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はいど・あんど・しーく。②




「ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう。……よしっ」


 木を向いて視界を塞いでいたエルルは約束通り十を数え終わった。

 振り返ればそこにはもう誰もいない。しん、と静まり返る森を見渡しながら、エルルはふんすと意気込んだ。


 半ば強制的に決められたかくれんぼの鬼だが、やる気は十分だ。

 久しぶりに家族と遊べる、それだけでエルルには十分なのだ。『見つけられなかった人のお願いを叶える』のは一部怖い面子がいるが、それは全て見つけてしまえばいいだけのことなのだ。


「特にせるちゃんだけでも見つけないとね……!」


 エルルの中で『お願い』のハードルが一番高いのはセルシウスだ。

 イフリートやノームは思考回路がむしろエルルより幼いからそこまで不条理は求められない。

 ライカはどこまでもマイペースだが、だからこそ逆に誰かに理不尽なことは求めない。

 バハムートからのお願いがあるとすれば生活態度の改善などだろう。


 エルルだって大事な家族のことはしっかりわかっている。

 セルシウスはその中でもとりわけエルルへの執着が強い――とエルルは思っている。


 バハムートと合わせて、三人でずっと昔から一緒に過ごしてきた。

 エルルにとってはもう親のような存在ともいえる。

 共に過ごしてきた時間が長いからこそ、よりいっそう二人の考えがわかるのだ。


「……ぶるぶる。何をさせられるのか」


 正直に言えば、別に何を求められても構わない。それだけ大好きな家族なのだ。

 とはいえ『何でも』は身構えてしまう。


「普通のスキンシップくらいならいいんだけどねー……」


 セルシウスの場合、それ以上を求めてきそうで――それは、困るというか怖いというか。


「とにかく、時間もあまりないんだからさっさと見つけないとね!」


 制限時間は昼食まで。具体的にはエルルが空腹になるまでだ。

 不明瞭な定義だが、エルルの腹時計はそれなりに正確で一日のスケジュールはエルルを基準に作られているほどだ。


「……で」


 いざ探そうと歩き出したエルルの目の前に、さっそく一人が飛び込んできた。

 木のふもとで身体を丸めている少女がいた。すやすやと寝息を立てていて、明らかに隠れるつもりがない。


「ライカちゃん、みっけ」

「……にゃー?」


 エルルの言葉でライカは目を覚まし、寝惚け眼を擦りながら身体を起こした。

 大きな欠伸をしながら立ち上がり、んー、と身体を伸ばす。


「おはようにゃあ」

「おはよ。……かくれんぼだよね?」

「にゃー。ライカは特にしてほしいお願いなんてないから構わないのにゃー」


 そう言ってライカはのほほんとエルルの腕をとり、すりすりと頬ずりする。

 相変わらずの懐いたペットのような仕草にくすぐったさを感じながら、エルルはライカと手を繋いで探すのを再開する。


「それでエルルー。見つける当てはあるのかにゃー?」

「あるよー」

「ふーん。召喚獣を甘く見ない方がいいにゃ」

「ふっふっふ。ライちゃんもそれこそ召喚士(サモナー)を軽視しないほうがいいよっ」


 ライカとの談笑を楽しみながらもエルルは周囲をつぶさに観察していた。

 その中で違和感を見つけ、そこを中心に探していく。草木を掻き分け、盛り上がっている土を発見する。


「ノムちゃん、みっけ」

「なのー!?」


 ぼん、と盛り上がっていた土が膨れ上がり、中からノームが飛び出してきた。

 うわ、とライカも驚いている。観察していなかったとはいえ、エルルが手早くノームを見つけられたことに驚いている。


「なんでなの。見つからないと思っていたのっ」

「ノムちゃんは土の中を移動するからね。移動が終わった土は盛り上がってるか、それを直した後が残るんだよねー」

「えー……見てもわからないにゃ」

「それはほら、ボクはいつもノムちゃんの動き見てたしね」

「あううー。エルルに新しい腐葉土でも仕入れて貰おうと思ってたのーっ」


 首をぶんぶんと振り回しながらノームは両手を挙げて降参する。マスコット然としたノームの仕草はとても愛らしいもので、これがぬいぐるみだったら迷わず抱き締めていただろう。


