第 5話 お披露目会が終わり 新たな日々の午後
◇◇昼食の後 午後の授業が始まる
「カール様 基礎訓練を始める前の準備運動を行い、その後 軽く屋敷の周りを走ります。」
ハワードはカールの基礎体力を確認するためにカールと並走をするのだった。
通常、基礎訓練は各レベルにより違ってくる カールのようにレベル1の場合 屋敷の周りを走るだけで限界を迎える。 カールの場合、ハワードと並んで屋敷の周りを走り そのまま基礎訓練の続きが出来た。 実はカールは無意識に身体強化の魔法を使っていたのである。
その事実に気が付いたのは やはり母達 アグネスとマティルダであった それは体中を巡る魔力の流れを察知した結果だった その淀みもない滑らかな魔力の流れは 到底、3歳児とは思えない
通常は まず 魔力を感知することから始まる この魔力の感知に1週間は掛かると云われ、天才と云われたアグネスやマティルダもこの魔力の感知には3日掛かっている。
魔法師も剣士も身体強化は基本中の基本である。 この身体強化が出来て初めて次の段階に進める
まず魔力を感じ、その後に意識して魔力を体内に循環させ 最後には無意識に出来なくてはならない こうする事で必要な時に必要なだけの魔力を体内に循環させる事が出来る。
これが出来ないと魔法を行使する時に魔力の循環も意識しなくては成らないからだ ここまでは魔法の基礎である
カールは既に魔法の基礎が出来ている事を証明してしまった。 通常は此処までに成るのに早くても1年掛かる アグネスは半年マティルダは4か月で出来ている
だから アグネスとマティルダは3ヵ月の基礎体力を付けた後に徐々に身体強化を教えようと考えていたのだった。 それが初日から基礎体力は不明ながら基本中の基本の魔力循環は完璧に出来ている 強いて言えば今からでもアグネスやマティルダからの指導を受けられる状態である。
困った! 午後の初めの屋敷の周りを走ると謂う行為で全てのスケジュールが崩壊してしまった
でも此処でボ~っとしていられない 準備の後の剣技に移った
「カール様 身体強化の話の予定でしたが 既に完璧に出来ている様ですので 剣技に移ります。」
剣技は剣の持ち方から始まる。 「カール様 剣はこの様に持ちます。 剣の峰を親指と人差し指の間に来るように握るのが基本です こうする事で刃が切る物に対し垂直になります こうしないと剣の刃が滑り 最悪 剣が折れてしまいます」
ハワードは剣の持ち方から剣の振り方を実際に振らせながら説明をした 午前中の授業と同じでカールは一度の説明で理解した 2回、3回と剣を振るうと違和感なく自然と流れるような剣裁きに成って来た
「カール様 宜しければ 軽く 模擬戦をしましょうか?」
ハワードは次のレッスンとして準備していた内容を話さなければ成らなかった
「カール様 初めは軽くです 良いですね! では私が始め受けますから 攻めて来てください」
カールはハワードの動きをじっと見ていた ハワードの身体の動き、目の動きに重心の移動に呼吸などである。
「ハワード、行くよ!」
言葉と共にカールは滑らかな動きから瞬間移動とも云われている瞬歩でハワードに迫り ハワードの身体に模擬刀を軽く触れた。 え。。。。 えぇ~
今の動きを追えたのはアグネスとマティルダだけであった。
「カール様 いま 姿が一瞬消えませんでしたか?」
戸惑いを隠せないハワードはカールに呟いた後 力なくマティルダを見た。
マティルダは今の瞬歩の前にカールがハワードの動きをじっと見ていた事に気が付いて居た。 あれは武術の達人が無意識に行っている動きである。
「カール様 次は私から攻めても良いでしょうか?」
ハワードはカールの剣の受けを見定めようとした 先ほど教えた剣の受け流しや守り等である。
「ハワード 良いよ!」
ハワードは始め剣圧を抑えて攻めたが攻めては受け流されている内に全力で攻め続けた しかし全ての剣戟をカールは一歩も動かずに凌ぎ切った。
「ハワード 止め!」マティルダの鋭い制止の声が響いた。 ハワードの額からは汗が滴り落ちていた。
「ハワード 少し早いが休憩して 魔法を教えなさい!」
マティルダはアグネスと素早く打合せを行い この時点で剣技は自分が担当すると決めた。
次は魔法である。 魔力の循環は既に完璧に出来ているので この時点でアグネスが担当しても良いのだが アグネスもカールが現時点で何処まで出来るか興味があった
休憩後 魔法訓練用に用意された広場に移動した 広場には魔法の標的として複数の的が準備されている 崖の上に準備された高所標的から水中に準備された水中標的まで
ハワードは中級の為 3種類の魔法が出来る 火魔法、水魔法、風魔法の3種である。
「カール様 まず火魔法を使い 20メートル先にある標的を狙います。 火魔法で標的を狙う時の注意点は速度と火を小さく収束させて狙う事です。 ファイアボール!!」ハワードは短縮系の呪文を唱えファイアボールを標的に向けて放った 直径20センチ位の火の玉が 標的に向かい進み 標的に命中した。
ハワードは中級だけあって魔法を放つのに本来の詠唱を必要とせず、短縮系を使用した。 本来は詠唱をした方が魔法のイメージがより鮮明になり威力が増す。
これ迄の事からカールが容易く火魔法を扱えるだろうと思い 実践的な要領を話した。 火魔法には何種類かある 標的を直接狙う ファイアボール 辺り一面を覆うファイアウォール 等である ハワードが使える攻撃的な火属性はその2つである その他に嵐の如く敵を殲滅させをファイアストーム 等 広範囲魔法が存在する
「カール様 火魔法からご自分が出来そうな物を試して下さい。」
「判った! じゃ~ ファイアボールからね」
当然の如く無詠唱で放たれたファイアボールは直径にして1センチ位の無色の物だった
的に当たった瞬間 何事もなく 小さな穴を開けて通過し崖肌に達した。
始めハワードは果たしてファイアボールなのかの判断が出来なかったが、綺麗な円として命中した的が溶けていた事に高熱で焼き切った事を知った。
アグネスはカールの放ったファイアボールの魔力に驚いた カールは体内で循環させた魔力を放つ瞬間だけに威力を込めたのだ、その結果 魔力は凝縮され威力が何十倍にも圧縮されていたのだ これはアグネスが最近 出来るようになった魔力量を制限したうえで威力だけも増す方法だったのだ。
やっぱり 天才か!




