第92話 平穏な日々 ペットたちの日常(シーラ公爵の陰謀)
◇◇シーラ公爵の陰謀
カールは母アグネスからの依頼を終えると、新領都ミケーネに向かった。
新領都ミケーネには世界樹が有る。 自由気ままなカールの召喚獣の中で新領都ミケーネで一人? 魔力の根を張り巡らせている 実を云うとそろそろ、全世界に根を張り巡らす作業も終盤に差し掛かっているらしい。
世界樹も悠久の時を生きる。 その中で誕生から見守る事が出来たのは感無量だと云えた。
その世界樹なのだが、全世界に魔力の根を張り巡らせた後は自我の成長を行う事に成るようだ。
その自我の成長を行う時に世界樹に名前を付ける事にしていた。 今は世界樹は本当の意味では赤ちゃんにもなっていないのだ、その為に世界樹のお守りの意味でメーティスが付いて居る。
彼女は世界樹の枝に止まり世界樹に集る虫や鳥などを追い払っていた。
その世界樹に集る虫や鳥などを追い払う事も世界樹に名前を付けた後は必要がなくなる
世界樹に名前を付ける事で本当の意味で自我が生まれ森の賢者として育ち始める。 そうなると世界樹を害するモノたちは近寄れなくなるのだ。 これは自我が生まれた世界樹の防衛本当ともいえた。
世界樹も全世界に魔力の根を張り巡らせれば、他の事に魔力を振り分ける余裕が生まれるのだが、今はそんな余裕が無かったのだ。
世界樹からの知らせだと、カール達が居るイーストウッド大陸とは丁度、反対側のウエスティン大陸に別の世界樹の木が存在するらしい。
所が、その世界樹の木は魔力の根を世界中に張り巡らせていないようだった。 これは最終段階に成りウエスティン大陸に魔力の根を張り巡らせた時に同族の存在に気が付いたようだった。
カールもエルフ族の聖地に世界樹が存在するとミューアから聞いた事が有った。 ただミューアにしても実際には何処に存在するのかは知らないようだった。
カールとしてはいつか、挨拶に行きたいと思って居た所だった。
世界樹は全世界に魔力の根を張り巡らせた後は自我の形成に魔力を使いだす。 ある程度の自我が成長したところで、自分の分身を作り出す事が出来る。
世界樹としてもいつ頃に成るのかは分かっていなかった。
初めにカールから愛情と云う魔力を沢山、注がれ発芽をした。 その後もカールから女神様と同等とまでは行かないまでも他とは明らかに違う魔力を貰っていた。
その魔力が有ればこそ、全世界に魔力の根を張り廻らかせる事が出来たのだ。 もしカールから魔力を貰っていなければ自国だけ位しか魔力の根は張れなかった。
世界樹は地上に生い茂った葉から魔力を吸収する。 その魔力で魔力の根を伸ばすのだ。
もう少しらしいのでカールも楽しみにしていた。 メーティスのお守りももう直ぐ終了する。
彼女も空を支配する一族の中でも飛びぬけた魔力を持っていたのだ、その彼女はある禁忌に触れて空を飛ぶ能力を奪われた。
地上に激突しその生を終了する直前にカールに救われたのだ。 メーティスはカールから魔力を与えられ、神鳥として蘇りこの世界にきていた。
このため、神鳥メーティスは色々と苦労人でもあった。 神鳥メーティスとすれば弟や妹を世話するようなものなのだろう。
神鳥メーティスは毎日、世界樹と話をする。 世界樹は世界中から情報を受け取る事が出来るのだが、それだけで有る
情報には意味が有るのだ、その意味が分からなければ何の役にも立たない。
その為に神鳥メーティスは世界樹とお話をするのだった。
神鳥メーティスが初めに世界樹に教えたことは『アーレンハイト』と云う言葉だった。
世界中の情報の中でこの『アーレンハイト』と云う単語が出てきたら教える事とした。
次が『ハイランド王国』と云う言葉で有り、『ルーン』や『キール』に『ミケーネ』、『アーレン』などアーレンハイト家の街の名前だった
上は何処かの王宮や王城に帝都、下は酒場やギルドなど世界中で囁かれる言葉の中からピックアップさせた
次がアグネスが居る領都ルーンから海辺の街アーレンまでの間で『襲う』と云う言葉を探させていた。
神鳥メーティスは世界樹を使った情報収集のエキスパートだった。 これら情報の集め方を教えつつ世界樹の教育を行っているのだ。
理想はアーレンハイト家に対して不利益になる情報をアラートとして発信する事だった。 この為に少しづつ、検索ワードを追加しながら教育を行っていた。
そしてたまに発生する盗賊などの情報を元にハイドやヨウコが出動するのだ。 基本は余程、大規模な盗賊でなければハイドやヨウコが全て片付けている。
そして最悪なケースの場合、アグネスやマティルダに話が通され、領軍が出動と云うケースになる。
クーガが終わり、世界中で『アーレンハイト』や『ハイランド王国』と云うワードが増えている。 これはクーガでカトリーヌやカールにマリアなどアーレンハイト家の人間が活躍したためだった。
その中で気になるワードを世界樹が拾い出した。 場所は海辺の街アーレンの隣、隣国である。
その隣国で『アーレンハイト』や『ハイランド王国』と云うワードと共に『侵略』、『襲う』と云うワードがヒットしだした。