「それで次なんだけどね。右と左じゃちょっと気温が違うでしょ?」

「にゃ?」

「なの?」


 エルルに言われて左右を見た二人が、確かに違和感を感じ取った。

 左の森の通路はいつも通りだが、右の森の中は少しだけ温かい。言われるまで気付かないほどの小さな違いだが、エルルはそれがしっかりと違和感だと理解している。


 このまま、と森の中を歩き出す。指先を舐めて湿らし風に当てると、生暖かい空気が流れてくる方へ向かって歩いて行く。

 やがて少し大きな木が見えてくる。その洞の中に顔を潜り込ませ。


「ふーちゃんみっけ!」

「のじゃ!?」

「おぉー……」

「すごいのー……」


 木の洞から出てきたのは小柄な少女イフリート。ぱんぱんと土埃を払いながら不満げな表情を浮かべている。


「ふーちゃんはいるだけで周囲の気温が上がっていくから、それを辿るだけでいいんだよねー」

「ぐぬぬ。妾にそんな弱点があったとは……!」

「それでこれはせるちゃんを探す時にも使えるんだよ」


 そう言ってエルルは三人を引き連れて、今度は気温が低い方を目指して歩き出す。

 ほどなくしてセルシウスはすぐに見つかった。家の裏の泉の中に隠れていたのだ。


「……さすがエルルね。泉が凍らないように気を遣ってたのに」

「うん、せるちゃんだったらそうするって思ったもん。ボクがせるちゃんの気温を辿ってくるのを逆手にとって、凍らないように気を遣うって」


 泉の中から出てきたセルシウスは観念したようにため息を吐く。

 ずっと一緒に暮らしてきた家族だからこそ、お互いの手の内がわかる。


「エルルを抱き締めてすりすりしてペロペロしようと思ってたのに……!」

「あ、うん。無事見つけられてよかった」

「ちくせう!」


 隠す気のない欲求に思わずドン引きするエルルであった。同じくライカやノーム、イフリートも引いているほどだ。

 「なによー。可愛いエルルをぺろぺろしたいのは当然でしょう!?」と感情をぶつけてくるも誰からの賛同も得られていない。


「すりすりしたいのは賛同するにゃ」

「ライちゃん?」

「むしろナデナデしてほしいのじゃ」

「ふーちゃん??」

「ぎゅって抱き締めて欲しいのー!」

「のむちゃん???」


 三者三様の反応を見せられたエルルは困惑するしかない。むしろ真っ正面から好意をぶつけられることに慣れてないエルルは顔を赤くして慌てふためいてしまう。


「さ、さあ早くハムちゃんを見つけよっか!」

「んー、でもハムがどこにいるかはわかるのかにゃ?」


 ライカの疑問はもっともだ。バハムートは大きすぎる力を人間のサイズに落とし込んでいて、イフリートやセルシウスのように周囲に影響を与えない。ノームのように地面を掘り起こしたりもしない。

 恐らく一番の強敵とも言えるだろう。


「大丈夫大丈夫。ハムちゃんどうせ隠れてないから」

「にゃ?」


 首を傾げるライカやノームとイフリート。セルシウスは「まあそうよね」と頷いている。

 四人と共にエルルが向かったのは他でもない自宅だ。家の扉をガチャリと開けると、「ただいまー」と声を上げる。


 すぐに返事が戻ってくる。キッチンのほうから、エプロンを付けたバハムートが微笑みながら姿を現した。


「お帰りなさいませ。昼食の下ごしらえは済んでいますよ」

「さっすがハムちゃんっ」

「本当に隠れる気がないにゃ……」

「こやつ、欲がないのか……!?」

「ハムは無欲なのー」


 バハムートはエプロンを外すと、やれやれとため息を吐いているライカたちに微笑んだ。


「エルル様が元気に暮らしてくれれば、それ以上は願いませんよ」

「っく。この余裕っぷり……! アンタはエルルの父親なの!?」

「私がエルル様の父親でしたらこんなぐうたらには育てませんが?」

「え、ひどくない???」


 全員で笑うと、家中が笑い声に包まれる。温かな空気は、種族を越えて確かに家族の絆を感じさせた。


 かくして、かくれんぼはエルルの一人勝ちで幕を閉じるのであった。

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