第79話 新学期到来 クーガの季節(新人戦優勝)
◇◇新人戦優勝
新人戦の二日目、午前の魔法男子で惨敗を期したのだが、カトリーヌの励ましで全体の雰囲気は少しは盛り返した。
午後は剣術女子であり、マリアの出番である。
競技が始まる前に場を盛り上げる為に各学園から選ばれたサポートチームが実況中継を行っていく。
これも毎年の事で楽しみの一つになって居るのだ。
午前の惨敗を帳消しにするが如く、マリアの宣伝をする。 これはより大きな話題で負けたと云う話題を塗りつぶす古今で使われている手法だった。
マリアの宣伝には事を書かない。 この会場には、偉大な姉や兄がいる、更に今や伝説となっている母たちの事もあるのだ。 サポートチームの中継にも熱が入る
「ここに登場したマリア選手、このアポロニア島、いや 全大陸でも伝説に成っております。 偉大なる先輩であり、三女帝の一人と云われた『マティルダ・フォン・アーレンハイト』を母に持ち、大陸予選ではその母マティルダを彷彿とさせる試合を披露いたしました。
更に彼女の兄カール選手は先の魔法競技で驚異的な点数を叩き出し、このクーガでも名前を残す選手です
そして彼女の姉は去年と今年に渡りハイランド王国をこの地に導いたカトリーヌです。 そして彼女の兄や姉の母達は共に今や伝説となった三女帝と云われた人たちなのです」
前世の世界ではプライバシーの侵害だと騒ぎそうなアナウンスに会場の人々は熱狂した。
未だに三女帝と云う名は忘れ去られてはいない。 その三女帝の一人を母に持つカールは途方もない魔法で会場を圧倒しているのだ。
もう三女帝を母に持つもう一人に期待を寄せるなと云うのは無理な相談だった。 通常ならこのプレッシャーに負けてしまうのだが、マリアは無頓着だった。
大陸予選と同じでカトリーヌやカールからの励ましに 「うん がんばる」と気負いもない返事を残して試合会場に向かって云った。
カールにしても不思議なのだが、マリアは剣を構える前と後では雰囲気が変わる。
今のマリアは年相応の可愛い存在だ、歩き方もトテトテと云う擬音が似合いそうな歩みだった。
その姿に会場の人々も惑わされる。 今のマリアの実力は学生の域を超えている。 既に近衛騎士団の一員としても十分な実力を持っているのだ。
このために学園内では本気を出すことはしない。 彼女が唯一 本気が出せるのは近衛騎士団から指導が入る時だけだった。 これは近衛騎士団員から近衛騎士団長のジラード・フォン・リッツ侯爵へ報告がされていた。
ジラードにしてもマティルダと云う先例がある。 そしてその先例の娘で有れば十分に納得が出来ていた。
ジラードは何度もマティルダと練習をしている。 本当に自分の娘の様に可愛がっていたのだ。
彼女が結婚を決める直前まで将来は自分の後を継がせたいと考えるほどの才を見せていたのだ。
そんな彼女の娘に剣士としての才が有ると知れて、ジラードも何度か見に来たものだ。 そのジラードですら騙されるのが、マリアの歩みである。
普通で有れば優秀な剣士に成れば、普段から足の運びは違ってくる。 逆に言えば、足の運びを見れば その騎士の優劣が分かるとさえ云えた。
しかしマリアは違う。 初めてジラードがマリアを見た時はその足の運びでガッカリしたのだが、彼女が騎士団員と練習を始めるとその動きは全く別人の者だった。
そのギャップにジラードはマティルダと逢った時以上の衝撃を受けていた。
マリアの足の運びは素人の物である。 相手が優秀で有れば有る程、騙されるのだ。 これは決してマリアがわざとしている訳では無いために騙される。
最近ではジラード本人がマリアの相手をする事もある。 実際に相手をすると更に驚くことが有る。
マリアは無意識なのだが、相手に合わせて剣を振っている。 これは絶えず、自分より劣るものを相手にしていた結果だった。
マリアが全力を出せる相手は限られている。 身近では母のマティルダと兄のカールにヨウコだけであった。
近衛団の団員達も油断をすると負けてしまう。
ジラードはマティルダの時と同じように中等学部に上がったら近衛騎士団本部での練習を本気で検討していた。 実際にはマリアは翌年には近衛騎士団本部で練習をする事に成るのだが、この話はもう少し後で話す事になる。
そんなマリアのクーガ本選の試合で有る。
開始と同時に踏み込んだマリアの一撃は相手の剣を空に打ち上げて勝敗を決めてしまう。 相手の選手も前の選手の二の舞を避けようとするのだが、結果は同じである
全く、危なげなく三勝して優勝を決めてしまった。ハイランド王国のメンバーはこの勝利を当然の事として捉えていた。
新人戦の二日目は一勝一敗の引き分けと云っても良かった。
最終日、新人戦3日目は女子の魔法とと男子の武術となる。
マリアの剣技は相当なインパクトを以って居たようだ。 競技が終わっても観衆は帰りの道々で話しながら帰ったようだ 流石は元三女帝の一人、マティルダの娘だと云う事だった。
本日も試合が始まる前に場を盛り上げる為に各学園から選ばれたサポートチームが実況中継を行っていく。
その話の中に昨日のマリアの試合内容が語られている。 可愛い少女が瞬く間に他校の生徒を撃破したのだ。
