はじめてのググり
声の主は宿の主人のおじさんだった。
「早速手伝ってくれ!」
私は気持ちを整理しきれないまま声のする方に向かった。
「コックが急病で倒れてしまってな。お前、料理できるか?」
できるわけないだろ。
ん?ググってみるか…。
「やってみます」
「材料はここだ」
「はい」
調理場といっても、いいとこ明治時代だ。
冷蔵庫なんてあるわけない。
牧のコンロ、気の器。ただ、包丁だけ異様なほど鋭利だ。
材料を見てみる。
食材はほとんど見覚えがある。
ジャガイモのようなもの、ニンジンのようなもの、キャベツのようなもの。
荒々しい獣の肉。
「シチュー的なものができるかな?」
そうとなればさっそくググってみる。
「シチュー 作り方」
ルウがなくても作れるレシピがいくつかあった。
牛乳があればいけそうだ。
私は材料を見ながらなんちゃってシチューを作り始めた。
「お!やってるな!」
「はい」
「なんだその白いのは」
「シチューです」
「シチー?」
「シチューです」
「なんでもいいけどうまそうな匂いだな。味見させてくれ」
「どうぞ」
「…。うめぇ!!」
「よかったです」
「おめえ、コックか?」
「いや、ググっただけです」
「ググ?」
「いや、なんでもありません」
「どうでもいいからそれをたくさん作ってくれ!」
「わかりました」
私はとりあえず宿の主人の信頼を勝ち取った。
寝る場所が確保できただけ幸せだ。
その日は何杯分のシチューを作っただろうか。
気づくのが遅くなったが、この世界の人間は食材をほとんど単独で食べている。「調理」という概念がないように感じる。
コックは何をしているのか?
文明の発達していない世界で文明はかなりのアドバンテージだ。
今日は疲れた。
明日、目が覚めた時はどの世界にいるのか。
不安を抱きながら布団に入った。