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はいど・あんど・しーく。




「あれ。ハムちゃん……まさか今日って……!」

「お気づきになりましたか」

「用事がなにも入ってない!?」


 スケジュールがみっちり書かれたカレンダーとにらめっこしていたエルルは、今日の日付に何も用事が入っていないことに気が付いた。

 その用事とはもちろん『英雄』として諸国の貴族と会談したり、貢ぎ物を受け取ることだ。


 一日に複数人が訪れることもあり、来る時間がハッキリしていない以上気の抜けた生活を送ることが出来ない。

 朝に目が覚めることにも身体が慣れてしまうくらい、早起きを強いられてきた。


 もちろんエルルがいなくても、バハムートたちが対応することも出来る。

 が、やはりエルルがいるのといないのとでは来訪者たちの態度が大きく違う。

 召喚獣たちが告げ口することを考慮しているとはいえ、それでも彼らの言葉遣いがエルルの目の前よりかは高圧的になるのだ。


 別に召喚獣たちもエルルも態度を変えてくること自体は気にしないのだが、下手に調子に乗られては何をしでかすかわからない。

 釘を刺すことも兼ねて、キチンとエルルが立ち会うべきなのだ。


 その分エルルの自由時間は少なくなる。

 だから基本的に昼前に用事が終わってしまえばラッキーだ。

 残りの時間を好きに使えるが、次の日のことを考えるとあまり無茶なことは出来ないが。


「何でも出来ちゃうよ!?」

「何でも、は言い過ぎかと思いますが」

「朝と夕方にハムちゃんのドーナツが食べれるんだよ!?」


 基本的に用事が入っている日の場合、別のお茶請けが用意されることがほとんどだ。

 さらには外で話すことも多いので、そのお茶請けすらも手を付けないことが多い。


 その分しっかり三食は食べるのだが、エルルにとってドーナツは別腹なのだ。

 四六時中いつでも食べれるなら食べたいと主張するほどだ。


「そういえばそうですね。用事がある場合でも用意はしていますが」

「えっ」


 それはエルルには初耳だ。


「結果として中途半端な時間になるとお出し出来ませんので、イフリートやノームが食べてくれますが」

「えっ」


 バハムートの説明を聞いたエルルはガバッと振り返り、ソファの上でのほほんとしているイフリートとノームに視線を投げる。

 話を聞いていた二人はエルルが振り向くとすぐに小首を傾げて可愛らしい態度で誤魔化した。


「ハムのドーナツは美味しいの!」

「うむ。柔らかいものは普段は好かんが、ハムのドーナツだけは別じゃな!」

「ずるいずるいずるいずるいっ」


 ぷくー、とエルルは頬を膨らませた。

 むくれたエルルに向かって、どこからかともなく現れたセルシウスが抱きついて話を有耶無耶にする。


「むくれたエルルも可愛いわよー!!!!!!」

「つ゛め゛た゛い゛っ!!!?」


 氷の召喚獣なだけあり、まさにヒートアップブレイカー。

 抱きつかれて寒い思いをしているエルルにとってはたまったものではないが。


 落ち着いたエルルはジト目をバハムートに向けるが、バハムートは柳のように簡単にいなしてしまう。


「むー……」

「そもそもエルル様、ドーナツは非常に栄養価が高いんです。食べ過ぎたら太りますよ?」

「大丈夫だよー。ボクいくら食べても太らないしっ」

「……エルル。それは普通の人間の女には言っちゃだめよ?」

「んー?」


 可愛らしく小首を傾げるエルルはセルシウスの言葉の意味を本当にわかっていないのだろう。

 幸いなことにここにいるのはエルル以外全員体型が変わることのない召喚獣たちだ。

 エルルの爆弾発言なぞ大抵は右から左に聞き流される。そもそもエルル以外の人間に興味がないのだ。


「それでエルル様、今日は何をして過ごしますか?」

