第17話 いつもの日常に!(王都凱旋と怒りのマティルダ)
◇◇怒りのマティルダ
今回、発生した魔物の暴走の真実を語るマティルダ・フォン・アーレンハイトとそれを大人しく聞いている国王たちだが まさか五歳のカールが今までで最悪の魔物の暴走を解決に導いたとは思いもしない事だった。
「国王陛下並びにお集りの皆様に申し上げます 今回、発生した最悪の魔物の暴走は王都より皆様方のご息女をお招きした道中でカールが異変の前兆に気付いた事より端を発します。
衛星都市キールに着いたカールより私と衛星都市キールを守り領軍を束ねるシュワルツ・フォン・アーレンハイトの三名で話し合いがもたれました。
幸いな事にカールは三年前の目覚めの儀式後、衛星都市キールを守る領軍を指揮した事がございます。 お陰で皆はカールの指示に疑問を挟みませんでした」
この様に始まった話から、衛星都市キールを守る城壁の軟弱性を憂いたカールがクーガで散々、城壁を作ることは練習したからと新しく作り直した事などを話していく。
国王たちは、最早カールの異常性には慣れたつもりだったのだが、唸るしかなかった。
こうして、カールが到着してから再訓練をされた兵士たちがお互いに連携しつつ最悪の魔物の暴走を収めた事を話した。
「処でマティルダよ 今回、最悪の魔物の暴走と云われて居るがどれ位の魔物が襲来したのじゃ?」
「はぃ はっきりした数は不明でございますが 我が衛星都市キールを守る領軍五千名が仕留めた魔物が約五万匹ほど ご支援頂いた兵が仕留めた魔物が約二万匹位かと」マティルダから語られた魔物の数に国王陛下より宰相のミューゼル侯爵の方が驚いたようだ。
宰相のミューゼル侯爵は王国内で発生する魔物の被害の報告を聞いている。 今回、アーレンハイト家で発生した魔物の数は異常な数字だった。 もしアーレンハイト家で食い止められていなかったら王国中に被害が起こったかもしれない。
この際だとマティルダは続けて国王陛下に話をした。
「今回の異常とも取れる魔物の暴走で我が衛星都市キールを守る指揮官と領軍五千名は多大なる貢献を致しました。 何卒、ご褒賞のほどお願いいたします。」マティルダの少し図々しいお願いながら此処に集いし者たちは既にマティルダの思惑通りの反応をしていた。
本来なら衛星都市キールを守る指揮官と領軍五千名への褒賞はそこの領主たるフィリップ・フォン・アーレンハイトが行うべき物なのだ それを国が派遣した支援部隊と合わせ国難と位置付けてしまったのだ。
その結果、国難に対し多大なる成果を出したのだから褒美をくれという論法にすり替えていた。
マティルダも学生時代に散々、マルガレータに鍛えられていた。
こうしてアーレンハイト家で武の要であるシュワルツ・フォン・アーレンハイトは法衣男爵から法衣子爵に陞爵されることになった。
また、直接指揮をした五名の指揮官も騎士爵へ陞爵される事が決まった。
これで全て終わりだろうと考えていたマティルダは国王陛下から思わぬ反撃に声が出なかった。
これはアーレンハイト家で魔物の暴走が起る前日、自分たちの息子や娘が王宮全てに対し根回しを行っていた内容を聞いたからだ。
その内容とは元三女帝と云われた彼女たちは疎か当主のフィリップ・フォン・アーレンハイトにも知らせていない驚きの事実だった。
そして王宮側は了承してしまっていた。 マティルダにとっては寝耳に水 これ迄の苦労は何だったのか!
云い知れぬ怒りが沸いていた。
「陛下!」思わずマティルダは声を上げていた。
「ま。。 待て! マティルダ 待つのじゃ!」マティルダが上げた声には無自覚ながら殺気が込められていた。
元三女帝の中でもマティルダは武闘派として有名である、気性は竹を割ったように真直ぐでさっぱりしている
横に座っていたマルガレータもそっとマティルダの腕を抑えた程だった。
「マティルダ 落着け! 話は終わっておらぬ まだ続きがあるのじゃ」
漸く静まったマティルダに国王は続きを話し出した。 話はクーガ終了後に訪れた聖女ミューア・ルミナリア様の筆頭シスターでソニア・デラクルスが齎した言葉だった。
更に姿見による聖女ミューア・ルミナリア様との会談と続き、国王たちも自分たちの娘が選んだ交際相手がどのような者であるか理解をした事などが話された。
そうなってくると次に問題になるのがカールの地位である、幾らカールが伯爵家の子息でも継承権の低い五男である。
何の咎もない者から継承権を奪う事などできない。
頭を悩ませていた所に上位の継承権を持つ者共からの依頼だ、それこそ渡りに船とばかりに了承を出した事を国王陛下に代わり宰相のミューゼル侯爵が話した。
此処までの話を聞いて、如何に自分たちの息子や娘が愚かかを実感したと共にカールの異常性を思い知らされた。
更にマティルダが自分の口から話したカールの功績である。 部下たちが揃って陞爵されたのだ、カールはそれ以上の褒賞が与えられても不思議ではない。
こうして誰の目にも明らかな事としてカールのアーレンハイト家次期当主が決まった。
