。  少女にとり命を懸けて絶体絶命の危機を救う者は騎士なのだと幼き頃より絵本で見ていた。 それが口を伝い言葉として出ていた。


彼女の幼い弟もパブロを騎士と呼ぶようになっていた。  爺さんはそんな姉弟を慈しむような眼で見ていた。


完全に夜が明け、朝日が昇ると色々な事が判明した。 まず、商人たちが運んでいた商品は持ち去られていた。


これは昨夜、盗賊たちが集合した時に盗賊の一部が商品を持ち去っていたのだ。 更に商品と一緒に馬車や馬も持ち去られていた。


しかし命が助かった事を喜ばなくてはならない。 そしてここは盗賊の縄張りである。 この場所から速やかに移動する事こそ肝要だった。


一部の商人はメイドたちが乗る馬車に乗り、後は徒歩で急ぎこの場を去った。 その日は朝食も昼食もなく只管、移動に費やす事に成った。


漸く、陽が西に傾く頃に野営の準備を始めた。  パブロは移動の間に仮眠を取っていた。 今夜の見張りをするためだ。


森に近い場所が、今夜の野営地だった。  パブロは商人たちに水汲みを依頼した。 当然、パブロは今夜の夕食の為の狩りである。


優秀な傭兵は狩りも一流であった。 暫くして鹿を仕留めて戻ってきた。


これが今夜と明日の食事になる。 パブロは素早く捌いていく 焼くのはメイドに任せて、パブロは全身の汚れを落とすために水源に行った。


そこには既に先客がいた。 依頼主の姫様だ 彼女も水浴びをしていたのだ。 このまま戻る事も出来ず、暫く佇んでから声を掛ける事にした。


「おい  誰か居るのか!」少しぶっきら棒に声を掛けた。 驚いたのは姫様だった。


「はい 居ります」少しオドオドしながら素早く、身体を拭いて着替えていた。


「あ 姫様か 水浴びの所、すまんな 俺もこんな成りだから、汚れを落としたくってな」パブロもすまなそうに姫様に言い訳のように話しかけた。


昨夜から続いた衝撃的な出来事に頭がマヒして居たのだが、確かにパブロは物凄い様相を呈していた。 自分の血と相手の血が全身にこびり付いている。 臭いも相当な物だと云えた。


パブロは陽の残る夕焼けを背にしながら全身に着いた汚れを落としていった。  そして、着ていた洋服も素早く洗うと替えの服を着こみ、野営地に戻って行った。


野営地では既に夕食の準備が整っていた。 メインはパブロが仕留めた鹿である。 それに鹿の内臓と食用になる葉を一緒に居れたスープに保存食としての固いパンであった。


肉は幾つかの部位に分けられ、火の傍に置かれ燻製にしているようだった。 これで保存食として目的地の帝都までは持ちそうだった。


本来の食料は商人たちの馬車に積まれて居たのだ。 パブロたちが乗る馬車には食料と云えるものは姉弟が食べるお菓子ぐらいしか積んでなかった。


パブロは夕食前に結界を敷く事にした。  結界と云っても魔法的なものではない、謂わば、傭兵としての生活の知恵である。


本来なら複数の人で行う、夜中の見守りを一人で行わなければ成らない事から生まれたものだ。 馬車の周りに小枝を突き刺す、その小枝に長いロープを這わすのだ。 そのロープには所々に音が鳴るものが付いて居る。


こうする事で、夜陰に紛れて近づいた者が馬車の周りに張り巡らされたロープに触れれば音が出て接近を知らせると云うものだった。


此の夜は何事もなく過ぎていく。 あと二日で帝都である。 全員が馬車に乗っていれば明日には着けるが、商人の従者は殆どが歩きだった。


こうして盗賊を警戒しながら王都に辿り着いた。 商人達は命の危機を救って貰った事を深く感謝をし改めてお礼をすると云って別れて行った。


雇い主の姉弟は帝都に有る男爵邸に向かった。 王都にある男爵邸は割と大きな造りをしていた。


男爵家は帝国でも有数のワインの産地で裕福だった。  ただ、田舎で有り犯罪と云う物が殆ど起きず町を守る少しの衛兵しかいなかったのだ。 パブロはこの男爵邸で驚くほどの持て成しを受けた。 そして姫様の推薦を受け騎士になるようにと求められたのだ。