神鳥メーティスは即座にカールへ報告をした。 そのカールにしたらクーガが終了し帰宅直前に発生した騒動は記憶に新しい。 即座に三人の母達に相談をした。
海辺の街アーレンを治めるシュワルツは現在、二回目の慣熟航海に出かけている。 その為、カールを総司令官として五人の指揮官たちが兵を率いて海辺の街アーレンへ集まる事に成った。
流石に全ての兵を集結する事は出来ない。 兵を半分に分けて半分をそのまま、副官に任せて通常任務を任せた。
こうしてシュワルツ不在のアーレンに二千五百の兵が集結する事に成った。
元々、アーレンにはシュワルツが不在の間は元副官だったジーンが居る、それにシュワルツが不在でも全ての兵を連れて行った訳ではない どちらかと云えば、殆どの兵がアーレンに残っていた。
カールは世界樹の情報を基にして五人の指揮官たちに作戦を立てるように命じた。 これは彼らに対する実地訓練だった。 訓練の下地は既に前回の魔物の暴走で出来ている。
今回は対象が魔物ではなく人間だと云う事だった。 カールは指揮官に作戦を考えるうえで、色々なアドバイスを行った。
カールは他国と接する場所には堅牢なる関所を作っていた。 その関所に全ての兵士を集めた。
これから作戦を立てるのにも、訓練をするにも立地条件を知っている事の意味は大きい。
その頃、シーラ王国のシーラ公爵領では当主のジャミン・フォン・シーラ公爵を始めとして首脳陣が会議をしていた。
クーガが開催されたアポロニア島から戻ったコキュールは父であり当主のジャミン・フォン・シーラ公爵に事の次第を報告していた。
「・・・・ 以上の話により私が直接、カトリーヌを妻に迎えてやると云ったのですが平民の前で拒否され公爵家のメンツを潰されました」シーラ公爵は苦虫を潰したような顔でコキュールの話を聞いていた。
シーラ公爵としては三男のコキュールがカトリーヌを上手く言いくるめてくるものと思って居たのだ。
また、最悪でもアーレンハイト家の当主へ話をする事で解決すると思っていた。 既に直接、アーレンハイト家には縁談の申し込みはしている。 その結果が正式な拒否であった。
シーラ王国内では既に三男のコキュールに後を継がせられる領地が無かったのだ。 そこに隣のハイランド王国の中でも度重なる魔物の暴走で領地が消滅寸前と噂のあったアーレンハイト家がどうにか危機を乗り越えて安全な海辺の街を作ったとの情報を得たのだ。
シーラ公爵としてはあらゆる手段で情報を集めたのだが、確かな情報は集まらない。
しかし貧乏伯爵家が海辺に街を作ったとすれば、財政はギリギリだろうと想像をしていた。どこの国でも領地を開墾して街を作るのには莫大な資金が必要となる。
ましてアーレンハイト家は他国にまで度重なる魔物の暴走で領地が消滅寸前と知られている程だ。
まだ、確証は無いまでも街を守る兵士もそれほど多くは居ないと考えられていた。 兵士とは生産を生まない職種である。 どうしても多く抱えると財政の逼迫を招くのだ。
二つの属国を抱えるシーラ王国でもそれは変わらない。 シーラ公爵家は先の国王の弟であった。
その為にそれなりの領地を持ち、兵も抱えていた。
その背景からシーラ公爵は多少強引でも三男のコキュールがカトリーヌを妻に迎え、そのままアーレンハイト家の領地の一部を、正確に言えばシーラ王国と領地を接する海辺の街を自分の物にしようとしたのだ。
貴族家の当主としては普通の考え方なのだが、カトリーヌは無神経なコキュールの話を正面から拒絶したのだ。
それも平民たちが見ている前で拒絶された。 これは公爵家のメンツが著しく傷つけられた事に成る。
本来ならこれはコキュール自体の失態なのだが、シーラ公爵は小娘のカトリーヌに恥を掻かされたと感じていたのだ。
シーラ公爵は少し前からハイランド王国とアーレンハイト家を探っていた。
ハイランド王国のハンス・フォン・ハイランドは温和な性格で他国に対する侵略の意思はない。
また、アーレンハイト家も当主は王都と領地を定期的に見回っているようだが、実権は妻たちが持っていると報告されていた。
此処で、その妻たちの事を詳しく調べれば分かる事なのだが調べなかったようだ。
要するに妻たちに実権が有るのなら、多少は強引な手段をとっても大丈夫だと考えたのだ。 そして、決断を促したのは王都と海辺の街までの距離である。 片道で一月は掛かる。
事が起こり急いで王都に知らせて、軍備を整え海辺の街に来るまでには三ヵ月は掛かる。 その間に少数である事が考えられる、アーレンハイト家の兵を片付けて実効支配を目論んだのだ。
こうしてシーラ公爵は公爵領の全兵士を集めて隣国のアーレンハイト家への侵略を決めたのだ。 シーラ公爵達の陰謀は決定と同時に世界樹によってカールに報告がされていた。
カールも事が重大なだけに三人の母達に報告をする。 更にマルガレータによってその知らせは王宮に即座に知らされる事となった。
そして、ハイランド王国でも慌ただしく会議が開かれる事となった。