この時、現当主のフィリップ・フォン・アーレンハイトだけが蚊帳の外に置かれて居る事に誰も気が付いて居なかった。
全ての話し合いが終わり、解散を迎えるころにはマティルダの様子は見違える物になっていた。
あの儘だったら、武闘派のマティルダを抑える為に近衛師団を用いなければならない所だったのだ。横に座っているマルガレータもご機嫌である。
長年、腹黒貴族との権謀術数を見てきた国王は何か違和感を感じていた。。。
心に広がる疑惑、 マルガレータを見て気が付いた
「のぅ~ マルガレータ! お主から現当主のフィリップ・フォン・アーレンハイト経由で知らされた今回の魔物の暴走件だが、いやに早かったな?」国王の言葉にマティルダやマルガレータの額から汗が滴り落ちる。
「実際の魔物の暴走が起きる前に我らの娘を王都に送り出した事は聞いている その娘たちが王都に着くより遥か前に今回の魔物の暴走が報告されておる 何故なのじゃ?」 最早、此処まできたら誤魔化すことは出来ないと観念したマルガレータが国王たちにカールの作った姿見の事を話し出した。
国王たちも既に一度、実物を見ているのだ 理解をするのは早かった。
しかし あの姿見は聖女様方だけが持つアーティファクトだったはず それをカールが作ったとは 国王はカールから直接、今までの事、全てを聞き出すことを心の中に誓った。
次の日、王国主催のアーレンハイト家を襲った未曽有の魔物の暴走を討伐した将兵に対し褒賞の宴が開かれた。
そこには当然、現当主のフィリップ・フォン・アーレンハイトに妻のマルガレータ・フォン・アーレンハイトと実際に魔物の暴走の対応にあたったマティルダ・フォン・アーレンハイトの姿もあった。
本来なら嫡男のアウグスト・フォン・アーレンハイトも姿を現し挨拶をしなければならないのだが、彼は既に法衣とは言え別の貴族家に成っているため、この宴には招かれていなかった。
現当主のフィリップ・フォン・アーレンハイトはこの事実を妻のマルガレータ・フォン・アーレンハイトから昨日聞いたばかりであった。
こうして国王主催の宴が開かれたことでアーレンハイト家を襲った未曽有の魔物の暴走は王国中に知れ渡った。
この騒動の中、嫡男のアウグスト・フォン・アーレンハイトを初めカールとカトリーヌ、マリアを除く息子や娘たちは沈黙を守った。
その頃、ハイドに上空より見守られ、カールからの指示で進んでいた行軍は今までの激戦が嘘のように何もなくまるでピクニックの様相を呈していた。
王都で華やかな宴が開かれている頃 ミケーネ山脈麓まで進軍していた兵士たちは巨大な湖に目を奪われていた。
この湖を見渡せる地に暫く拠点を置く事に成った。 やはり部隊にとっては何回も行う訓練より一回の実践の方が技術は身に付くと云った事だろう
何回も行った拠点の設置は見違えるものとなっていた、各自が何をどうするかが骨身に染みているのだ。
カールはここを拠点としてミケーネ山脈の調査を行う事にした。 それに先駆けしなくてならない事が有る カールはヨウコが見つけたダンジョンの調査を行おうと思っている。
何故ならアーレンハイト家を襲った未曽有の魔物の暴走の真の原因はこのダンジョンだと思っていたのだ。 原因は不明ながらこのダンジョンから魔物が湧き出し、ある一定量を超えると魔物の暴走が発生する カールはそう考えていた。
その為の調査である、しかしこのまま直ぐに調査は行えない。 それは母マティルダが不在の今、シュワルツと共にこの衛星都市キールを任されているからだった。
カールは暫く考えた末にシュワルツに相談する事にした。
「シュワルツ殿 少しご相談が有るのですが、宜しいでしょうか?」カールに神妙な体で相談され逆にシュワルツの方が緊張をしていた。
「カール様 何でしょうか?」
「いま この衛星都市キールを母上よりシュワルツ殿と一緒にお預かりしているのですが 私が少し不在になっても大丈夫でしょうか?」シュワルツにはまたカールが何か企んでいることが直ぐに分かった
「カール様 今度は何をなされるお積りなのでしょうか?」こう聞かれてしまえば話さざるを得ない
カールは自分の計画を素直に話し許可を得る事にした。 ここまでの経験で下手に誤魔化すより正直に話して協力を仰いだ方が上手く行く事を知っていた。
これが領主の子供でも只の子供で有ったなら大反対をしているが、カールには此処まで成した実績がある カールから話を聞いたシュワルツはカールの計画に賛成の意を表した。
「ではミケーネ山脈麓にあるダンジョンの調査に行ってくるね 多分、二日もあれば帰ってくるから」カールの気軽な一言に隠された真実に気が付いたのだが、黙っているだけの分別がシュワルツには残っていた。
カールがミケーネ山脈麓にあるダンジョンの調査に出かけた後、先ほど気が付いた真実が口から零れていた。 兵士たちが十日を掛けて出かけたミケーネ山脈までどうやって行くのだろう?
しかし、これまで成された破天荒な行動に「カール様だからな。。。」と呟くだけでシュワルツは日常に戻って行った。