意外だったのは爺さんの発言力だ 爺さんは領主である男爵の教育係だったのだ 幼き頃から厳しい教育を爺さんから受け、立派な領主に成ったのだが、未だに爺さんには頭が上がらなかった。


その爺さんが絶賛してパブロを褒めたのである。 娘と昔の教育係である爺さんからの推しは強力なものだった。


パブロは今回の傭兵としての成功報酬に満足していたのだが、領主から騎士として召し抱えたいと云われビックリしていた。


この話しに、一番驚いたのはパブロだった。 彼は幼き頃に描いた騎士になると言う夢が叶う事に成ったのだ。


そしてパブロの師の口癖が、良き主を見つけその者に仕え騎士となる。 これぞ男のロマンであると、パブロはこの言葉を聞きながら傭兵生活をおくったと云っても良かった。


それが今 実現しようとしていた。 仕えるべき主も善良そうである 何も問題は無かった。


こうしてパブロは男爵家の騎士として仕官する事が決まったとリザベートに話した。 横では聖女宮騎士団を預かるギルベルトが黙って聞いていた。


「パブロ殿 仕官への祝いとして教導してやろう」珍しくギルベルトが口を開いた。


パブロとしたら願ってもない事だった。 全ての騎士の憧れである聖女宮騎士団の団長である。


パブロの剣は命を的に磨いた、生きるための野良犬の剣である そして何千年も受け継がれた聖女宮騎士団の剣は聖女を守るためだけに磨き続けれれた伝統ある剣であった。


この伝統ある剣とはあらゆるケースに対応するように磨き続けた剣と云えた。 ギルベルトはパブロの中に聖女宮騎士団の精神を見たのだった。 どんなに無様だろうが主人を守る為に大勢の敵に立ち向かう。 そして蛮勇的な戦いではなく、あくまでも主人を守ることを主眼とした冷静な戦い方に共感を得ていた。


こうして皇居内の中庭でパブロはギルベルトから手解きを受ける事に成った。 パブロは全力で剣を振るった。 相手が遥か高みに居るからこそ、全力で振るえる事で有った。


勝てるとか、どうにか成るなど、一切考えても居なかった。 パブロは只管、一心に剣を振るった。


パブロが剣を振るう度にギルベルトが声を掛ける。  まさに教え導くための教導であった。


パブロの剣は荒々しい物の決して雑な剣筋ではなかった。 命を懸けた剣筋が雑な訳がなかった、雑なら今ごろパブロは墓の下で有る。  これまで正しき剣技を教わって居なかっただけであった。


パブロはギルベルトからの指摘を素直に聞いた。 時にはギルベルトに質問をしながら剣技を習っていく。 ギルベルトも教導していて楽しい時間だった。


楽しい時間は瞬く間に過ぎていく、パブロはこの時間が永遠に続けばと願うも陽は西に傾いてきた。


間も無く終了の時間を迎える。 「リザベート様、ギルベルト様 本日は貴重なお時間を頂き ありがとうございました 私は今日の体験を胸に刻み努力をしてまいります」パブロは心からの感謝の意を二人に掛けた。


「パブロ殿 明日は朝から参られよ」ギルベルトはリザベートに目で確認を取った後にパブロに答えた。


パブロにしたら今日、一日だけの稽古だと思ったのだ。 それがギルベルトから明日も稽古を付けて貰えると聴かされ心はこれ以上ないほど高揚していた。


「はい ギルベルト様 ありがとうございます」パブロはこの一言だけ告げて帰って行った。


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