この話は何回聞いても盛り上がっていた。 さて、最終日の女子の魔法である。 彼女もまたマリアのクラスメートである。
当然の如く、マリアからカールの事は聞いているし憧れも持っていた。 クーガ対策委員として訪れたカールの周りに集まっていた一人である。
彼女もカールの話を真剣に聞いていた一人だった。 その成果が出たのが大陸予選だった。
彼女達はカールから受けた単純な指導にも疑問を持たなかったのだ。 それは同じ魔法師なら誰でもできる魔力の移動だ これを時間のある限り行う事だった。
女性は男性と違い割と単純な作業の繰り返しを、嫌がらずに行う傾向が有る。
その結果が予選会で発揮されていた。 男子も慌てて行ったのだが、基礎訓練とは長い年月で身に付くものだ。 コーラル連邦から此処までの僅かな日数でどうなる物では無い事は男子の魔法試合が物語っていた。
女子の魔法が始まる。 新人戦の試合では基本はそんなに変わらない、多少の種族属性が現れる位だった。
しかし、その種族特性は時には大きな違いとなってくる。 大陸予選に於いても、その種族特性の違いが大きな差として表れていた。
その中でも魔人族を抑えて二位に成ったことは、彼女の自信に繋がっていった。 魔法とは魔力操作で魔力を自身の体の外に放出する事で具現化する。
体外に放出する時のイメージが最終的に魔法として具現化するのだ。 このイメージの補佐をするのが魔法の詠唱であり魔方陣である。
一般的に魔法の詠唱とはどの様な魔法を具現化するかというイメージの補佐である。
そして魔法陣とは魔法を具現化するときの規模に当たる。 魔法の具現化に伴う規模とは魔力量の規模による物と考えられていたのだが、魔法陣の構築で規模の制御が出来ると考えられるようになってきた。
実際にはどちらも『当たらずとも遠からず』と云える。 魔法の種類も規模もイメージで決定されていた。
そして魔法師の基礎訓練とは魔力を体内に循環させる事を意味していた。
魔法師は実際の魔法が行使できるように成ると、その魔法の行使 自体に目を向ける傾向が有った。
その結果が、火系統で有ればファイアーボールの行使だったり、ウォーターボールだったりを練習する事に成る。
実際にはそのような小手先の技術は必要ないのだ。 この事は、古今東西の魔法師が唱えている事なのだが、どうしても見た目に捉えられてしまうようだ。
カールに憧れを持っている少女はカールの教えを忠実に守る事で予選を二位で終えていた。 本大会でも彼女は二位を死守した。
この二位は大きな結果を齎す事に成った。
最後は男子の武術だ
彼もこの短時間で急激に成長した一人と云えた。 彼は予選の大事な場面で最大の効果を生んでいた。
彼が試合の中で偶然の産物にしろ魔力甲冑を展開し勝利を手にしていた。 その時の感触とイメージを何回もシミュレーションをしてみた。
カールの教えは魔力甲冑から身体強化に至る事だった。 身体強化に至れば、骨を強化し筋肉を強化する この強化で通常の数倍の力を発揮する事が出来るのだ。
防御として魔力甲冑も大事な事なのだが、身体強化を図って攻撃のスピードと威力を増す事に主眼を移していた。
彼はクーガ最終日にまた少し成長を体験する事に成った。 今までは偶然に出来る事が有る魔力甲冑をある程度、自分の意志で纏えるようになっていた。
彼はこの魔力甲冑を纏えるようになった事で今までは出来なかった攻撃を繰り出せる事に成った。
これは防御を魔力甲冑に任せられるからである。
それこそ、一日に何回、何十回となくだ。 彼はそんな疑似体験の中での事だが少しづつ、自身の意思で魔力甲冑が纏える事に成って来た。
魔力甲冑や身体強化は自転車と同じである。 通常は一度でも成功し体験すれば、次第に実用に耐える所まで成長する事が出来た。
彼も大陸予選から此処までの道中を全てイメージトレーニングに費やしていた。
武術とは武道家を指す事が多い、彼らは動きを制限される重たい甲冑を着込む事はしない。
スピードを重視するためだ。 その為にある程度は防御を意識しながら戦う事に成る。
その為、必殺技を繰り出すには十分な予備動作が必要だった。
この予備動作とは、繰り出すための時間的余裕を作る事と自身に力を貯める行為だった
しかし、この行為は防御力が弱い武道家にとっては諸刃の刃だった。
武道家の試合とは相手の攻撃を反らし、自身が受けるダメージを最小にして相手に最大のダメージを与える事だ。
その武道家の最大の弱点である防御力を強化する技が魔力甲冑であり、身体強化だった。
彼はこの予選で掴んだ感覚を何度もシミュレーションする事で自分の物にしつつあった。
彼は本大会でこの技に磨きを掛けて行った。 彼の心の中には既に優勝と云う文字は消えていたのだ
只、幼いながらも武道家としての本能から新しい技の完成を目指しているだけだった。
結果的に彼から優勝のプレッシャーが消え、無心で試合を行っていたのだ。
当然の事ながら試合の合間にカールからの聖魔法を受けていたがカールも彼の集中力を切らさないように努力をしていた。
こうして彼の優勝で新人戦は大会予選に続き総合優勝を勝ち取った。
この日、ハイランド王国チームはお祭り騒ぎとなっていた。 翌日は初等学部の優勝を掛けた大勝負が控えていた。