「ん、そうだねー……」


 バハムートとしては遠出をするなら自身が移動手段であるし、必要であれば弁当の用意もしなくてはならない。

 だから思いつくままの行動は出来る限り避けたいのだろう。その意味はしっかりとエルルに伝わり、エルルはもう一度「んー」と指を顎に当てて考える。


「じゃ、たまには森で遊ぼっか」

「遊ぶか!」

「遊ぶの!」


 エルルの提案にイフリートとノームが真っ先に乗る。バハムートは家事の予定を把握しつつも微笑みながら頷いている。

 一方、セルシウスだけが乗り気ではないようだ。あー、と少し面倒くさそうに頭を掻いている。


「私はパスしてもいいかしら」

「ほう貴様、年甲斐もなくはしゃぐのを躊躇っているな? 『私の歳で森で遊ぶのはなー』とか考えておるな。っふ。年齢など関係ない我ら召喚獣が恥と外聞を気にしてどうする。あーあれか? 遊んでエルルにだらしないところを見せたくないのじゃな。ははは。セルシウスとも言うべき者が矮小よな」


 セルシウスの内心を見抜いたイフリートがこれでもかとセルシウスを煽る。ピリピリとした空気にはなるものの、二人の空気は基本的にこういうものとエルルは理解している。


 元から性質として氷と炎。相性はもの凄く悪い。

 当然セルシウスも挑発に乗ってしまう。

 やれやれ、と心の中でため息を吐きながらエルルはお茶をズズ、と一口。


「何ですっておいこらイフリート今すぐ表に出なさい」

「はっはっは。別に解かしてしまっても構わぬじゃろう?」


 一食触発な空気だが、お茶を置いたエルルの一言ですぐに二人は言葉を失う。


「あーもー、二人とも落ち着かないなら今日のご飯(魔力)はナシだよ?」

「「すいませんでした」」


 一瞬である。もちろんバハムートが出す料理を食べればある程度は魔力を回復できるのだが、二人に、いや、召喚獣たちにとってエルルの魔力は何にも代えがたい極上の魔力なのだ。


 それを抜きにされるくらいなら、目の前の相手との和解だってすぐに受け入れる。

 それほど大きなことなのだ。


「よろしい。で、せるちゃんも遊ぼうよ。久々なんだし」

「わかったわよ。それじゃあ、私はライカを起こしてくるわ」

「そういえばまだ寝てたんだね……」


 話に入ってこなかったから気付いていなかったが、どうやらライカはまだ惰眠を貪っているようだった。エルルからすれば羨ましいことこの上ない。

 セルシウスがライカの部屋に向かうと、何をしようかとエルルはイフリートとノームに相談する。

 真っ先に提案してきたのはノームだった。


「かくれんぼするの!」

「かくれんぼ?」

「なの!」


 精神年齢という観点から見れば、ノームは一番召喚獣たちの中で幼い思考をしている。

 年齢としてはむしろイフリートより年上なのだが、あまりにも長生きしているからかお互いに気にしたことはない。


「ボクはそれでいいよー。みんなと遊べるなら、なんだって楽しいし」

「妾も構わぬよ。たまには童心に返るのも大事じゃろう」


 うんうんと頷くエルルとイフリート。キッチンで昼食の下ごしらえを始めたバハムートも賛成の声を上げている。

 あとは戻ってくるセルシウスとライカが受け入れるだけだ。


 それを見越していたのか、ノームはすぐに追加のルールを提示する。


「エルルが鬼で、見つけられなかった召喚獣(ヒト)はお願いを聞いて貰えるルールにすればいいのー!」

「え?」

「成る程、名案じゃな」

「ふーちゃん???」

「乗ったわその提案! ノームあんたたまには最高のアイデアを出すじゃない! 良いわよこのセルシウス全力でかくれんぼに興じてやるわ!!!!!!」


 困惑するエルルを余所に、召喚獣(かぞく)たちは一斉に乗り気になるのであった。

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