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二人乗りの帰り道〜田舎に住む女子高生は、うまく恋を始められない〜  作者: 楠結衣


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アドバイスと豚の生姜焼き



 数日後、帰りの車窓から田植えの終わった田んぼをぼんやりと眺める。


 圭君と両想いになってから視線を感じることが多くて、圭君ファンに体育館裏に呼び出しされたらどうしようと芽依に言ったら「西高の体育館、山の上じゃん。ないない」と笑われた。


 田舎で私立の西高は土地が広くて、体育館も丘の上にある。体力のない私は、体育の度に移動だけで息が上がっている。確かに体育館裏はないなと思った。


 織姫駅で降りると、見慣れた二人組がベンチに座ってメンチカツを食べていた。


「よおっ、有名人!」

「葵ちゃん、お帰り。今や時の人だね」


 藍川君と石ちゃんが、けらけら笑っているが、私は頭を抱えたくなる。

 どこまで噂が伝わっているのか、もはや聞くのも恐ろしい。


「渡辺さんも立ってないで座れば?」

「えっと……」

「もしかして、あんなに相談に乗ったのに、報告もしないつもりとか無いよね?」

「——お邪魔します……っ」


 藍川君の指差す隣に、ささっと腰を下ろす。

 何だか蛇に睨まれた蛙な気持ちと言うか、藍川君に勝てる気がしない。


「渡辺さんと相沢は、付き合うことになったわけ?」


 相変わらず直球の質問を投げて来るので、動揺から視線が分かりやすく左右に揺れてしまう。

 それについては、私もちょっと、いや、かなり気になっている点なのだが、相沢君に聞けていない。


「えっと、多分……?」

「はあ? 多分ってなんだよ! 最初からちゃんと(・・・・)話してみて。それで判断するから」


 それから私は、藍川刑事の取り調べを受けた。

 藍川君の求めるちゃんと(・・・・)基準が高くて、真っ赤になりながら質問に答える。

 朝の教室で、電車組の登校時間を忘れて、みんなに立ち聞きされたくだりは、藍川君と石ちゃんの二人から生温かい目で見られてしまい、穴があったら入りたかった。


「なるほどな。やっぱり噂と本人から聞くのは違うもんだな」

「そうだね、かなり尾ひれ付いてたね」


 噂の内容を聞きたいような、全力で耳を塞ぎたくなるような気持ちで二人を交互に視線を移動する。

 藍川君の口角がきれいに上がる。


「それで、『罰ゲームの告白』は話したのか?」

「あ、……うん」


 次の日に健介君の話をして、もし健介君がまだ好きだと言ったらどうするか、と聞かれた話もして行く。

 石ちゃんが、残念な子を見るような目で見て来る気がしたけど、何か変なことを言ったのかな、と思いながら藍川刑事の取り調べを受けていく。


「じゃあ、渡辺さんは、相沢の質問に、言われていないことを想像出来ない、本人からの言葉が真実だって答えたってこと?」

「うん、そうだよ」


 藍川君の質問に、こくりと頷いた。


 ——ぺちっ


「それ、最悪な答えだな」

「ふえっ?」

「ちょっと相沢に同情するわ。渡辺さん、その答えはないわ……」


 おでこが痛むけど、藍川君の呆れた目で言われた「最悪な答え」と言う言葉に驚いて、涙が引っ込んだ。

 そんなに酷いのかな、と石ちゃんに助けを求めるように視線を向けると「葵ちゃん、どんまい」と頷かれてしまった。


 はあ、と大きくため息を吐いた藍川君が口を開く。


「あのさ、相沢から見ると、その答えって、健介って奴に好きだって言われてないから想像出来ないけど、もし言われたら想像出来る、考えるって聞こえるし、……健介本人からその当時の罰ゲームの真相を聞いたら、渡辺さんにとってそれが真実に変わるって事だろう?」

 

 目の前が真っ暗になるって本当に暗くなるんだな、と暗くてよく見えない目で遠くを見つめて、現実逃避をしてしまいたくなる。

 藍川君が、やれやれとため息を吐いた。


「それは相沢、付き合って、とは言えないわ。知らない奴だったらその答えでも良いけど、仲のいい幼馴染で、ずっと渡辺さんに片想いしてた話聞いてたら、そんな曖昧な答えの渡辺さんに、付き合おうって俺なら言えない」


 目の前が真っ暗を通り越して、相沢君に申し訳なくて、泣きたくなった。

 

「渡辺さん、——恋が始まりそうで、始まらないな」


 藍川君に呆れた目を向けられる。本当にその通りだな、と肩を落としてしまう。


「協力するって言っただろ。最後まで一緒に考えてやるよ。相沢と土曜日の午後に、どっか出掛ける約束してるのか?」

「えっ、あ、うん。北丸公園に行こうって言われてる」


 藍川君の唇が弧を描き、涼やくかな目に真っ直ぐ見られる。


「その公園、北高の近くだろ? 多分、健介って奴が来ると思うよ」

「ふえっ?」

「まあ来なかったら、相沢に付き合う話を振って、健介って奴の話の誤解を解けばいい。それで解決。もし、そいつが来たら……」

「来たら……?」


 ごくっと唾を飲み込んで、藍川君の続きをドキドキと待つ。


「相沢が立ち去ろうとしたら、絶対引き留めろ。三人で話し合うように持ち込めば、成功だな」

「えっ……それだけでいいの?」


 藍川君が、そうだ、と自信たっぷりに頷く。不思議と藍川君が言い切ると、そうなのかなと納得してしまう。

 

「渡辺さん、ピンチはチャンスって決まってるから。これは、渡辺さんのトラウマを全部リセット出来る大チャンスだと、俺は思う」

「そうなの、かな? ——どうして、藍川君はこんなに色々相談に乗ってくれるの……?」

「はあ? 今頃な質問だな。さて、どうしてでしょう?」


 最初は面白いから揶揄っているのかな、と思っていたけど、すごく親身だしな……と、うーんと首を捻ってしまう。


 ——ぺちっ


「痛い……っ!」

「今度の勉強会で、渡辺家の梅干し食べたいからだよ。ついでに俺の好物、豚の生姜焼きで手を打つよ」


 きれいに口角を上げた藍川君は、渡辺家のご飯が気に入ったらしい。

 私は藍川君の『ピンチはチャンス』の言葉を胸に刻み、頑張ろうと気合いを入れた。

本日も読んで頂き、ありがとうございます(*´∇`*)

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[良い点] 藍川くん、大人だなあ……。 自分の気持ちを抑えて隠して、好きな女の子の幸せを優先してくれるなんて……。 こういう切ない感じ、青春っぽくて良いですね! あと、豚の生姜焼き、おいしいですよね…
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